院長の石川(産婦人科専門医)です。
女性にとって、月経(生理)は多かれ少なかれ、体調面や精神面で負担がかかるもの。これまで、旅行や仕事、受験など大事なイベントがあるときに、「生理の日にかぶらなければ良いな」と思ったことはないでしょうか。
そのような場合には、ピルを服用することで自分の生理期間をコントロールすることができます。「体に負担はないの?」と心配に思われる方もいらっしゃるかもしれません。
本記事では、月経(生理)期間を移動させる方法、副作用などについて詳しく説明いたします。
この記事の執筆者
石川 聡司 日本産科婦人科学会認定 産婦人科専門医
(新さっぽろウィメンズ ヘルス&ビューティークリニック 院長)
北海道大学医学部卒業後、北海道大学病院、帯広厚生病院など地域の中核病院に勤務。2021年に婦人科・美容外科を併設した当院を開業。
- 資格:日本産科婦人科学会認定 産婦人科専門医
- 所属:日本美容外科学会JSAS、日本女性医学学会、日本産婦人科学会、日本周産期新生児学会
生理周期について
生理はだいたい1ヶ月に1度訪れます。生理不順でない限りは、ある程度周期的に生理がきて、個人差はありますが、25-38日が正常範囲といわれています。また、生理の続く日数は3-7日間が正常範囲といわれています1) 。
生理周期は、卵胞ホルモン(エストロゲン)と黄体ホルモン(プロゲスチン)という女性ホルモンの分泌によって調整されています。生理は、卵胞期(増殖期)→排卵期→黄体期(分泌期)→月経期(生理)のサイクルを繰り返しています。
それぞれの時期で体内の女性ホルモンの分泌量が増減し、子宮内膜が変化します。この女性ホルモンの変動によって、生理がくると、腹痛や肌荒れ、イライラするなどのような体調面や精神面での問題を生じることがあります。
生理期間を移動させる方法
旅行や仕事、スポーツ、受験、結婚式など大事なイベントがあるときに、「生理の日を避けたいな」とか「生理がくる日をコントロールできたらいいのに」と思ったことはないでしょうか。
そのような場合、ピルを服用することによって、生理期間を前後に移動することができます。
この生理期間のコントロールには、前にずらす(早める)方法と後ろにずらす(遅らせる)方法との2つがあります。多くの場合、生理を1週間ほど遅らせることは比較的スムーズにできます。
ピルは、中用量ピルあるいは低用量ピルを服用することになります。1-2ヶ月ほど前から予定がわかっている場合は、早めに来院してもらうことで生理を早めることも可能です。
ピルは、卵胞ホルモン(エストロゲン)と黄体ホルモン(プロゲスチン)という女性ホルモンの配合剤です。生理は、これらの女性ホルモンの分泌が関与しているために、ホルモン剤であるピルを服用することで、生理期間を調節することが可能なのです。
生理を移動させるピルの飲み方
生理を遅らせる場合には、中用量ピルもしくは低用量ピル、黄体ホルモン製剤(プロゲスチン製剤)を服用することになります。
生理を早める場合には、中用量ピルもしくは低用量ピルを服用することになります。
生理を遅らせる場合には、移動させたい生理が始まる少なくとも5日前から服用する必要があります。
また、生理を早める場合には月経周期の5日目以内から服用する必要があります2) 。
いずれにしても、日程に余裕をもった計画が必要です。
生理を遅らせる方法
生理を後ろにずらす(遅らせる)方法には、2種類の方法があります。
①月経7日目以内にピルの服用を開始する方法
②生理予定日の少なくとも5日前からピルを服用する方法
どちらも、生理が起こって良い時点まで服用します2) 。
生理を遅らせるメカニズムとして、排卵後の黄体期(生理前の状態)を延長させる必要があります。ピルを内服することで、プロゲスチンの分泌がなくなった後でもプロゲスチン量が維持され、子宮内膜が剥がれ落ちる(生理が起こる)ことなく維持できるのです。
ただし、生理を1週間以上遅らせる場合は、途中で出血が始まることがあります。ピルに含まれるプロゲスチンの濃度では子宮内膜を安定させるには足りなくなってしまうからです。
ピルの服用をやめると、2-5日間程度で生理あるいは消退出血が起こります。なお、その次の生理周期は、出血開始を第1日目として通常通り、卵胞発育、排卵し、生理が起こります3) 。
もし、1週間以上遅らせたいという希望がある際には、医師へ相談してください。
生理を早める方法
生理を前にずらす(早める)方法としては、月経周期の初日から5日以内の時点(生理中の状態)で服用を開始して、少なくとも10日間以上服用します。
ピルの服用は、生理をこさせたい日の3-5日前まで続けます。ピルの服用を終了すると、ホルモンが血中から消退することで内膜が剥離して消退出血が起こります。
結果的に、生理を7−10日間程度早めることができます3) 。
生理不順な場合でも、生理をずらすことはできるの?
生理不順である場合には、生理を遅らせる方法を取ることが多くなります。
月経開始の3−5日目から中用量ピルを服用して、生理が起こって良い日の2−3日前まで服用を継続します。もし、月経開始から時間が経っている場合には、婦人科で超音波検査を受けて子宮内膜の厚みなどを評価して、ピルの服用を行うかどうかを医師に判断してもらうことになります4) 。
もともと低用量ピルを服用している場合も、生理をずらすことはできるの?
