院長の石川(産婦人科専門医)です。
皆さんは、子宮頸がん検診を受診しているでしょうか?
最近は、職場の健康診断などで子宮頸がん検診も受けている、という方も増えてきたように思います。
しかし、内診台に座って、お世辞にも快適とは言えないような体勢で受ける検査は、あまり得意ではない方が多いのではないでしょうか?
検診の推奨年齢も”20歳以降の女性”とかなり幅広く、推奨期間を通じて検診を継続できる方は少ないかもしれません。職場の検診などがなければ、受診が遠のいてしまう方も多いように感じます。
子宮頸がん検診は、女性の健康を考える上では必要不可欠なものです。今回は、すべての女性に受診していただきたい子宮頸がん検診について分かりやすく解説していきます。
この記事の執筆者
石川 聡司
(新さっぽろウィメンズ ヘルス&ビューティークリニック 院長)
北海道大学医学部卒業後、北海道大学病院、帯広厚生病院など地域の中核病院に勤務。品川美容外科にて美容外科医として3年間の研鑽を積み、2021年に婦人科・美容外科を併設した当院を開業。
婦人科全般の診療のほか、美容医療では美肌治療、美容整形をはじめ脱毛・アートメイクなど幅広く対応する。
子宮頸がんとは、ウイルスが原因のワクチンが有効ながん
子宮頸がんは、その名の通り“子宮の頸部にできるがん”です。
子宮の“がん”のうち、約7割が子宮頸部にできる子宮頸がんと言われています。がんと言うと、不治の病のように感じてしまいますが、子宮頸がんは、検診などで早期発見ができれば、ほとんどのケースで完治ができる病気です。
しかし、進行した状態で見つかった場合には、高難度の手術や抗がん剤、放射線などの治療が必要になります。
発症のピークは、以前は40〜50代でしたが、近年では20〜30代の発症が増えており、現在は30代後半が発症のピークとなっています。
子宮頸がんの原因のほとんどが、HPV(ヒトパピローマウイルス)と呼ばれるウイルスです。このウイルスは、性交渉をきっかけに子宮頸部に感染を起こします。
このウイルスに仮に感染したとしても、9割は自身の免疫で自然に排除することができます。
しかし、1割程度の確率で自然に排除することができず持続感染となり、さらにその中の一部が子宮頸がんへ進行します。そして、このHPVに対する治療薬や治療法は現時点ではありません。
HPV感染の治療は難しいですが、そもそものHPVに罹患するリスクを減らすことは可能です。
近年では、世界各国でHPVのワクチン接種が進んでおり、多くの国で子宮頸がんは過去の病気になる日が近づいています。
ただ、日本では副反応などで話題となった経緯があり、あまりワクチンの接種が進んでいません。
今では、副反応とワクチンの関連については否定的であると考えられており、自治体での接種も再開しています。対象の方はもちろん、対象外でも未接種のかたはワクチン接種をおすすめしています。
HPVのほかには、以下の様なものが子宮頸がんのリスクと考えられています。
- 喫煙
- 多産
- 性交相手が多い。
- 初回性交年齢が若い。
- 免疫機能が低下している。
日本では、年間約10,000人が子宮頸がんと診断され、3,000人が死亡しています1) 。
子宮頸がんのリスクを下げるには、HPVワクチンが有効ですが、一部の特殊なタイプの子宮頸がんは防ぐことができません。
そのため、女性の方は性交渉の経験をした後は、高齢になっても、少なくとも2年に1度の子宮頸がんの検査を受けることが大切です。
また、対象年齢の方はHPVワクチンも接種することが大切です。海外では男性でもHPVワクチンを接種している国もあります。
パートナーの方と一緒にワクチンを受けておくこともおすすめです。
