院長の石川(産婦人科専門医)です。
「避妊は何歳まで必要なのだろう」と疑問に思ったことはあるでしょうか。
近年は晩婚化が進んでおり、50代での出産は少数ですが、40代で出産する人も少なくありません。
更年期の症状を意識してくる40代や50代になると、避妊については軽く考えがちになってしまいます。ただ、妊娠する可能性は低いとはいえ、全くないわけではなく、予定外の妊娠も起こり得ます。
実際に私も、めまいや吐き気などの症状があり、生理もこないため更年期なのではないか?と受診された方が、調べてみると妊娠されており、その症状はつわりによるものだった、という経験があります。
今回は、40代・50代における避妊の必要性や適した避妊方法、緊急避妊法についても説明していきます。
この記事の執筆者
石川 聡司
(新さっぽろウィメンズ ヘルス&ビューティークリニック 院長)
北海道大学医学部卒業後、北海道大学病院、帯広厚生病院など地域の中核病院に勤務。品川美容外科にて美容外科医として3年間の研鑽を積み、2021年に婦人科・美容外科を併設した当院を開業。
婦人科全般の診療のほか、美容医療では美肌治療、美容整形をはじめ脱毛・アートメイクなど幅広く対応する。
閉経していなければ妊娠する可能性がある
いったい何歳まで妊娠する可能性があるのでしょうか?
上図の妊娠率のグラフで表されているように、40代以降は妊娠率が低下することが知られています1) 。
歳を重ねるにつれて妊娠しにくくなる、ということはいえますが、問題は年齢ではありません。
妊娠するかしないかは、排卵という卵巣の機能が働いているか否か、によって決まるのです。つまり、卵巣の機能が完全に停止する=閉経という状態になっていないかぎり、年齢にかかわらず妊娠する可能性があるのです。
40代・50代も望まぬ妊娠を避けるために、避妊を行うことが必要
最近の厚生労働省の調査では、令和元年度に45-49歳が中絶を選択した割合は46.8%であったと報告されています(文献2および文献3から算出)。人工中絶の割合は10代に多い、というイメージがあるかもしれませんが、中高年世代においても大きな問題となっています。
閉経が起こりやすい年齢は、45歳から55歳の間といわれています。閉経後は、生理と排卵が完全に停止し、自然な妊娠はできなくなります。
40代や50代になると、生理の間隔が長くなってきたり出血量が減ってきたりすることを経験されると思います。しかし、生理がきている間は、まだ閉経とは言いません。閉経は、生理が1年間こなくなった時点で診断されるからです。
いつが最終月経なのか、というのは、その時点ではわからず、過去に遡って判断することになります。そのため、妊娠を望まない場合は、生理がこなくなってから1年間は避妊を行う必要があるのです。
40代・50代にオススメする避妊方法
40代・50代に一般的な避妊方法は以下の4つです。
- コンドーム
- 低用量ピル
- IUD(子宮内避妊具)/IUS(子宮内黄体ホルモン放出システム)
- 避妊手術
こちらについても順に解説していきます。
コンドーム
コンドームは、日本で最も普及している避妊法です。
避妊率は98%であり4)、男性側の協力が不可欠な避妊法ですが、性感染症の予防が可能であるというメリットがあります。
コンドームの破損や、精液漏出というリスクがあることは、いつも考慮しておかないといけません。
低用量ピル
低用量ピルは、女性ホルモンである黄体ホルモン(エストロゲン)と卵胞ホルモン(プロゲスチン)の合剤です。このホルモン剤を服用することで、排卵の抑制と、受精卵の着床予防、受精しにくくする、という避妊効果があります。
正しく服用できれば、避妊率は99.7%と高い効果が期待できます5, 6) 。
閉経まで服用できるといわれていますが、50歳以上は服用できません。閉経していない40代の場合は、体調に合わせて注意しながら服用することができます5, 6) 。
ただし、お薬ですので年齢だけはなくて、以下の条件などに当てはまる場合は、医師と相談してから服用するかどうかを決めましょう5, 6) 。
- 喫煙している
- 高血圧症である
- 肥満である
低用量ピルはお薬ですので、年齢以外にも気をつけなければいけない点があります。ひとつずつ説明していきます。
喫煙している方
喫煙によって、血管が細くて硬い状態(動脈硬化)になりやすくなります。動脈硬化は、心筋梗塞や脳卒中などの病気の原因に挙げられることから注意が必要です。また、発がんの危険性や妊娠や出産に伴う合併症の発症率も高まることが知られています。
喫煙者は、低用量ピルの服用によって、心筋梗塞をはじめ心血管系の病気などを起こす危険性が高まるといわれています。35歳以上で1日15本以上の喫煙をしている場合には、低用量ピルの服用を控えるようにしてください5, 6) 。
高血圧症の方
