院長の石川(産婦人科専門医)です。
ダイエットは、若い女性を中心に、季節を問わず流行っています。中には明らかに痩せすぎの女性も多く、これ以上のダイエットは必要ないのに、もっと痩せたいと思っているかたも多いです。
過度なダイエットによって痩せすぎてしまうと、生理周期が乱れたり、生理が止まってしまうことがあります。
今回は、ダイエットと生理が来なくなる理由について解説します。
この記事の執筆者
石川 聡司
(新さっぽろウィメンズ ヘルス&ビューティークリニック 院長)
北海道大学医学部卒業後、北海道大学病院、帯広厚生病院など地域の中核病院に勤務。品川美容外科にて美容外科医として3年間の研鑽を積み、2021年に婦人科・美容外科を併設した当院を開業。
婦人科全般の診療のほか、美容医療では美肌治療、美容整形をはじめ脱毛・アートメイクなど幅広く対応する。
正しい生理周期について
正常な生理周期は25日ー38日となっており、28日-30日の女性が最も多いといわれています1) 。黄体期が14日でほぼ一定であるのに対して、卵胞期の日数は変動が大きく、生理周期のずれや個人差に影響をおよぼしています1) 。
また、正常な生理の持続期間(出血が続く期間)は3日ー7日であり、平均は5日間です1) 。
頻発月経 | 正常 | 希発月経 | 続発性無月経 | |
---|---|---|---|---|
月経周期 | 24日以下 | 25-38日 | 39日以上 | 90日以上 |
生理周期が24日以内と短いことを「頻発月経」、生理周期が39日以上と長い場合を「希発月経」といいます。また、3ヶ月以上生理がない状態を「続発性無月経」といいます2) 。
続発性無月経の原因としては以下のような病態が関係しています。
- 多嚢胞性卵巣症候群
- 体重減少性無月経
- 精神的・肉体的ストレス
- 内科的全身疾患
上記のなかでも、体重減少性無月経、いわゆるダイエットの結果、生理が止まってしまった場合についてご説明していきます。
体重減少性無月経とは?
思春期の女性によく起こり、やせすぎのため生理がなかなかこない病態です。ダイエット、スポーツ、環境の変化など、心身のストレスによって急激な体重減少があり、標準体重から-15%以上痩せている場合、診断されます1) 。
各種検査で、身体にやせの原因となる病気が他にみつからないことが条件です。
18 歳以下の若年女性の続発性無月経のうち、体重減少性無月経によるものは、なんと 44%であったことが報告されており、思春期女性において体重減少性無月経は、特に重要な疾患であるといえます3) 。
標準体重は以下のような計算式で求められます。
- 15 歳以上
-
身長 160cm 以上 のとき(身長 cm-100)×0.9
150 ~ 160cm のとき(身長 cm-150)×0.4+50
伸長150cm 以下のとき(身長 cm-100) - 15 歳以下
-
標準体重(kg)=係数 1×身長(cm)3+係数 2×身長(cm)2+係数 3×身長(cm)+係数 4
(係数 1 :0.0000312278 係数 2: -0.00517476 係数 3:0.34215 係数 4:1.66406)
上記の標準体重から15%以上やせてくると生理が止まり、無月経となります。
また、急激な体重減少や、もともと痩せている女性では、体重減少がわずかでも無月経となることがあります。
やせるとどうして生理が止まるの?
