院長の石川(産婦人科専門医)です。
みなさんはご自分の生理周期を把握しているでしょうか?「自分の生理周期は30日ごとだと思う」「次にいつ生理が来るのかしっかりわかっている」という方も多いと思います。
生理周期に個人差はもちろん存在しますが、周期を確認するだけで思わぬ病気がみつかることがあります。
今回は、正常な生理周期が起こる仕組みとその内容、生理周期が短い場合や長い場合に想定される病気について、解説していきます。
この記事の執筆者
石川 聡司
(新さっぽろウィメンズ ヘルス&ビューティークリニック 院長)
北海道大学医学部卒業後、北海道大学病院、帯広厚生病院など地域の中核病院に勤務。品川美容外科にて美容外科医として3年間の研鑽を積み、2021年に婦人科・美容外科を併設した当院を開業。
婦人科全般の診療のほか、美容医療では美肌治療、美容整形をはじめ脱毛・アートメイクなど幅広く対応する。
正常な生理周期
生理(月経)とは、約1ヶ月の間隔で起こり、数日間続く子宮内膜からの周期的な出血のことをいいます。
生理開始日から数えて、次回の生理開始前日までの期間を生理周期といいます。
生理は次のように、「卵胞期(増殖期)→排卵期→黄体期(分泌期)→月経期(生理)」のサイクルを繰り返しています。それぞれの時期で体内の女性ホルモンの分泌量が増減し、子宮内膜が変化します。
- ・卵胞期(増殖期)
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卵巣にある卵胞からエストロゲンが分泌されます。エストロゲンにより、子宮内膜が増殖・肥厚します。
- ・排卵期
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LHサージの影響により、排卵がおこります。
- ・黄体期
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排卵が終わった卵胞が黄体へと変化し、プロゲステロンとエストロゲンを分泌します。プロゲステロンは子宮内膜を着床に適した状態に変化させます。
- ・月経期(生理)
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受精卵が着床せず、妊娠が成立しなかった場合、黄体は退縮し、エストロゲン、プロゲステロンが減少します。これにより、子宮内膜が剥がれ、月経(生理)が起こります。次の卵胞が育ち、再びエストロゲンが上昇し始めると子宮内膜が再生し始め、月経(生理)が止まります。
生理の平均的な期間
正常な生理周期は25日-38日となっており、28日-30日が最も多いといわれています1) 。黄体期が14日でほぼ一定であるのに対して、卵胞期の日数は変動が大きく、生理周期のずれや個人差に影響をおよぼしています1) 。
また、正常な生理の持続期間は3日-7日であり、平均は5日間です1) 。
頻発月経 | 正常 | 希発月経 | 続発性無月経 | |
---|---|---|---|---|
月経周期 | 24日以下 | 25-38日 | 39日以上 | 90日以上 |
生理周期が24日以内と短いことを「頻発月経」、生理周期が39日以上と長い場合を「希発月経」といいます。また、3ヶ月以上生理がない状態を「続発性無月経」といいます2) 。
生理周期が短い原因
生理周期が24日以内と短いことを頻発月経といいます。原因として、以下のような病気が関係しています。
- 無排卵周期症
- 黄体機能不全
- 子宮体癌や子宮頸癌などの器質的疾患
病気との関係性
無排卵周期症
生理はありますが、排卵していないため、月経周期が不順になる病態をいいます。月経持続期間も短くなったり長くなったりします。排卵がないため不妊の原因にもなります。基礎体温は低温1相性となります1) 。
無排卵には生理的無排卵と病的無排卵があります。
思春期の生理が始まったばかりのころは、女性ホルモンの分泌が安定せず、無排卵であることがあります。同様に、更年期の女性も更年期障害の症状の一つとして、生理の乱れや無排卵がおこります。
また、授乳期の女性もプロラクチンの影響で無排卵周期症となります。
一方で、体重減少や痩せすぎ、ストレスなどちょっとした環境の変化でも無排卵はおこります。
また、高プロラクチン血症や多嚢胞性卵巣症候群などの病気が原因となっている場合もあります。
- 生理的無排卵
-
・思春期の若年女性
・更年期の中年女性
・授乳期の女性
- 病的無排卵
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・体重減少、痩せすぎ
・ストレス過多
・高プロラクチン血症
・多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)
