院長の石川(産婦人科専門医)です。
「なんか出血している・・・、これって不正出血?」
女性の方なら誰しも一度はこのような“不正出血”を経験するのではないかと思います。
“不正出血”と聞くと、「問題ないことが多いよ」「がんの症状だ」など、さまざまな情報が目につき、困惑してしまう方も多いのではないでしょうか。
確かに、不正出血は特に問題のない「機能性出血」ということもありますし、「子宮体がんの症状」ということもあります。
「不正出血のたびに婦人科を受診している暇なんてない!」
という方もたくさんいらっしゃると思います。
では、“不正出血”にはどのように対応すれば良いのでしょうか?
今回は“怖い不正出血”である子宮体がんについて、初期症状から検査・診断までの流れを解説しながら、対応方法について、わかりやすくお話ししていきます。
この記事の執筆者
石川 聡司
(新さっぽろウィメンズ ヘルス&ビューティークリニック 院長)
北海道大学医学部卒業後、北海道大学病院、帯広厚生病院など地域の中核病院に勤務。品川美容外科にて美容外科医として3年間の研鑽を積み、2021年に婦人科・美容外科を併設した当院を開業。
婦人科全般の診療のほか、美容医療では美肌治療、美容整形をはじめ脱毛・アートメイクなど幅広く対応する。
子宮体癌の症状と原因
子宮体がんの初期症状の多くは、不正出血です。他には、色の付いたおりものや、下腹部痛などの症状がきっかけで発見されるケースもあります1) 。
進行したがんの場合でも、症状は同じく不正出血や下腹部痛となります。
閉経前後や、妊娠・出産の経験がない、無月経や月経不順がある、太りぎみ、糖尿病や高血圧がある方は子宮体がんにかかるリスクが高くなります1) 。
子宮体がんは、50歳代で多い病気ですが、最近は30歳代でも罹患することがあります。
子宮体がんの原因は、エストロゲンという女性ホルモンの過剰分泌と言われています。月経が規則的にある女性は、エストロゲンと拮抗するプロゲステロンというホルモンが排卵後の卵巣から分泌されるため、子宮体がんのリスクは減ります。一方、月経不順などでプロゲステロンの分泌が少ない方では、子宮体がんのリスクが上がると考えられています。
他には、一部、遺伝性の子宮体がんもあることが知られています。
病院受診後の詳しい検査
病院では、子宮体癌の有無を調べるためにさまざまな検査を行います。 がんの診断のためには、細胞や組織を採取する検査が必要です。
しかし、細胞や組織をとる検査の多くは、痛みを伴います。そのため、まずはできるだけ痛みが少なく、かつ、患者さんの状態に適した検査から進めていきます。
また、必ずしも全ての検査を受けなければ子宮体がんの可能性を否定できない、というわけではありません。それぞれの検査ごとに診断精度(医学では感度・特異度や陰性的中率・陽性的中率などという言葉を用います)が異なるため、いくつかの検査結果や患者さんの状態を考慮して、どこまでの検査が必要なのかを見極めながら進めていくことが一般的です。
適切に定期的な検診などを受診していれば、多くの子宮体がんは早期発見が可能です。
また、子宮体がんは早期のうちに治療をすれば、根治も望める病気です。
ぜひ、今回の内容を参考にしていただけたらと思います。
膣鏡診
みなさんは、産婦人科の内診診察の時に、「器械が入りますね」と言われたことはないでしょうか?その時に患者さんの膣の中に入れている器械を「腟鏡(ちつきょう)」と呼びます。
いくつか種類がありますが、「クスコ氏腟鏡」というタイプのものが最も一般的なので、産婦人科医はよく、「クスコ」と呼んでいます。
この腟鏡を使った診察を「腟鏡診」と呼び、産婦人科での診察時には、ほとんどの場合に行っています。
この腟鏡診によって、おりもの(婦人科では帯下(たいげ)と呼びます)や、子宮腟部(子宮の入り口の部分のこと)を観察し、適宜必要な検査(帯下の細菌検査や細胞診・組織診、腟拡大鏡診など)を行っています。
これによってポリープなどが見つかることもあり、産婦人科では最も基本的な、そして大切な検査のひとつです。
子宮体がんでも、帯下の確認やその後の検査の準備のため重要な検査です。
内診・直腸診(双手診)
次は内診についてです。
みなさんも、産婦人科の診察の時に「では、内診をします」と言われ、膣の中に産婦人科医や助産師の指を挿入された経験があるかもしれません。
患者さんにとってはあまり気分の良い検査ではないことも重々承知していますが、この内診という診察も、産婦人科の診療では欠くことの出来ないものです。
具体的には、以下のようなことを確認しています。
- 腟壁の状態チェック:伸展性や腟中隔などの奇形の有無、できものや痛みの有無など。
- 子宮や卵巣の大きさや硬度・可動性の確認:手術が必要になった場合には癒着の有無などが事前にわかることもあります。
- 周辺臓器の異常の有無:尿道や直腸、骨盤内のできものや異常の有無。
必要に応じて、直腸(お尻の穴)からの診察や、お腹からの診察も併用しています。
経腟超音波検査
超音波検査はエコー検査と呼ぶこともあります。病院でお腹にゼリーをつけて見てもらったことがあるのではないでしょうか?
