妊活中や妊娠中には、普段よりも多くの葉酸摂取が望ましいとされています。※1
葉酸はその方の状況や摂取時期によって一日あたりの必要量がちがい、葉酸の種類によっても摂取目安量や上限量が異なる特徴を持つ栄養素です。
一日に必要な葉酸摂取量は少々ややこしい部分があるため、自分に必要な葉酸はどのくらいなのか、よく分からない方も多いのではないでしょうか。
そこで、本記事では一日に必要な葉酸量や上限量について分かりやすく解説しました。
特に女性は、妊活中や妊活初期の時期にどれくらいの葉酸が必要なのかを知っておくことはとても大切ですので、ぜひ参考にしてください。
この記事の執筆者
石川 聡司 日本産科婦人科学会認定 産婦人科専門医
(新さっぽろウィメンズ ヘルス&ビューティークリニック 院長)
北海道大学医学部卒業後、北海道大学病院、帯広厚生病院など地域の中核病院に勤務。2021年に婦人科・美容外科を併設した当院を開業。
- 資格:日本産科婦人科学会認定 産婦人科専門医
- 所属:日本美容外科学会JSAS、日本女性医学学会、日本産婦人科学会、日本周産期新生児学会
葉酸の種類
葉酸の一日摂取量の目安を知る前に、葉酸の種類について知っておきましょう。
まず、「食事性葉酸」と「狭義の葉酸」2種類の葉酸について簡単に解説します。
食事性葉酸:食物に含まれる葉酸
食事性葉酸とは、食物に含まれている葉酸です。
ほうれん草やブロッコリーなどの野菜や、いちご・オレンジといった果物に含まれています。
狭義の葉酸:人工的につくられた葉酸
狭義の葉酸とは、人の手によって作られた葉酸です。
葉酸サプリや葉酸強化食品(シリアル・パン・葉酸配合のお菓子)に添加されているものは、狭義の葉酸にあたります。
2種類の葉酸を摂取時期により使い分けると良い
どんな葉酸? | 食事から摂る葉酸 (ポリグルタミン酸型葉酸) | 人工的につくられた葉酸 (モノグルタミン酸型葉酸) |
摂取方法 | 食べ物 | サプリメントなど健康食品 |
体内利用率 | 50% | 85% |
特徴 | 水や熱に弱い 調理の段階で葉酸が流出しやすい | 体内利用率が高い 摂取量が把握しやすい |
過剰摂取の心配 | 心配がない | 過剰摂取すると副作用が 起こる可能性がある |
どちらの葉酸も身体の中で同じ働きをするものの、食事性葉酸は水や熱に弱く、身体の中に入ってもその半分ほどしか利用できないのに対して、狭義の葉酸は身体に入ってもその大半を利用できます。
つまり同じ量の葉酸を摂取したとき、食事から摂る葉酸と比べて、葉酸サプリメントなど健康食品から摂取した葉酸は体内でより強く働けます。
ただその分、逆に過剰に摂取すれば副作用の可能性が出てきてしまいます。
食事性葉酸は調理段階で葉酸の多くが失われ、身体の中に入っても利用率が落ちてしまいますが、葉酸以外の栄養素を摂取できる機会を持てます。
両者の葉酸に優劣は無く、適材適所で使い分けることが重要となります。※2
2種類の葉酸の違いは、自分に必要な葉酸の量を調べる際に必ず必要になってくる知識です。ざっくりでかまいませんので、ぜひ知っておいてくださいね。
葉酸の一日摂取量の目安
一日あたりの葉酸摂取量について、目標値を状況や年齢別に見ていきましょう。
必要な葉酸量は厚生労働省の「日本人の食事摂取基準」を参考にする
自分に必要な葉酸の量を知りたい時には、厚生労働省が発行している「日本人の食事摂取基準」※2を参考にするのがよいでしょう。
日本人の食事摂取基準には、健康的に過ごすため、生活習慣病を予防するために必要な一日あたりの栄養素の摂取量が細かく記載されています。
こちらは5年ごとの改定となりますので、今回は最新版である2020年版の「葉酸」の項目を参照します。
「日本人の食事摂取基準」の中の葉酸摂取量では、その数値が食事性葉酸であるのか・狭義の葉酸であるのかが明記されています。
これは先述の通り、葉酸は種類によって同じ分量を摂取しても身体での利用効率が異なるためです。
以下で解説する摂取量の数値に関しても、葉酸の種類を明記した上で摂取量を記載しています。
葉酸の摂取量は数値だけを見るのではなく、どちらの葉酸をどれだけ摂取すればよいのかまで確認するようにしましょう。
妊娠の予定がない女性・男性・子ども一日あたりの葉酸摂取量
年齢 | 推奨される葉酸の摂取量 |
1~2歳 | 90㎍ |
3~5歳 | 110㎍ |
