日本の人工妊娠中絶件数は年間約15万件であり、毎年多くの望まない妊娠を経験する女性がいます。中絶後に心と身体に深い傷を負ってしまう前に、適切な避妊の知識を得られる場があればと思っています。
産婦人科専門医として、今回はモーニングアフターピルの効果、飲み方、副作用や費用などについてご説明させていただきます。
この記事の執筆者
石川 聡司 日本産科婦人科学会認定 産婦人科専門医
(新さっぽろウィメンズ ヘルス&ビューティークリニック 院長)
北海道大学医学部卒業後、北海道大学病院、帯広厚生病院など地域の中核病院に勤務。2021年に婦人科・美容外科を併設した当院を開業。
- 資格:日本産科婦人科学会認定 産婦人科専門医
- 所属:日本美容外科学会JSAS、日本女性医学学会、日本産婦人科学会、日本周産期新生児学会
モーニングアフターピルとは
モーニングアフターピルとは、緊急避妊薬・緊急避妊ピルのことであり、「アフターピル」「PlanB」「ECピル」などとも呼ばれています。避妊に失敗してしまった場合に、翌朝飲む緊急避妊用の薬です。
避妊せずに性交渉をした、あるいはコンドームが破れたり、外れたりして避妊に失敗した、レイプ等の犯罪に巻き込まれた、などの場合に、望まない妊娠を避けるための最後の避妊手段となります。
通常の低用量ピルとは違い、無防備な性交渉の事後に避妊目的で服用します。
モーニングアフターピルは、錠剤タイプの薬剤であり、正常な排卵を抑制・遅延させるという原理で、避妊効果が得られます。
モーニングアフターピルが必要な場面には、下記のような状況が考えられます。
- 性暴力の被害にあったとき
- コンドーム(避妊具)が破れたり外れてしまったとき
- 避妊せずに性交渉や中出しをしてしまったとき
- ちゃんと避妊できたか心配なとき
- 低用量ピルを服用し忘れていたとき
モーニングアフターピルは、正しい服用方法を守り、性交渉から72時間以内に服用することで、95%以上の避妊率を得ることができます。
効果について
モーニングアフターピルの作用機序は、十分に解明されていませんが、主に排卵の抑制あるいは遅延によって、避妊効果が得られると考えられています。
モーニングアフターピルを卵胞期(排卵前)に使用することで、正常な排卵過程を阻害することが明らかにされています。排卵を起こすLHサージ(黄体形成ホルモンの大量分泌)前にアフターピルが投与されると、LHサージの消失や遅延が起こり、約80%の女性ではその効果が5日以上続きます。
モーニングアフターピルを排卵前に投与することにより、その後5-7日間排卵が抑制され、その期間に女性の性器内に侵入しているすべての精子が受精能力を失うことになり、避妊が成立すると考えられています1) 。
また、子宮内膜の成熟促進によって受精卵が着床することを阻止する可能性も示唆されています2), 3) 。
副作用について
モーニングアフターピルを服用した場合の副作用として、主に以下のような症状が出現する可能性があります。
- 吐き気や悪心
- 不正出血・生理周期の乱れ
- 頭痛・下腹部痛
- 眠気・倦怠感
- 下痢
- めまい
- 乳房痛
日本では「ノルレボ®」が承認されるまでは、モーニングアフターピルの代用として、「ヤッペ法」が用いられていました。近年主流となった「ノルレボ®」は、「ヤッペ法」と比べて副作用のリスクがかなり軽減されてきています4) 。
副作用は、服用してから約24時間後までの間に出現する場合が多いです。1日程度安静にしていればおさまる人が多いです。また、全く副作用が出ないかたもいます。
モーニングアフターピルのよくある副作用として、吐き気や嘔吐などが挙げられます。モーニングアフターピルを飲んで2時間以内に吐いてしまうと、薬が体内に吸収される前であるため、十分な避妊効果が得られなくなってしまいます。この場合は、すぐに医師と相談し、もう一度処方し服用し直す必要があります1) 。
飲む時間と飲み方
モーニングアフターピルの服用方法は、以下の通りです。
- レボノルゲストレル法(商品名: ノルレボ®錠、レボノルゲストレル錠)
-
性交渉後72時間以内に1回1錠(1.5mg)を服用する
モーニングアフターピルは、使用できる期間が決まっています。性交渉からできるだけ早く、72時間以内に服用する必要があります。性交渉から服用までの時間が早ければ早いほど、避妊成功率が高くなるという研究結果が出ています5), 6) 。