自身がどこで子宮頸がん検診を受診できるのか知りたい方は、お住まいの自治体ホームページや、お近くの医療機関、保健機関に問い合わせていただくと詳細な情報が得られると思います。
検診内容の実際
日本の各自治体では、(一部)公費負担で子宮頸がん検診を実施しています。
毎年2、3月頃になると、対象年齢の方にはお住まいの自治体から検診の知らせが届いているかと思います。多くの場合、偶数の年齢になる年に案内が届きます。
もし対象年齢でなくても、前の年に受診をしていなければ、申請をすることで検診を受けることができる自治体もほとんどです。
毎回受診いただいている方はもちろん、しばらく受けていないという方や一度も受けたことがないという方も、ぜひ次の検診は利用してみてください。
では、子宮頸がん検診についてもう少し詳しくお話ししていきます。
対象年齢:20歳以上なら受けられます
検診は、何歳ころからどのくらいの頻度で行けばいいのか、迷われる方が多いと思います。子宮頸がん検診の対象は、20歳以上の症状のない女性です。
性交渉の経験がない場合は、子宮頸がんのリスクは相対的に低いため不要と考えることもできますが、特殊なタイプまで含めて心配されるのであれば、受診する価値はあると考えています。
担当の医師とよく相談していただくと良いと思います。
検査内容:すぐに終わる細胞診のみ
子宮頸がん検診は、”細胞診”で行います。
具体的には、内診台に座ってもらい、腟鏡と呼ばれる器具で膣の奥にある子宮頸部を確認し、先端にブラシのついた特殊な器具で子宮頸部を擦って細胞を採取する、という流れになります。
採取した細胞を検査に送り、顕微鏡で観察して異常な細胞がないかを確認しています。
器械を挿入する違和感と、子宮頸部を擦ることにより少量の出血が起こることがありますが、トラブルになることはほとんどないため、安心して受診いただくことが可能です。
サイズの小さい器械も用意されていることが多いため、心配な方は事前に医師やスタッフに申し出て、小さな器械を使用してもらうと良いと思います。
力を抜いて、深呼吸を心がけてもらうと数秒で検査は完了できます。
検査間隔:可能な限り2年ごとに受けましょう
検査の間隔は、結果に問題なければ2年に1度、定期的に受けることが推奨されています。
転勤や引っ越し、妊娠出産を機に、受診が遠のいてしまう方もいますが、女性の方は“自分で歩ける間は”2年に1度、定期的に検診を受診することをおすすめしています。
また、がん検診はあくまで症状のない方を対象としているため、不正出血などの症状がある場合には検診を待たず、すぐに産婦人科を受診することが大切です。
検査結果:難しい表記なので、わからなければ聞きましょう
子宮頸がん検診結果は、下記のように表記されます。
以前はclass分類と呼ばれる5段階評価でしたが、より適切な管理につなげるため、ベセスダ分類というやや複雑な表記法が開発されました。
- 扁平上皮細胞
- NILM (エヌ・アイ・エル・エム)
- ASC-US(アスカス)
- ASC-H(アスクハイ)
- LSIL(エルシル)
- HSIL(ハイシル)
- SCC(エス・シー・シー)
- 腺細胞
- AGC(エー・ジー・シー)
- AIS(エー・アイ・エス)
- Adenocarcinoma
子宮頸がんにもさまざまな種類がありますが、その多くは扁平上皮癌で、その次に多いのが腺癌です。
そのため、子宮頸がん検診でも、主にこの二つのタイプにフォーカスして分類がされています、
NILM以外の結果の場合には精査が必要ですから、必ず精密検査を受けるようにしてください。
精密検査が必要と判断されたら必ず受診!