超音波検査は患者さんに負担が少なく、痛みも全くなく、得られる情報がとても多いので、産婦人科にとって非常に大切な検査です。
超音波検査は、腹部から肝臓や妊婦さんの胎児をみるようなものから、胃カメラの先端につけて胃の壁越しに膵臓を観察したりと、非常に幅広い使われ方をしています。
腹部を経由してその奥をみる検査を経腹超音波検査と呼びます。産婦人科では、腟を経由してその奥をみる、経腟超音波検査も重要です。
膣の中に棒状の器械を挿入して、その先端から超音波が出ることで、子宮や卵巣を観察できます。
セックスの経験が無い方の場合は、膣からの挿入だと痛みが強くなってしまうため、お尻の穴(直腸)から挿入するケースもあります。この場合は、経直腸超音波検査と呼んでいます。
子宮体がんは子宮の内膜から発生することが多いため、超音波検査で子宮の内膜が異常に厚くなっている場合には、子宮体がんを疑って検査をすることがあります。
内膜細胞診
細胞診という検査は、婦人科に限らず、さまざまな病気でよく使用される検査方法の一つです。
それぞれの臓器に適した方法で細胞を採取し、スライドガラスなどに固定し、顕微鏡で観察します。産婦人科では、主に子宮頸がんと子宮体がんの検査として使用されています。
検査の方法は、下記のような流れになっています。ただし、施設ごとに若干の違いがあります。
- 患者さんにはまず内診台という産婦人科用の診察椅子に座っていただきます。
- 腟鏡診と内診を行います。
- 経腟超音波検査を行い、子宮の内膜や卵巣を観察します。
- 腟鏡(多くの場合はクスコ)を再度使用して、子宮の入り口(子宮腟部や子宮頸部と呼びます)を再度確認します。
- 子宮内に細い筒状の器具を挿入します。
*この際に多少痛みが出る場合があります。 - 細い棒状の器具が子宮内に挿入できたら、そのまま子宮の内膜を擦ったり(擦過法)、吸引して(吸引法)、子宮内膜の細胞を採取します。
- 細い棒状の器具を抜いて、スライドガラスなどに細胞を固定します。
- 取れた細胞の量によっては何度か器具を出し入れして、十分と思われる量の細胞を採取します。
*痛みが強い場合は少なめの回数で済ませることがあります。
*何度か採取をしても、細胞が十分量採取できないケースもあります。
このようにして採取された内膜細胞は、病理検査を行い、以下のいずれかの結果に判定されます。
- 陰性/悪性ではない
- 内膜異型細胞(ATEC:Atypical endometrial cells)
-意義不明
-子宮内膜異型増殖症/類内膜上皮内腫瘍以上を否定できない - 子宮内膜増殖症
- 子宮内膜異型増殖症/類内膜上皮内腫瘍
- 悪性腫瘍
上記の結果ごとに、推奨される追加検査などが提唱されており、担当の産婦人科医と相談して、その後の方針を決めていきます。
基本的には、「陰性/悪性ではない」以外の結果であれば、細胞診での再検査や、さらに詳しい検査として組織診が必要になります。また、「内膜増殖症」や「内膜異型増殖症」という言葉も出てきたので、こちらは後ほど説明します。
従来は、陰性/疑陽性/陽性の3段階評価で分類されていました。この評価法では、子宮内膜細胞診の内膜癌(子宮体がんの多くが内膜癌です)に対する検出感度(陽性+疑陽性)はおよそ90%、特異度は84~100%と報告されています。しかし、内膜増殖症以上の病変まで含めると、検出率は50%程度と必ずしも高くないため、上記のような、やや複雑な結果の記載方法が開発されました。
注意していただきたいのは、内膜細胞診は、子宮筋腫など他の病気の有無や、子宮内のコンディションによって、検査の精度が落ちてしまうことがあることです。つまり、がんなのに癌と評価されなかったり(偽陰性)、がんではないのに癌の疑いと出てしまう(偽陽性)ことがよくあります。
そのため、産婦人科医は細胞診以外の検査も加味して、総合的に子宮体がんの可能性を評価しています。
内膜組織診
次にお話しするのが、内膜組織診です。
前述した通り、がんという診断をするには、がんの組織がなければなりません。