また、モーニングアフターピルと一緒に飲んではいけない薬や食品には、以下のようなものがあります1) 。
- てんかんの薬(抗けいれん剤)
- HIVの薬(HIV プロテアーゼ阻害剤、非ヌクレオシド系逆転写酵素阻害剤)
- 結核の薬(リファブチン、リファンピシン)
- セイヨウオトギリソウ(St. Johns’ s Wort、セント・ジョーンズ・ワート)含有食品
上記の薬や食品は、モーニングアフターピルの避妊効果を弱める働きがあるため、服用している場合は必ず担当医に相談してください。
日本ではまだ未承認ですが、性交から120時間以内に服用をすることができれば高い避妊の効果を得ることができる7) 「エラワン」も、欧米では主流のアフターピルになってきています。
種類と費用について
避妊を目的としたアフターピルの処方は自費診療となります。価格はクリニックによって違いますが、5000円-20000円前後のところが多いです。
性犯罪事件などの被害者となってしまった方の場合は、初診料や治療費などを公費で負担する公的支援制度(警察庁. 犯罪被害給付制度. https://www.npa.go.jp/higaisya/kyuhu/index.html, https://www.npa.go.jp/higaisya/kyuhu/pdf/hankyuukinP.pdf )があります。
初診料や診断書料、性犯罪被害に係る性感染検査費用、緊急避妊に要する費用、一時避難が必要な場合の宿泊費等が公費負担になる可能性があります。
現在国内で承認されているモーニングアフターピルは、以下の2種類です。
- ノルレボ®錠 1.5mg
- レボノルゲストレル錠 1.5mg
ノルレボ®錠が先発医薬品、レボノルゲストレル錠が後発医薬品(ジェネリック医薬品)となります。
ノルレボ®錠とレボノルゲストレル錠は、有効成分が同じであるため、効果や副作用、飲み方や注意点などに大きな違いはありません。
あえて違いを述べるとすれば、後発医薬品(ジェネリック医薬品)であるレボノルゲストレル錠のほうが費用は安い場合が多いため、金銭的負担が少なくすみます。
当院ではレボノルゲストレル錠を処方することができます。
料金 ■レボノルゲストレル錠 1錠 10000円(税込)
※上記以外に追加料金は不要です(初診料、再診料、カウンセリング料などはかかりません)
購入方法と処方までの流れ
モーニングアフターピルを購入する方法は、大きく分けて以下の3つがあります。
- 病院・クリニックで処方
- オンライン診療で処方
- 通販で購入
処方までの流れについて、順に紹介していきます。
病院・クリニックでの処方
当院でのモーニングアフターピル処方までの流れは、以下の通りになります。(服用まで72時間というタイムリミットがありますので、ご予約がない場合でもご来院ください。)
来院後、問診票(最終月経や性交渉のあった日時、既往歴、服薬歴など)を記入していただきます。
診察にて、モーニングアフターピルの飲み方、注意点や副作用についてご説明します。今後の避妊方法についてのご相談も受け付けています。
受付にてお会計後、モーニングアフターピルをお渡しします。なるべく早く服用する必要がありますので、その場でお飲みください。
病院やクリニックでモーニングアフターピルを処方してもらうメリットは、薬がその場ですぐもらえるという点です。
また、直接医師に診察や説明をしてもらうことができるため、より安心感があると思います。
オンライン診療で処方
来院の都合がつかなくて、すぐに薬をもらうにはどうしたらいいのか、と思うかたもいらっしゃると思います。モーニングアフターピルは緊急で服用が必要な薬ですので、来院の都合がつかない場合は、オンライン診療という選択肢もあります。
オンライン診療を行っているクリニックでの処方までの流れは以下のようになります。
オンライン診療を受ける日時を予約します。
事前の問診に答え、予約時間にオンライン上で医師の診察を受けます。
薬が発送され、自宅に届きます。(当日発送や最短翌日到着のところが多いです。)
夜間にモーニングアフターピルを処方して欲しい場合も、地域によっては土日や夜間に開院しているクリニックがあります。また、オンライン診療では土日も含めて24時間対応しているクリニックが存在します。
最も大事なことは、性交渉から72時間以内にモーニングアフターピルを服用する、ということです。