卵巣から出る女性ホルモンは、脳の中の視床下部→下垂体→卵巣という順番で調節されています。
やせすぎによって、体重が減少し、栄養状態が悪くなると、身体は限られた栄養を生きるために必要な重要な臓器に優先的に回そうとします。
栄養が足りない飢餓状態の時は、子宮や卵巣などの生殖機能は後回しとなり、今は妊娠したり子どもを育てる状況ではないと身体が勝手に判断します。
その結果、視床下部からの性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)というホルモンが低下し、この影響で下垂体の黄体化ホルモン(LH)、卵胞刺激ホルモン(FSH)が低下します。結果として、卵巣からの女性ホルモン(エストロゲン・プロゲスチン)が十分に分泌されなくなり、無月経や無排卵となります。
生理がこないことによるデメリット
ダイエットでやせることができ、生理がこないくらいであれば、かえって面倒なことが少なく、好都合だと思うかたもいらっしゃるかもしれません。しかし、毎月生理がくることは、見た目以上に女性の健康にとって重要です。
生理が止まり、無月経になると、以下のような心配があります。
- 将来妊娠しにくくなる
- 骨密度が低下し、骨粗鬆症になる
- 女性ホルモンが低下し、女性らしい身体でなくなる
- 妊娠した場合、赤ちゃんに影響がある
まず、正常に周期的な生理が起こらず、無排卵となると、赤ちゃんが欲しいと思ったときに、すぐに妊娠することが難しくなります。
通常、ダイエットが原因の体重減少性無月経は、体重が元に戻れば正常な生理も回復すると言われています。しかし、無月経の状態が長く続いた場合、子宮が小さく硬くなってしまい、治療に時間がかかる可能性があります。
また、女性ホルモンであるエストロゲンが長期的に低下すると、骨がもろくなり、骨粗鬆症のリスクが増えます。骨粗鬆症になると、骨折しやすくなってしまいます。
女性ホルモンは、肌や髪の潤いを守ったり、女性特有の丸みを帯びたカラダをつくったり、女性のカラダ全体の健康を支える役割も果たします。
そして、低栄養の「やせ」の女性が妊娠した場合、その影響はお腹の赤ちゃんにも及びます。妊娠前に低栄養状態だったお母さんから産まれた赤ちゃんは、早産や低体重の可能性が高くなります。
さらに、赤ちゃんが将来、虚血性心疾患、2型糖尿病、高血圧、メタボリック症候群、脳梗塞、脂質異常症、神経発達異常などの生活習慣病にかかる可能性も高くなると指摘されています。
つまり女性の過度なダイエットは次の世代にまで影響がおよぶということです。
生理がこない場合、身体全体へのデメリットが大きいです。
さらに痩せが進むと、もっと深刻な病気に
ダイエットによるやせすぎのため、生理が止まってしまったと知り、自分の身体のために少し体重を増やそうと思うことができるかたは、婦人科の治療で対応できることが多いです。
しかし、中にはさらに痩せすぎてしまい、過度の食事制限をしたり、過食や嘔吐などの異常な食行動をおこしたり、自分がやせていることを認識できなかったり、という方もいらっしゃいます。
このような場合は「神経性やせ症」といって、精神科・心療内科と連携した治療が必要になります。
神経性やせ症とは?
10歳代から30歳代の女性に起こりやすく、標準体重のー20%以上のやせがある状態です。
神経性やせ症は、体重減少性無月経の一種ですが、やせに逃避することで現実のストレスを回避するような心理的要因により、過度の食事制限をしてしまい、著しいやせをきたします。
精神的背景として、過度のやせ願望や身体イメージの歪みが指摘されています。また、多くの患者さんは親子関係の問題、精神的・性的な未熟性、成長拒否、思春期の問題からの逃避など、精神的な問題を合併しています。
通常の既往歴・家族歴に加えて、体重の増減、薬剤の内服(下剤・やせ薬等の乱用の有無)、生活習慣、摂食行動の異常などについて詳しい問診が必要です。
食行動の異常や精神症状の他、体重減少により、無月経をはじめさまざまな内分泌・代謝異常を起こします。
- 標準体重の-20%以上のやせ
- 食行動の異常(不食、大食、隠れ食いなど)
- 体重や体型についての歪んだ認識(体重増加に対する極端な恐怖など)
- 発症年齢:30歳以下
- (女性ならば)無月経
- やせの原因と考えられる器質性疾患がない
神経性やせ症の主な症状は以下の通りです。
- 拒食
- 食行動の異常
- 肥満や体重増加に対する極端な恐怖
- 徐脈、低血圧、低体温
- 低血糖、四肢宇異常、汎血球減少、肝機能障害
- 無月経
精神症状と食行動の異常
神経性やせ症になると、やせることでストレスから回避できるような気持ちになり、やせた状態を維持したがる方が多くみられます。病気だという認識にも乏しく、治療が困難なことがあります。
また、飢餓そのものにより思考力や認知能力が障害されており、異常な食行動を起こしやすくなります1) 。
- やせるための異常行動
-
- 少食、変食、ダイエット食品
- 過活動(ジョギングなどの運動)