6~7歳 | 140㎍ |
8~9歳 | 160㎍ |
10~11歳 | 190㎍ |
12~29歳 | 240㎍ |
30~64歳 | |
65~75歳以上 |
12歳未満の子どもと、12歳以上では推奨される葉酸の摂取量が異なる点に注意しましょう。12歳以上では、1日あたり240㎍の葉酸摂取が推奨されています。
妊活中、妊娠初期の女性が摂取したい一日あたりの葉酸摂取量
妊活中や妊娠初期の女性が摂取したい一日あたりの葉酸量は、以下の通りです。
状況 | 摂取時期 | 推奨される葉酸の摂取量 | |
食事性葉酸 (食物で摂る葉酸) | 狭義の葉酸 (葉酸サプリなど) | ||
妊活中の女性 (妊娠する可能性がある方も含む) | 妊娠1ヶ月以上前から | 240㎍ | 400㎍ |
妊娠初期の女性 | 妊娠直後から妊娠3ヶ月 | 240㎍ | 400㎍ |
妊活中や妊娠初期の女性は、食事からの葉酸240㎍に加えて、葉酸サプリなどから狭義の葉酸400㎍の摂取が推奨されています。
妊活中、妊娠初期に葉酸サプリは摂取すべき?するなら何㎎がよい?
妊娠中や妊娠初期には、葉酸サプリを飲んだ方がいいのか?という質問がよく見られますが、「飲んだ方がいい」が現在の国の方針です。
厚生労働省からは妊娠1ヶ月以上前から3ヶ月の女性に対して、食事で摂取する葉酸以外に、葉酸サプリからの狭義の葉酸の摂取が推奨されています。※1
これは、葉酸には、胎児に起こりうるあらゆる先天性異常リスクを低減する効果があるためです。現在では、病院でも妊娠前や妊婦の方へ向けて積極的に葉酸をとるよう指導がなされています。
ちなみに、「葉酸サプリを摂取するなら食事性葉酸をとる必要は無いのでは?」と考えられる方もいらっしゃるかもしれませんが、食事性葉酸の摂取は人の身体にとって大切なものです。
食事性葉酸は体内での利用効率は良くないものの、食事性葉酸を含む食物の摂取は葉酸だけでなく、他の栄養素を摂取する機会にもなります。※2
葉酸サプリを摂取する場合でも、食事からの葉酸摂取を意識してくださいね。
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日本人の葉酸摂取量の平均
妊活中や妊娠初期の方にとって葉酸は大切な栄養素だとお分かりいただけたかと思いますが、自分が普段どれだけの葉酸を食品から摂取できているのか自覚している方は少ないのではないでしょうか。
わたしたちが日々どれくらいの葉酸を摂取しているのかの目安は、厚生労働省が実施している「国民健康・栄養調査」※3中の日本人の葉酸摂取の平均についての報告に掲載されています。
1日あたりの葉酸摂取量平均について、令和元年に実施された調査結果は下記のとおりです。
【性別・年代別】一日あたりの葉酸摂取量の平均
性別・年代別による一日あたりの葉酸摂取量の平均をまとめました。
男性
年齢 | 摂取量(㎍) | 目標量(㎍) | 過不足(㎍) |
---|---|---|---|
15~19歳 | 260 | 240 | +20 |
20~29歳 | 237 | -3 | |
30~39歳 | 253 | +13 | |
40~49歳 | 275 | +35 | |
50~59歳 | 297 | +57 | |
60~69歳 | 335 | +95 | |
70~79歳 | 359 | +119 | |
80歳以上 | 335 | +95 |
女性
年齢 | 摂取量(㎍) | 目標量(㎍) | 過不足(㎍) |
---|---|---|---|
15~19歳 | 245 | 240 | +5 |
20~29歳 | 226 | -14 | |
30~39歳 | 233 | -7 | |
40~49歳 | 247 | +7 | |
50~59歳 | 284 | +44 | |
60~69歳 | 328 | +88 | |
70~79歳 | 348 | +108 | |
80歳以上 | 311 | +71 | |
妊婦 | 243 | 初期:240 中期・後期:480 | 初期:+3 中期・後期:-237 |
授乳婦 | 220 | 340 | -120 |
特に若い女性、妊娠中期・後期に葉酸不足傾向が見られる
日本人の一日あたり葉酸平均では、ほとんどの区分では推奨量をクリアしているものの、女性の20代・30代・妊婦・授乳婦を中心に不足傾向がみられます。
