院長の石川(産婦人科専門医)です。
生理周期を把握したり、妊娠に向けて、普段から基礎体温を測っているかたもいらっしゃると思います。基礎体温のグラフは個人差があり、体調によっても毎月変化してきます。
毎日測定する基礎体温から、何がわかるのか?、どんな体温であれば良いのか?、疑問に思うかたもいらっしゃると思います。
本日は、そもそも正常な基礎体温のグラフはどのようなものか、生理前、生理後での体温の変化などについて解説させていただきます。
この記事の執筆者
石川 聡司
(新さっぽろウィメンズ ヘルス&ビューティークリニック 院長)
北海道大学医学部卒業後、北海道大学病院、帯広厚生病院など地域の中核病院に勤務。品川美容外科にて美容外科医として3年間の研鑽を積み、2021年に婦人科・美容外科を併設した当院を開業。
婦人科全般の診療のほか、美容医療では美肌治療、美容整形をはじめ脱毛・アートメイクなど幅広く対応する。
基礎体温とは?
基礎体温とは、体温変化に影響を与えるような諸条件(運動、摂食、感情の起伏など)を避けて安静時に測定し、基礎代謝のみが反映された体温のことです。
一般的には睡眠後の起床時に、安静な状態で測定した体温のことをいいます。基礎体温を毎朝測定・記録し、グラフをつけると、基礎体温表が描かれます。
基礎体温表により、排卵の有無、黄体機能の推定、妊娠の早期診断などを行うことができます。
基礎体温はどのようなグラフになるのか?
正常の基礎体温のグラフは、低温期と高温期に分かれ、2相性を示します。体温が陥落する日を中心として、低温期から高温期へ移行する数日の間に排卵がおこっていると推定されます。
正常な基礎体温と判断するためのチェックポイントは以下の4点です。
- 高温期が10日以上続く。
- 高温期と低温期の差が0.3℃以上ある。
- 高温期に陥落(低温になること)がない。
- 低温期から高温期への移行が3日以内で完了する。
基礎体温は、生理周期に伴って変動する
生理開始日から数えて、次回の生理開始前日までの期間を生理周期といいます。
生理周期では、「卵胞期(増殖期)→排卵期→黄体期(分泌期)→月経期(生理)」のサイクルを繰り返しています。
それぞれの時期で体内の女性ホルモンの分泌量が増減し、子宮内膜が変化します。
- ・卵胞期(増殖期)
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卵巣にある卵胞からエストロゲンが分泌されます。エストロゲンにより、子宮内膜が増殖・肥厚します。
- ・排卵期
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LHサージの影響により、排卵がおこります。
- ・黄体期
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排卵が終わった卵胞が黄体へと変化し、プロゲステロンとエストロゲンを分泌します。プロゲステロンは子宮内膜を着床に適した状態に変化させます。
- ・月経期(生理)
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受精卵が着床せず、妊娠が成立しなかった場合、黄体は退縮し、エストロゲン、プロゲステロンが減少します。これにより、子宮内膜が剥がれ、月経(生理)が起こります。次の卵胞が育ち、再びエストロゲンが上昇し始めると子宮内膜が再生し始め、月経(生理)が止まります。
黄体から分泌されるプロゲステロンの作用により、基礎体温は上昇し、高温期が作られます。
基礎体温が2相性であることは、プロゲステロンの分泌が正常であることを示しています。
基礎体温の測り方
基礎体温の正しい測り方は以下の通りになります。
- 朝、目覚めて寝たままの姿勢で測る。
- 舌下で体温を測る。
- 0.05℃まで測定可能な婦人体温計を使用する。
正確な基礎体温を測るためには、目覚めてすぐに、起き上がらず、寝たままで測定することが望ましいです。枕元のすぐに手が届くところに体温計を置いておくといいでしょう。
基礎体温の高温期と低温期の変化は0.3℃~0.6℃といわれているので、0.05℃まで測ることができる婦人体温計を使用することが望ましいと言えます。
基礎体温の異常
正常な基礎体温は前述の通り2相性です。では、基礎体温が異常な場合にはどのようなタイプがあり、どんな原因が考えられるでしょうか?
大きく分けて、高温期が短い場合と、2相性がみられない場合があります。
高温期が短い
高温期が短い場合、黄体機能不全の可能性があります。
黄体から分泌されるプロゲステロンが少ないと、通常14日程度ある高温期が短くなったり、体温の陥落がみられたりします。
黄体機能不全の場合、子宮内膜の発育が不十分となり、着床障害をおこしたり、プロゲステロン不足で妊娠が維持できず、不妊になることがあります。
黄体機能不全の原因として様々なものが想定されていますが、明らかなことはわかっていません。
2相性がみられない
2相性がみられず、低温期のみからなる基礎体温の場合、無排卵が考えられます。
排卵がないため、黄体ができず、プロゲステロンの分泌増加が起こらないため、体温の上昇がみられません。
出血のタイミング(生理周期)は正常なこともあれば、長くなったり短くなったりすることもあります。
こちらも、排卵が行われないため、不妊となることがあります。
排卵日はいつ?
基礎体温を測定するかたの中では、妊娠を希望するかたも多いと思います。
基礎体温表の中で、妊娠しやすいタイミングは、 体温が陥落する日を中心として、低温期から高温期へ移行する数日の間です。この間に排卵がおこっていると推定されます。
典型的には体温陥落日がありますが、これは極めて理想的な基礎体温表の場合であり、毎周期ごとに全員にみられるわけではありません。
排卵された卵子の寿命は約24~48時間です。
一方、精子の寿命は3~5日程度と言われています。
目安として、 低温期から高温期へ変化する時が妊娠しやすいタイミングと覚えておきましょう。
また、前述した基礎体温の異常がある場合は、不妊の原因となることもあります。
タイミング法で妊娠を希望していても、基礎体温表が正常と違うと思った場合は、一度産婦人科にご相談することをおすすめします。
妊娠していた場合
通常は、約14日間高温期が続いたあと、基礎体温が速やかに下がり、低温期となり生理が来ます。
妊娠していた場合は、高温期がずっと続き、生理がこない状態となります。
これは、妊娠が成立すると、プロゲステロンの分泌が持続するためです。目安として17日以上高温期が続く場合は、妊娠の可能性があります。高温期の体温は個人差もありますが、37℃近くになることもあり、人によっては「微熱がある」と感じることもあるようです。
妊娠検査薬を使用したり、産婦人科クリニックを受診する前に、基礎体温表では、いち早く妊娠の可能性を確認することができます。
妊娠検査薬を使用できるのは、生理予定日の1週間後からとなりますので、自宅で妊娠検査薬を使用する際は、そのタイミングにご注意ください。
まとめ
基礎体温の測り方、見方、異常などについてご説明しました。
基礎体温は体調や環境などによっても変わりやすく、何周期か続けて測ってみて、自分の体調を把握する必要があります。
ご自分で基礎体温表をつける際の参考にしてみてください。
参考文献
- 病気が見える vol.9 婦人科・乳腺外科 メディックメディア.
- 産婦人科診療ガイドライン 婦人科外来編2020. 日本産婦人科学会/日本産婦人科医会