検診の結果、精密検査が必要と判断された場合は、必ず精密検査を受診してください。
精密検査は、主に『コルポスコープを見ながら行う組織診』と『HPV検査』です2) 。
『コルポスコープ』というのは、いわゆる拡大鏡のことです。腟鏡を挿入して、子宮頸部を拡大鏡で観察します。
緑色のライトで異常な血管の有無を確認したり、子宮頸部にお酢を付けて白く浮かび上がってくる病変の有無を観察しています。
もしも拡大鏡で観察して病変を疑う場所があった場合には、『組織診』という、細胞の塊を取ってきて顕微鏡でみる検査を行います。
組織診では擦るのではなく、1-2ミリ大の小さな塊を採取するため、パチンという感じと多少の出血を伴います。出血はタンポンなどで止まりますから、過度に心配する必要はありません。
『HPV検査』は、細胞診と同じように子宮頸部を擦ってくる検査です。HPV(ヒトパピローマウイルス)には100種類以上の遺伝子型があり、子宮頸部のリスクが高いのは、その中の一部だけです。
そういったリスクの高いHPVを『ハイリスクHPV』と呼んでおり、これらに罹患していないかどうかを確認するための検査です。
精密検査の結果で、もしも”高度異形成”や”がん”の診断になれば更なる検査や治療に進みます。
そのほかの結果であれば、3-6ヶ月毎に保険診療で病状の悪化や進行がないかをチェックしていきます。
子宮体がん検診は必要?
結論から言うと、不正出血などの症状のない方への定期的な検査は不要です。
子宮体がん検診は、子宮頸がん検診と違い、症状がない方に数年に一回行っても、死亡率を減らすことが立証されていません。子宮頸がん検診と比べ多少の痛みや感染のリスクを伴うため、症状のない方には定期的な検査は不要と考えられています。
子宮頸がん検診の際に、不正出血や月経不順などの症状がある方は医師と相談の上、子宮体がん検診を受けられます。
そのため、子宮体がん検診は症状のある方に限定して、産婦人科医が個別に判断して行っていることがほとんどです。
検査の方法は、子宮頸がん検診と同じ『細胞診』ですが、細長い棒状の器具を子宮内に挿入するため、痛みや感染のリスクがあります。
また、検診間隔もどのくらいの期間が効果的なのかわかっていないため、産婦人科医が患者さんごとに判断して決めています。
繰り返しになりますが、基本的にがん検診というのは症状のない方が対象ですから、不正出血や月経不順などの症状がある場合には、検診を待たずに産婦人科を受診することをおすすめします。
卵巣がん検診とは?聞き馴染みがない理由は、メリットが不明だから。
産婦人科で対応しているがんには、卵巣がんなどもあります。
卵巣がんは初期には全く症状がないことも多く、見つかった時にはすでに進行してしまっていることも多い病気です。
産婦人科では、超音波検査で卵巣の腫れなどを観察することがあるため、卵巣がんも一緒に見てほしいという方がたまにいらっしゃいます。
もちろん、もしも卵巣がんを疑うような卵巣の腫れがあればすぐに詳しい検査などが必要です。しかし、卵巣がん検診というのは一般的には行われていません。
子宮体癌と同じく、無症状の方に定期的に超音波検査や血液検査をしても、死亡率を下げることができないと判明しているからです。
卵巣がんを早期に発見することは非常に困難ですが、腹部の膨満感などがある場合には、遠慮せず産婦人科に相談してください(卵巣がんで多い症状の一つに腹部膨満感があります)。
まとめ
今回は、子宮頸がん検診についてお話をしました。
子宮頸がんという病気は、症状が出てしまってからだと進行してしまっていることが多く、その治療も患者さんにとって負担が大きなものとなります。
反面、早期に発見することができれば、完治の可能性も高く、その後の妊娠も可能な場合があります。
ぜひ、定期的に子宮頸がん検診を受けてみてください。
女性の方は、20歳を迎えたら症状がなくても2年に1度は子宮頸がんが必要で、歩けるうちはおばあちゃんになっても受診していただく方が安全です。
久しぶりの方や初めての方でも相談に乗ってもらえるので、心配せず受診してみてくださいね。
参考文献
- 子宮頸癌治療ガイドライン. 2017年. https://jsgo.or.jp/guideline/keigan2017.html
- 産婦人科診療ガイドライン婦人科編2020. 2020年.