高血圧は、喫煙と同様に動脈硬化の因子になります。前述のように、動脈硬化は、心筋梗塞や脳卒中などの心血管系の病気を引き起こす原因になります。
コントロール不良な高血圧である場合は、低用量ピルの服用によって、これら心血管系の病気を起こしやすくなります。そのため、血圧が160mmHg/100mmHg を超える場合には、低用量ピルの服用を控えるようにしてください6) 。
肥満の方
太っているか痩せているかを判断する基準として、体格指数Body mass index(BMI)が用いられます。
BMI は、体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)で算出されます。
BMI が、18.5 未満であれば「低体重(やせ)」、18.5-24.9 が「普通体重」、25 以上が「肥満」とされています。BMI が 22前後 になるときの体重が標準体重といわれています。
BMI が 30 以上である場合には、低用量ピルの服用を控える必要があります。
肥満は血栓症の発症リスクと関連し、BMI の上昇とともに発症リスクが増大するといわれています5) 。それに加えて、低用量ピルを服用すると血栓症のリスクがあがるため、肥満者の場合はさらに危ないといわれているのです。
BMI 20-24.9 の人と比べたときに、BMI 25-29.9 の場合 2.4 倍、30以上の場合 5.5 倍といったように、低用量ピル投与による 静脈血栓症の 発症リスクは上昇します5) 。
このように、肥満であると低用量ピルを服用する際にも注意が必要となります。
IUD(子宮内避妊具)/IUS(子宮内黄体ホルモン放出システム)
IUD(子宮内避妊用具)は、避妊の目的で子宮内に装着する器具のことです。IUDには、銅が付加された銅IUD(次項目で説明)や薬剤(黄体ホルモン)が付加されたIUS(子宮内黄体ホルモン放出システム)など、いくつか種類があります。ミレーナ®︎52mgはIUSのことです。
IUDは、受精卵が子宮内膜に着床することを防ぐことで避妊効果を発揮します。
IUSが子宮内に装着されると、付加された薬剤(黄体ホルモン=エストロゲン)が子宮の中で少しずつ放出されます。エストロゲンの作用によって、子宮内膜の増殖を抑えられて内膜はうすい状態になります。
IUSを装着した方の妊娠率は、装着初年度 0.1%,装着後 5 年間で 0.5%といわれています7) 。
装着したIUD/IUSは外れてしまうリスクもあるため、いつもと違う感覚がある場合には、クリニックを受診してもらう必要があります。
この他にも、低用量ピルの服用や避妊具の使用についての注意点はありますので、必ず医師に相談してご自身にあった避妊方法を考えていきましょう。
避妊手術
女性の避妊手術は、手術によって卵管を糸で結んで塞ぐか切断する方法のことをいいます。
一度行うと効果は永続し、避妊率は99.5%と高い避妊効果を有します4)。妊娠機能の回復は難しいため、今後妊娠を望まない方に適した避妊法ということになります。
一般的には出産後、数日以内に行われることが多く、おへその下を数cm切開し卵管を糸で結んで塞ぐことにより行われます。また、帝王切開時に同時に行うこともよくあります。
ただし、低用量ピルを服用することが難しい方には選択肢の一つになるかもしれません。低用量ピルは乳がんや子宮頸がん、心疾患などが疑われる際には服用できません8, 9)。
避妊手術による避妊は、低用量ピルの副作用などの心配はありませんが、妊娠機能の回復は難しくなることや手術治療であることなどから、医師と十分に相談して決める必要があります。
望まない妊娠を避けるための性交渉後の避妊法とは
40代・50代でも、生理が最近来ていなくても、妊娠の可能性と避妊の必要性があることはご理解いただけたと思います。
避妊せずに性交渉をした、あるいは避妊に失敗した、など妊娠の可能性のある性交渉後に避妊を行うためにはどうしたらいいでしょうか。中高年の方の場合も、緊急避妊法は、以下の2つが挙げられます。
- モーニングアフターピル
- 銅付加IUD(子宮内避妊具)
それぞれ説明していきます。
モーニングアフターピル
モーニングアフターピルには、以下の3種類があります。
- レボノルゲストレル法
- エラ(エラワン)
- ヤッペ法
性交渉から服用までのタイムリミットとしては、レボノルゲストロル法とヤッペ法は72時間(3日間)以内、エラ(エラワン)は120時間(5日間)以内です10)。
IUD(子宮内避妊具)
アフターピルの服用で避妊を行った場合でも、嘔吐の副作用がひどく繰り返してしまう方がいます。そのような場合には、このIUD(子宮内避妊具)による避妊を考慮することになります10) 。
IUD(子宮内避妊具)は、前項でも出てきましたが、避妊の目的で子宮内に挿入する器具のことです。効果は同様ですが、緊急避妊法としても使うことができます。