治療方法は、挙児希望(今後子どもが欲しいかどうか)の有無によって、2種類考えられます。
- 挙児希望がある場合:排卵誘発療法(クロミフェン療法、ゴナドトロピン療法)
- 挙児希望がない場合:ホルモン療法
黄体機能不全
排卵後の黄体から十分なプロゲステロン(黄体ホルモン)が分泌されないことや、黄体ホルモン受容体の機能不全によって、黄体期が短縮して子宮内膜の分泌期変化がおこらない病態をいいます。
基礎体温の高温期が短くなるため、生理周期が短くなります。月経不順や不妊・不育の原因となります。
黄体機能不全の原因としてはさまざまなものが想定されていますが、個々の患者さんで原因が特定されることは少ないといわれています。
検査所見で以下のような結果の場合、黄体機能不全を疑います1) 。
- 基礎体温で高温期が10日以内に短縮(正常な場合は14日)。
- 低温期から高温期への移行が3日以上かかる。
- 低温期と高温期の温度差が0.3℃以内である。
- 高温期に一時的に体温の低下がみられる。
- 黄体期中期の血中プロゲステロン値が10ng/ml未満である。
不妊を治療したい場合、治療方法は以下の3種類です。
- 排卵誘発法:①クロミフェン療法、②ゴナドトロピン療法
- 黄体補充療法:①黄体賦活療法、②黄体ホルモン補充療法
- ドパミン作動薬(高プロラクチン血症がある場合)
子宮体癌・子宮頸癌
子宮体癌は子宮の中(内膜)にできる癌です。子宮頸癌は子宮の入り口(頸部)にできる癌です。どちらも癌の部分から出血することがあり、この出血が生理と勘違いされて、生理周期が短くなったと感じるかたがいらっしゃいます。
定期的な子宮癌検診を受けていない場合、まずは検診や内診、超音波検査で癌の可能性がないか確認します。
生理周期が長い原因
生理周期が39日以上長い場合を「希発月経」といいます。「希発月経」の原因としては以下のような病気が関係しています。
- 多嚢胞性卵巣症候群
- 精神的ストレス
- 体重の増減
- 内科的全身疾患
病気との関係性
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)
両側卵巣の多嚢胞性腫大と月経異常、不妊などがあり、内分泌検査でLH(黄体ホルモン)高値を特徴とする内分泌疾患です。
症状としては、月経異常(希発月経、無月経、無排卵周期症)、不妊、多毛、肥満、ニキビ、声の低音化、陰核肥大などを呈します。
検査所見で以下のような結果の場合、多嚢胞性卵巣症候群を疑います3) 。
- 月経異常(稀発月経、無月経、無排卵周期症)
- 多嚢胞性卵巣(超音波検査で、少なくとも一方の卵巣に卵胞が10個以上たくさん連なってみえること)
- 血中男性ホルモン高値、またはLHが高値で、FSHが正常
治療には、薬物療法と手術療法がありますが、挙児希望の有無によって異なってきます。
- 挙児希望の有無にかかわらず肥満(BMI25以上)の場合はまず減量を行う。
- 挙児希望がある場合
- 薬物療法:排卵誘発法
- 手術療法:腹腔鏡下卵巣開孔術(卵巣に孔を開ける手術)
- 挙児希望がない場合
- 月経異常に対してはホルモン補充療法
- 多毛・ニキビに対して低用量ピル
体重減少性無月経
思春期の女性によく起こり、やせすぎのため生理がなかなかこない病態です。ダイエット、スポーツ、環境の変化など、心身のストレスによって急激な体重減少があり、標準体重から-15%以上痩せている場合、診断されます1) 。
各種検査で、身体にやせの原因となる病気が他にみつからないことが条件です。
治療方法には、以下のようのものがあります。
- 体重回復:適切な食事や運動で標準体重の90%を目指す。
- ホルモン療法:長期に低エストロゲン状態となっている場合は骨量測定も行う。
- 排卵誘発:挙児希望があり排卵障害がある場合は行う。
まとめ
生理は、生理痛やPMS(月経前症候群)、子宮内膜症などと関連付けて、痛みや精神的な症状に注目が行きがちです。しかし、単に周期に異常があるだけでも病気が隠れている場合があります。特に、これから赤ちゃんを産みたいと思っている若い女性の場合は、思わぬ不妊の原因になることがあります。
生理周期に異常を感じた場合は、ぜひお近くの婦人科に相談してみることをおすすめします。
参考文献
- 病気が見える vol.9 婦人科・乳腺外科 メディックメディア.
- 産婦人科診療ガイドライン 婦人科外来編2020. 日本産婦人科学会/日本産婦人科医会
- 生殖・内分泌委員会 本邦における多囊胞性卵巣症候群の新しい診断基準の設定に関する小委員会.本邦における多囊胞性卵巣症候群の新しい診断基準の設定に関する小委員会(平成17年度~平成18年度)検討結果報告.日産婦誌. 59:868-886, 2007