直接受診するにしても、オンライン診療を選ぶにしても、タイムリミットまでに確実に薬を服用することができるように注意してください。
通販で購入
日本では、モーニングアフターピルの市販品は認められていないため、薬局やドラッグストアで購入することはできません。
個人輸入代行サイトなどでの購入は、輸入者本人の個人的な使用の場合のみ許可されています。
しかし、通販での購入は、以下のようなデメリット・危険性があるため、あまりおすすめできません。
- 品質や安全が保証されていない
- 日本未承認薬もある
- 偽薬、偽造製品の可能性がある
- 医師の診察を受けていない
- タイムリミットまでに薬が届かない可能性がある
処方対象者
モーニングアフターピルの内服に、年齢制限はありません。当院では、未成年の方のみの診察・お薬の処方もできます(親御様の同意は必要ありません)。また、自費診療となりますので、保険証がない場合も処方することができます。
直接患者さんを診察して処方する必要があるため、男性のかたなど、代理人のかたへの処方は行っていません。
また、過去にモーニングアフターピルを服用してアレルギー症状が出現した既往のあるかた、重篤な肝障害のあるかた、妊婦さんなどには処方できません。
継続的に避妊効果を目的とした対策を行う場合は、あらかじめ体に負担の少ない経口避妊薬(OC薬=低容量ピル)や避妊リング(ミレーナなど)の使用も考慮した方が良いでしょう。
まとめ
モーニングアフターピルについて、理解していただけたでしょうか。服用方法、費用、処方までの流れなどは、みなさんが気にされるところだと思います。緊急の場合はためらわず受診し、モーニングアフターピルを服用することをおすすめします。
また、モーニングアフターピルよりも確実な避妊方法として、経口避妊薬(OC薬)があります。正しく飲み続けた場合、100%に近い避妊効果が得られます。服用後は、経口避妊薬を飲み始めることをぜひ検討していただきたいです。
参考文献
- 日本産婦人科学会. 緊急避妊法の適正使用に関する指針(平成28年度改訂版). http://www.jsog.or.jp/uploads/files/medical/about/kinkyuhinin_shishin_H28.pdf
- 緊急避妊法. 北村 邦夫. 日産婦誌59巻9号 N514-518. http://fa.kyorin.co.jp/jsog/readPDF.php?file=to63/59/9/KJ00004974374.pdf
- 緊急避妊薬 レボノルゲストレル. 北村邦夫. http://medical.radionikkei.jp/suzuken/final/110505html/index2.html
- Task Force on Postovulatory Methods of Fertility Regulation. Randomised controlled trial of levonorgestrel versus the Yuzpe regimen of combined oral contraceptives for emergency contraception. Lancet 1998; 352: 428-433 doi:10.1016/S0140-6736(98)05145-9
- 独立行政法人医薬品医療機器総合機構. ノルレボ0.75mg. https://www.pmda.go.jp/drugs/2011/P201100047/39014900_22300AMX00483000_K101_1.pdf
- Bosworth MC, Olusola PL, Low SB et al. An Update on Emergency Contraception. Am Fam Physician. 2014 Apr 1;89(7):545-550.
- Glasier AF, Cameron ST, Fine PM, et al. Ulipristal acetate versus levonorgestrel for emergency contraception: a randomised non-inferiority trial and meta-analysis. Lancet. 2010;375(9714):555–562. doi: 10.1016/s0140-6736(10)60101-8