- 自己誘発性嘔吐、下剤・利尿薬の乱用
- 飢餓の反動による食への執着
-
- 食に関することへの異常な興味(料理番組・レシピ収集、レストランめぐり)
- 隠れ食い、過食、大量の食品の貯蔵
- 栄養士・調理師などの職を希望する
- 飢餓による精神症状
-
- 気分不安定(抑うつ、不安、過敏性)
- 人格の変化、強迫性
- 集中力、判断力の低下
- 不眠
- 病気、やせ、疲れ、空腹の否定
神経性やせ症と、体重減少性無月経の主な違いは、自分の状態が病気であるという認識の有無と、治療意欲があるかどうかです。
神経性やせ症 | 体重減少性無月経 | |
---|---|---|
原因 | 対処困難なストレス要因に対してやせることでつらい現実から逃れられるような気分になる心理的疾患 | 過度な運動や過激なダイエット |
病気であるという認識(病識) | なし | あり |
治療意欲 | 乏しい | あり |
重症の場合は命に関わることも
単にやせすぎているだけだと、患者さんもご家族も軽く考えていることが多いですが、神経性やせ症は命に関わる病気です。
国内で、神経性やせ症(神経性無食欲症)患者さんのうち 6~20%が栄養失調、不整脈、自殺などにより命を落としています6) 。主な患者層が若年女性であることを考えると、これはとても高い死亡率であり、医師としても見逃すことはできません。
重症例では、命を救うため、緊急入院のうえ、運動制限や栄養療法(高カロリー輸液など)が必要である場合もあります。
神経性やせ症と判断した場合は、原則、精神科や心療内科をご紹介させていただき、複数科で協力して治療していくことになります。
治療方法
ダイエットのせいで体重が減少し、生理が止まってしまった場合、治療方法には、以下のようのものがあります。
- 体重回復:適切な食事や運動で標準体重の90%を目指す。
- ホルモン療法:長期に低エストロゲン状態となっている場合は骨量測定も行う。
- 排卵誘発:挙児希望があり排卵障害がある場合は行う。
まずは、なんと言っても体重を元に戻すことです。前述した標準体重の90%程度まで、体重回復させることを目標にします。
適切な食事や運動によって、自然に体重が元の体重、または標準体重の90%まで回復すると、月経が再開することが多いです。体重回復後も約30%のかたに無排卵が続くことがあり、重度の体重減少例や、発症3年以上経過した無月経例は難治であることが指摘されています4) 。
一般的に、生理が回復した体重減少性無月経の女性には、妊孕性低下(妊娠しにくくなること)がみられないと言われています5) 。
長期間にわたってエストロゲンホルモン低下した状態は、子宮内膜の萎縮や骨量の低下を招くため、ホルモン療法も検討します。
赤ちゃんが欲しいという希望があって、排卵が行われていない場合は、全身状態が回復してから排卵誘発療法を行います。
まとめ
とてもスリムな芸能人やモデルがメディアに多数出演していることで、一般女性のボディーイメージは昔に比べて厳しくなっています。ダイエットを日常的にいつも行っている女性も増えており、若年女性の栄養失調なども指摘されています。
ダイエットによって、生理が止まってしまうと、身体の様々な機能に異常を引き起こし、将来の不妊や骨粗鬆症の可能性も出てきます。
ダイエットによって生理が止まってしまったというかたは、ぜひご自分の標準体重を確認し、やせすぎていないか知ってください。
無月経が3ヶ月以上続く場合は、お近くの産婦人科に相談することをおすすめします。
参考文献
- 病気が見える vol.9 婦人科・乳腺外科 メディックメディア.
- 産婦人科診療ガイドライン 婦人科外来編2020. 日本産婦人科学会/日本産婦人科医会. http://www.jsog.or.jp/activity/pdf/gl_fujinka_2020.pdf
- 日本産科婦人科学会生殖・内分泌委員会報告:思春期における続発性無月経の病態と治療に関する小委員会(平成 9 年度~10 年度検討結果報告). 日産婦誌 1999; 51: 755―761
- 生殖・内分泌委員会報告 思春期における続発性無月経の病態と治療に関する小委員会(平成9年度~10年度検討結果報告)18歳以下の続発性無月経に関するアンケート調査―第1度無月経と第2度無月経の比較を中心として―.日産婦誌 1999 ; 51 :755―761
- E. 婦人科疾患の診断・治療・管理. 3. 内分泌疾患. 日産婦誌60巻11号研修コーナー. 2008年11月. N471-N476. http://fa.kyorin.co.jp/jsog/readPDF.php?file=to63/60/11/KJ00005083047.pdf
- 2007 年厚生労働省難治性疾患克服研究事業「中枢性摂食異常症に関する調査研究班」: 神経性食欲不振症のプライマリケアのためのガイドライン . https://www.edportal.jp/pdf/primary_care_2007.pdf