年齢(女性) | 摂取量(㎍) | 目標量(㎍) | 過不足(㎍) |
---|---|---|---|
20~29歳 | 226 | 240 | -14 |
30~39歳 | 233 | -7 | |
妊婦 | 243 | 初期:240 中期・後期:480 | 初期:+3 中期・後期:-237 |
授乳婦 | 220 | 340 | -120 |
妊娠中期・後期と授乳婦は葉酸の推奨量が通常時よりも多いため、食物からの摂取が難しいものと考察できますが、それでももう少し摂取しておきたいところです。
葉酸サプリで不足している葉酸をサポートする選択肢もありますが、可能であれば日々の食事の中で食事性葉酸の推奨量240㎍はしっかりと摂取できるよう心がけましょう。
食事性葉酸については一日あたり350gの野菜摂取で推奨量を達成できるとされているため、これがひとつの目安となります。※1
葉酸の摂取量に上限はある?
葉酸にも、他の栄養素と同様に摂取量に上限量があります。これを「耐容上限量(たいようじょうげんりょう)」といい、こちらも「日本人の食事摂取基準」※2に記載されています。
耐容上限量を超える摂取は過剰摂取による副作用や健康リスクが高まるため、適切な量の摂取に気を付けるようにしてください。
食事性葉酸は上限が設けられていない
食事性葉酸、つまり野菜や果物といった食物から摂取する葉酸に関しては、耐容上限量が設けられていません。
これは、食事性葉酸は水や熱に弱く身体での利用率も低いため過剰摂取に繋がりにくく、今まで食事性葉酸の過剰摂取により副作用が生じた報告も無いためです。※2
食事から摂取する葉酸に関しては、過剰摂取の心配をする必要はありません。
狭義の葉酸は上限が設けられている
葉酸サプリや葉酸強化食品から摂取できる葉酸(狭義の葉酸)では、耐容上限量が設けられています。
狭義の葉酸は水や熱の影響を受ける機会が少なく、身体に入るとダイレクトに働けるメリットを持つ反面、過剰摂取すると副作用や健康リスクに繋がる恐れがあるため、摂取量には注意が必要です。
一日あたりの葉酸の耐容上限量
耐容上限量(狭義の葉酸) | |
---|---|
1~2歳 | 200μg |
3~5歳 | 300μg |
6~7歳 | 400μg |
8~9歳 | 500μg |
10~11歳 | 700μg |
12~29歳 | 900μg |
30~64歳 | 1000μg |
65~75歳以上 | 900μg |
狭義の葉酸を使用した商品(サプリメントや強化食品)は、葉酸の配合量や摂取目安量を記載するよう国から指導があります。※4
サプリメントなどから葉酸を摂取する際にはパッケージを確認し、葉酸の配合量や摂取量を守り、適切に利用するようにしましょう。
子どもは大人に比べると耐容上限量が最大で5倍ほど異なっています。10歳以下の子どもが葉酸サプリを利用する際には特に気を付けてください。
葉酸はあらゆる食物に含まれており、比較的摂取が簡単な栄養素
葉酸は、バランスのよい食事を心がけていれば普段の食事でも十分に摂取できるため、妊娠や出産に関係する方以外については、葉酸サプリの摂取に強くこだわる必要はありません。
妊活中や妊娠初期の方は、食事からの摂取のみでは必要量には届きづらいため、葉酸サプリをサポート的に利用するのが望ましいでしょう。
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参考文献
- 神経管閉鎖障害の発症リスク低減のための妊娠可能な年齢の女性等に対する葉酸の摂取に関する情報提供要領 https://www.mhlw.go.jp/www1/houdou/1212/h1228-1_18.html
- 「日本人の食事摂取基準(2020年版)」策定検討会報告書 https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/000586553.pdf
- 令和元年国民健康・栄養調査結果の概要 https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000687163.pdf
- 公益財団法人 日本健康・栄養食品協会 葉酸健康食品を販売する時の参考資料 https://www.jhnfa.org/topic126.pdf