細胞診というのは、あくまで細胞ひとつひとつを見ている検査で、がんの組織と診断するためには組織を採取してくる組織診を行う必要があります。
細胞診というのは、細胞ひとつひとつの粒を見て調べる一次検診というイメージで、組織診というのは、一次検診で要精査になった方に行う二次検診のようなイメージです。
子宮体がんの場合は、経腟超音波検査で異常がある場合などは、「内膜増殖症」など、がん以外の病気の可能性も考慮して、細胞診と併せて組織診も行うケースもあります。
採取方法は、基本的には細胞診と同じように、膣鏡を使用して子宮の中に細い棒状の器具を挿入して行います。
近年は、痛みの少ない検査キットも開発されていますが、組織がしっかりと採取できない場合には、手術室で全身麻酔などを併用して行うこともあります。
また、子宮の頸管が細い方の場合には、強い痛みが生じることもある検査です。そういった場合にも、麻酔を併用して行うことがあります。
血液検査(腫瘍マーカーなど)
がん診療で、治療効果やがんの種類の推定などに使用される、腫瘍マーカーというものがあります。血液検査で調べることができ、近年は人間ドックなどにも取り入れられることがある検査です。
子宮体癌では一般的にCEA、CA19-9、CA125などを調べます。これらが陽性であれば必ずがんというわけではありませんし、早期がんであれば陰性のこともある検査です。
また、たとえばCA125は月経中には上昇するなど、生理的な上昇も知られています。ただ、もしも人間ドックなどでこれらの腫瘍マーカーが陽性となった場合には、専門の機関で詳しい検査を受けることをおすすめします。
子宮鏡検査(ヒステロスコピー)
不正出血が続く場合や、経腟超音波検査で子宮の内膜が厚くなっている場合などには、「内膜ポリープ」などの病気の可能性もあるため、前述した内膜細胞診や組織診の結果も考慮しながら、子宮鏡検査を行うこともあります1) 。
検査の手順は、まず細胞診や組織診と同じように、膣鏡を使用して子宮の中に小さな胃カメラのような器具を挿入します。そして、水で子宮の中を膨らませ、器具の先端のカメラで子宮の中を観察します。
近年は、子宮体がんに限らず、不妊症などの検査にも使用されており、痛みの少ない器具も開発されているため、日帰り通院での検査が可能な施設も増えてきています。
この検査でポリープなど病変が見つかった場合には、症状やサイズに応じた治療を検討します。
子宮体がんの場合にも、細胞診や組織診を行う時に、直接病変をカメラで見ながら細胞を採取できるメリットがあります。
MRI、CT検査
組織診などで子宮体がんの診断がついた場合には、骨盤MRI検査を行うことが一般的です。
子宮体がんがどの程度進行しているのかを予測するには、現時点で最も有用性の高い検査法の一つです。閉所恐怖症や体内に金属や刺青を入れているなど、MRI検査ができない方以外は、治療前に一度は行う検査です。
子宮は骨盤という大きな骨に囲まれている臓器のため、放射線を利用したCT検査よりも、磁力を利用したMRI検査の方が有用です。MRI検査は、子宮体癌のみならず、子宮筋腫など他の婦人科の病気の検査にも頻用されています。
MRI検査のデメリットは、CT検査と比較して時間がかかってしまうことが挙げられます。また、肺やリンパ節などを調べる場合はCT検査の方が優れている場合も多くあります。
どちらの検査も、造影剤を使用する場合に点滴が必要になります。
PET-CT検査
近年は、PET-CTという検査も広く行われるようになりました。
この検査は、放射能を含む薬剤をブドウ糖などと一緒に患者さんに投与して、組織ごとの糖の代謝能力などをみる検査です。
がん細胞は、普通の細胞よりもたくさんのブドウ糖を必要としています。つまり、糖の代謝が多い場所=がん細胞と予想し、全身へのがんの広がりを検査します。
CTやMRI検査は、主に臓器の形を見る検査ですが、形だけでは判断がつかない状態の場合に、その組織の機能をみることで、がんの転移の有無などを判断する材料にしています。
内膜増殖症・内膜異型増殖症とは?