銅付加IUDは、精子の運動性を抑える作用や、精子と卵子の受精を防ぐ作用もあり、妊娠を防ぐ効果は高いとされています。
銅付加IUDを、避妊に失敗した性交渉後120時間以内に挿入することで、緊急避妊の成功率は99%以上といわれています11, 12, 13, 14) 。
避妊はしたのに、生理が来ないなと感じたら
避妊を行ったのに性交渉後に生理が来ない場合には、
- 妊娠
- ストレス
- 肥満
- 閉経
などが考えられます。順に説明していきますね。
妊娠
周期が規則的に来ているうちは、生理予定日が遅れるとおかしいなと感じるきっかけになります。しかし、40代・50代に入ってから生理の間隔が長くなっている場合、妊娠したことを早めに知ることなく過ごしてしまうことがあるかもしれません。
閉経していない限りは、生理不順であって、突然排卵することも考えられるので、妊娠の可能性があることは念頭に置いておくと良いでしょう。
妊娠の可能性のある性交渉をした場合には、妊娠検査薬を用いて調べてみましょう。生理予定日の1週間後から使用できることになっていますが、生理不順の場合、タイミングによっては、妊娠していても陰性と出ることもあります。
基礎体温で高温期が続くことや、吐き気や嘔吐、だるさといったつわりの症状で気が付くこともあります。
不安になる場合には、婦人科で相談して検査を受けることをおすすめします。
ストレス
ストレスも生理不順になる原因の一つです。これは、過剰なストレスを感じると、ストレスホルモンが分泌されることによって、女性ホルモンであるエストロゲンやプロゲスチンが作られなくなるためです。
ストレスによって生理が来なくなった場合は、ストレスを解消することで、それまでの生理周期の回復が期待できます。
とはいえ、すぐに解決できないからストレスに感じているわけで、そう簡単ではないことも多いでしょう。
気分転換を図ること、十分な休息を取ること、バランスの良い食事を取ることなど、体調にプラスに働きそうなことを心がけることで、少しずつでも前向きになるようにしましょう。
ストレスは解消されても生理が来ない場合には、身体疾患などほかの原因も検討しなければいけませんので、クリニックで相談してください。
肥満
肥満によって生理が来なくなること(無月経)が知られています。
一定の体重や体脂肪がなければ、女性の性機能を維持できませんが、太り過ぎはまたホルモンバランスに影響するのです。
肥満には、単純性肥満と症候性(二次性)肥満の2種類があります。
多くの単純性肥満は、基礎疾患がなくて、食べ過ぎが原因による肥満です。
10%未満の少数派は、何らかの基礎疾患があるために生じた症候性(二次性)肥満です。
原因としては、Cushing 症候群や糖尿病、甲状腺機能低下症、多嚢胞性卵巣症候群といった病気などが挙げられます。
これらの疾患には専門家による治療が必要ですので、早めに対応した方が良いでしょう。
肥満のために生理がこない場合には、元の体重に戻せば、生理は回復することが多いといわれています15) 。
閉経
生理周期の日数は25-38日が正常範囲であり、この日数の変動は1週間前後であるといわれています。また、生理の続く日数は3-7日間が正常範囲とされています4) 。
40代や50代であると、それまで定期的にきていた生理の量や頻度も徐々に少なくなり、やがて閉経に至る方が増えます。これは、女性ホルモンの分泌が少なくなるためです。
また、女性ホルモンの分泌が減ることで、頭痛、疲れやすさ、肩や腰が痛い、憂うつになる、ほてり感、だるさなどの更年期の症状を伴うことがみられます。
閉経は、生理がなくなるということだけではなく、全身に影響が出てきます。例えば、骨密度が低下して骨粗しょう症を発症したり、生活習慣病を発症したりするリスクが増えるのです。
注意点としては、閉経は時期を遡って1年以上生理が来ない状態で初めて診断されることです16) 。つまり、いつが最終月経かということは、その場ではわかりません。
そのため、妊娠を疑うような場合には、妊娠検査薬などで確認したほうが良いでしょう。
まとめ
40代後半以降でも閉経していない場合には、妊娠する可能性があることがおわかりいただけたでしょうか。避妊に対する対処法もお伝えしましたが、ご自身の状況に合わせて対策を立てることが重要となります。
なお、低用量ピルなど、女性側で行う避妊方法の多くは、性感染症の感染予防効果はないため、コンドームを使うなどして、避妊と性感染症予防を行うことも大切になります。
また、40代・50代は子宮の異常など婦人科系疾患も増えてくる年代であるため、生理の量が増えたり、不正出血があったりする場合には、低用量ピルを服用する前に検査をしておく必要も出てきます。
気になることがある際には、クリニックでご相談ください。
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