避妊目的や月経困難症の治療などで低用量ピルを服用している方もいらっしゃると思います。そのようなかたの場合でも、生理予定日を移動することは可能です。
21日(21錠)タイプの場合は休薬せず、28日(28錠)タイプの場合は4週目の偽薬(プラセボ薬)を服用せずに、次のシートを服用することになります。服用を中止すると2−3日程度で出血が開始するので、イベントの時期に合わせて調整します。
また、ジェミーナ®︎配合錠やヤーズフレックス®︎配合錠などを連続で服用している場合には、その服用を継続することで対応できます4) 。
ご自身の場合はどうなのか、自己判断せずに一度医師へご相談ください。
生理を移動させることのメリットやデメリットとは
生理を遅らせる(後ろにずらす)方法のメリットは、より確実なコントロールが可能であることです。
一方で、イベントの最中にホルモン剤を服薬することになることで、吐き気などの副作用が出現する可能性があることがデメリットとしてあげられます。長時間のフライトを伴う旅行や出張では、エコノミークラス症候群のリスクが少し高まるということも注意しましょう4) 。
生理を早める(前にずらす)方法のメリットは、旅行やスポーツなどのイベントの前に生理を終わらせることによって、イベント前後のホルモン剤の服用がなくなることや、スポーツなどに最適な基礎体温低温期にイベントを迎えることができることが挙げられます。
一方で、イベント直前の来院では対応しにくいことや、生理を早められる確実性がやや低いことがデメリットとして挙げられます4) 。
- 生理を遅らせる場合
-
メリット:確実にコントロールできる。
デメリット:イベント中に服薬することになる(副作用に注意)。
- 生理を早める場合
-
メリット:イベント中の服用がない。低温期にイベントを行える
デメリット:イベント直前の来院。確実性がやや低い
生理の移動に使う薬剤はどのようなものが使われる?
月経調節に使用する薬剤は、中用量ピルや低用量ピル、黄体ホルモン製剤(プロゲスチン製剤)です。
中用量ピルでは、プラノバール®︎錠が使われます。
低用量ピルでは、マーベロン®︎錠やファボワール®︎錠などの1相性の製剤が使われることが多くなります。これは、ホルモン濃度を一定に保つことで子宮内膜が剥がれて消退出血をきたすことを防ぐ目的があります4) 。
また、もともと月経困難症の治療のために、ルナベル®︎配合錠やフリウェル®︎配合錠、ジェミーナ®︎配合錠、ヤーズフレックス®︎配合錠などを服用されている場合には、これらは1相性の低用量ピルであるためそのまま継続して服用することになります。これ以外の3相性の低用量ピルを服用している場合には、前述の低用量ピルへ変更することもあります。
黄体ホルモン製剤では、ノアルテン®︎錠が使われます5) 。
生理移動に用いるピルの費用
生理の移動を行うためのピルの処方は、原則的に自費診療(保険適応外)です。もともと、ジェミーナ®︎配合錠やヤーズフレックス®︎配合錠などを連続で服用している場合では、生理を移動する服用方法の指導は保険診療の扱いとなります。
中用量ピルであるプラノバール®︎錠は、1ヶ月あたり3,000円 ー 8,000円が目安となります。
プロゲスチン製であるノアルテン®︎錠は、1ヶ月あたり2,000円 ー 4,000円が目安となります。
低用量ピルの費用は、 下記の表に示すように、1ヶ月あたり2,000円 ー 3,000円が目安となります。
薬品名 | 1シート(28日分)あたりの値段 | 備考 |
---|---|---|
ルナベル®︎配合錠LD | 1500円 ー 2000円 | |
フリウェル®︎配合錠LD | 820円 ー 1940円 | ルナベル®︎配合錠LDのジェネリック |
ルナベル®︎配合錠ULD | 1600円 ー 11000円 | |
フリウェル®︎配合錠ULD | 760円 ー 7000円 | ルナベル®︎配合錠ULDのジェネリック |
マーベロン®︎28 | 2300円 ー 2700円 | |
ファボワール®︎錠28 | 2000円 ー 3980円 | マーベロン®︎28のジェネリック |
ジェミーナ®︎配合錠 | 1960円 ー 3600円 | 77日までの連続投与が可能 |
ヤーズフレックス®︎配合錠 | 2000円 ー 12000円 | 120日までの連続服用が可能 |
生理を移動させる際に生じるピルの副作用
個人差はありますが、ピルの副作用は強く出る方がいます。
中用量ピルは、主にプラノバール®︎配合錠を服用することになります。副作用として、吐き気や胃部不快感などが出現する方がいます。また、低い確率ですが血栓症の副作用もあることも覚えておいてください。
低用量ピルは、中用量ピルに比べて不正出血が多くなるものの、吐き気や異部不快感は少ないことや、消退出血による月経量は少ないという特徴があります4) 。
また、黄体ホルモン製剤(プロゲスチン製剤)として、ノアルテン®︎錠を服用することもあります。吐き気や倦怠感、気分の落ち込み、傾眠、肝機能障害などが副作用に挙げられます4) 。
まとめ
生理によって大事なイベントでのパフォーマンスが下がってしまうという、女性ならではの悩みに対して、ピルを服用することで乗り切れる方法があることをご説明いたしました。
予定が分かっている場合には、早めに相談して生理期間を移動する計画を立てましょう。
服用方法や生理に関するお悩みや疑問点については、お気軽にご相談ください。
参考文献
- 病気がみえる 〈vol.9〉 婦人科・乳腺外科 第4版. メディックメディア.
- 産婦人科診療ガイドライン-婦人科外来編 2020. 日本産婦人科学会 日本産婦人科医会.
- 藤原豊博. 適応外使用の処方せんの読み方 第62回 月経の人工移動. 薬事 57(9):1551-1556, 2015.
- 下平和久. 新時代のホルモン療法マニュアル 第2章 女性医学 月経調節. 産科と婦人科 86:167-172, 2019.
- ノアルテン錠(5mg). https://www.info.pmda.go.jp/go/pack/2479002F1026_4_02/