「子宮内膜増殖症」や「子宮内膜異型増殖症」というのは、子宮体がんの前がん病変と言われるものです。
前がん病変とは、がんと言えるほど悪い見かけはしていませんが、将来がんになる可能性を持っている通常よりも異形を持つ病変のことです。
「子宮内膜増殖症」であれば、自然に消えることも多く、子宮体がんへの移行率も低いため、基本的には手術などは行わずに経過を見ていくことになります1) 。
不正出血や過多月経を伴う場合には、女性ホルモンの一つである、プロゲステロンを投与したり、ミレーナと呼ばれる器具を使用することもあります。
「子宮内膜異型増殖症」の場合には、子宮体がん(特にⅠ型と呼ばれるエストロゲン依存性のタイプ)への進展や、併存のリスクが高いことから、原則的には子宮を摘出するなどの治療が必要です2) 。
ただし、今後の妊娠・出産の希望が強い場合には、慎重な経過観察とプロゲステロンを使用した治療を行います2) 。
婦人科がん検診(自治体検診)と婦人科で行うがん検査(保険診療)の違い
多くの女性にとって、婦人科を受診するタイミングというのはなかなか分かりにくいのではないでしょうか?
不正出血があるのであれば、一度は婦人科に相談いただきたいのですが、実は女性であればどなたでも定期的に婦人科を受診していただけるきっかけがあります。
それが、自治体の婦人科がん検診です。
お住まいの市区町村から、20歳以上の女性の方には2年に1回婦人科がん検診のチケットが配られています。このがん検診は主に、「子宮頸がん」を対象にしたものです。子宮体がん検診は、年齢などを考慮せずに、全ての無症状の女性にまで行うことの有効性は確認できておらず、国や自治体の医療費負担の面からも推奨されていません3) 。
下記に該当する方には、担当医の裁量のもと、子宮体がん検診として「子宮内膜細胞診」を受けていただくことが可能です。
- 最近6ヶ月以内に不正性器出血があった方
- 最近6ヶ月以内に月経異常(過多月経、不規則月経など)のある方
- 最近6ヶ月以内に褐色帯下のあった方
- 子宮体がんの高リスク因子を有する女性(未婚、不妊、閉経後、初婚・初経が遅い、妊娠・出産数が少ない、30歳以降の月経不規則、エストロゲン服用歴、糖尿病の既往、高血圧の既往、肥満、乳がん治療でホルモン療法中など)
自治体の検診は、例年6月頃から開始されます。
また、前年度にうけていない方はチケットが届かない年でも申し込みをすれば検診を受けることができる自治体が多いです。
婦人科検診の際に、他の婦人科トラブルについて相談することもできますから、婦人科に行く機会がない方は、ぜひ利用してみてください。
また、症状があり、婦人科を受診していただいた場合には、保険診療でがんの検査を行うこともちろん可能です。検診のチケットがなくても、お困りの症状があれば遠慮なく相談いただければと思います。
子宮体がんの検診は、“何年に1回受ければ大丈夫“ということがまだ明確にはわかっていません。
症状がある場合には、産婦人科の専門医をよく相談しながら、通院や検査間隔、治療の方法などを相談する必要があります。
まとめ
今回は、子宮体がんの検査を中心に解説いたしました。
多くの場合、不正出血という症状が最初に子宮体がんに気がつくチャンスになります。
子宮体がんは、運が悪いと1、2ヶ月でかなり進行してしまうようなタイプのものもあります。もしも不正出血などに気がついた場合には、すぐに婦人科を受診して相談してください。
月経トラブルに対する治療が、子宮体がんの予防になることもありますから、月経関連の相談も大切です。
通常の生理と異なる症状がある方は、一度は婦人科に相談していただき、その後は少なくとも1年や2年に1回は婦人科のがん検診を受けていただくことをおすすめします。
参考文献
- 産婦人科診療ガイドライン婦人科外来編2020. 2020年. https://www.jsog.or.jp/activity/pdf/gl_fujinka_2020.pdf
- 子宮体がん治療ガイドライン. 金原出版. 2018年.
https://jsgo.or.jp/guideline/taigan2018.html - 女性医学ガイドブック更年期医療編2019年版 第2版. 金原出版. 2019年.