院長の石川(産婦人科専門医)です。
この記事をお読みのほとんどの方は頭痛を経験したことがあるのではないでしょうか。
頭痛持ちであっても必ずしも通院治療をしているとは限りません。いつもと同じ頭痛くらいであれば、市販の痛み止めを服用して、ゆっくり休むことで治すといった自己流の治療をされる方も多いでしょう。それで良くなっているのであれば、ほとんどの場合で問題がありません。
女性は、男性よりも頭痛の頻度が多く、日常生活に支障をきたすことも少ないと言われています。生理前や生理中に感じる頭痛が悪化する方は多いのです。
また、ひとくちに頭痛といっても、少し体調が悪いな、というものから、動けなくなるほど痛いというものまで、多彩な症状が見られます。頭痛をきたす原因によって、様子を見ても良いものから病院受診が必要なものまでさまざまあります。
今回の記事では、女性にとって悩みの一つである頭痛の原因や対処法などついて説明します。
この記事の執筆者
石川 聡司
(新さっぽろウィメンズ ヘルス&ビューティークリニック 院長)
北海道大学医学部卒業後、北海道大学病院、帯広厚生病院など地域の中核病院に勤務。品川美容外科にて美容外科医として3年間の研鑽を積み、2021年に婦人科・美容外科を併設した当院を開業。
婦人科全般の診療のほか、美容医療では美肌治療、美容整形をはじめ脱毛・アートメイクなど幅広く対応する。
頭痛は女性に多い
日本では、頭痛持ちの方はおおよそ4人に1人くらい(片頭痛の場合は人口の8.4%、緊張性頭痛の場合は22.3%)であると言われています1, 2) 。
女性にとって頭痛はありふれた症状の一つであり、男性よりも頭痛もちの頻度が高いと言われます。
特に、生理前〜生理中に頭痛が悪化することが多く、この生理周期に関連する頭痛は女性特有のものです。毎月のように頭痛や体調不良に悩まれている方も多いことが知られています2, 3) 。
頭痛の種類について
頭痛は原因などによってさまざまな病名に分類されています。大きく一次性頭痛と二次性頭痛との2つに分けられます。
一次性頭痛とは、明らかな原因がはっきりしない慢性的な頭痛のことです。二次性頭痛とは、何かしらの原因となる病気があるために出現した頭痛のことです。
順に説明していきましょう。
一次性頭痛
一次性頭痛の代表的な病気は、緊張性頭痛、片頭痛、群発頭痛などです。
このうち、緊張性頭痛、片頭痛はともに女性の頻度が高いことが知られています3) 。
緊張性頭痛
緊張性頭痛は、頭をギューっと締め付けられるような頭痛が特徴的です。
一次性頭痛の中で最も頻度が高いのですが、なぜ発生するのかはいまだに不明な点が多い病気です。そのため、なぜ女性で頻度が高いのか、ハッキリはわかっていません。
症状が軽ければ病院に行かずに自然に治るので、未治療であることも少なくありません。
片頭痛
片頭痛は、30歳代女性で20%と高頻度で起こります。これは男性の3.6倍の確率といわれています。また、女性の片頭痛患者さんの60%は、生理に関連して片頭痛の発作が起きているといわれています1, 4, 5) 。
片頭痛も原因がはっきり解明されているわけではありません。
仮説はいくつかありますが、三叉神経血管説が有力視されています。三叉神経は、主に顔の感覚を脳に伝える神経ですが、その働きによって血管が拡張して片頭痛を引き起こす、と考えられています。
この神経の伝達には神経ペプチドという伝達物質が関与していますが、女性ホルモンであるエストロゲンがこれらの神経ペプチドの代謝や神経の作用に関与することが知られています。これによって生理前や生理中に片頭痛発作が起こっている可能性があるのです。
生理周期では、エストロゲンは周期的に増減をしていますが、生理の数日前からエストロゲンが急激に減少することで生理が引き起こされます。このエストロゲンの減少が片頭痛を引き起こす原因として考えられています。
これは必ずしもエストロゲンが低い値であることが発作を起こすわけではなく、エストロゲンへの感受性が関連しているようです6) 。つまり、エストロゲンの値が低く、増減することもない閉経後には、月経関連片頭痛は起こりにくくなるとされています。
片頭痛の症状として、片方の頭がズキズキと痛んだり、気持ち悪さや光・音への過敏性などがみられます。キラキラ、ギザギザの光(閃光暗点)などの前兆がみられることもあります。
二次性頭痛
二次性頭痛の代表的な病気は、脳出血(脳内出血、くも膜下出血)、脳腫瘍、髄膜炎などです。これらはすぐに治療しなければいけない病気です。
救急車で病院を受診する方の1000人中32人(3.2%)が頭痛が原因で救急車を呼び、そのうち半分以上(53.6%)が二次性頭痛、そのうち1人(8.1%)がくも膜下出血であったという報告があります7) 。
二次性頭痛を疑うポイントして、「突然おこったか」「今まで経験したことのない頭痛か」「いつもと様子の違う頭痛か」「どんどん悪化するか」などがあります3) 。
このような特徴がある頭痛の場合には、すぐに病院を受診する必要があります。後の章で再度説明します。
生理周期と頭痛の関係とは
生理周期に関連した片頭痛の場合には、生理周期、特に女性ホルモン(エストロゲン)が急激に低下する数日前、特に生理1日前に最も片頭痛の発作が多いとされています。エストロゲンの急激な減少により起こるため、生理前だけではなく、排卵日にも起こりやすいとされています8) 。
特徴としては、通常の片頭痛と違い、前兆(チカチカしたりするなど)がない、重い頭痛、長く続くなどの特徴が知られています3) 。
片頭痛でなくても、生理前の女性ホルモン値の変動により頭痛が起こることがあります。頭痛以外にも精神神経症状として情緒不安定やイライラ、抑うつ、だるさ、身体症状として腹痛、腰痛、むくみなどが起こることがありますが、月経前症候群(PMS)と呼ばれています。次章でPMSについて解説しましょう。
月経前症候群(PMS)とは
生理の経験がある女性の場合、生理前の不調は多くの方がご経験あるのではないでしょうか。文献にもよりますが、生理前の症状は多く(約80%)の女性で出現していることが報告されています9) 。
女性ホルモンの変動(主に、エストロゲンの低下、プロゲスチンの上昇)により、生理開始の1-2日前から胸の張りや違和感などが出ますが、軽症で日常生活に影響がない程度であれば、これらの症状は病的なものではありません。
PMSは、月経前 3~10 日間の黄体後期に発症する多種多様な精神的あるいは身体的症状で、月経発来とともに減弱あるいは消失するものと定義されています10) 。
つまり、生理前の症状で、学業や仕事などに支障が出たりする状態のことを指します。
身体的な症状と精神的な症状が出現します。身体的症状としては、腹痛、頭痛、腰痛、むくみ、お腹のはりなどがあり、精神的な症状としては、情緒不安定、イライラ、うつ症状、不安、睡眠障害、集中力の低下、自律神経症状などがみられます。
特に、イライラやうつ症状などの精神症状が強い場合には、月経前不快気分障害(PMDD)として別に分類されます。
PMSでも頭痛が症状として現れますが、月経関連片頭痛と区別することは重要です。
PMSの原因は排卵による女性ホルモンの変動のため、それを抑えるための治療として低用量ピルを服薬することで排卵を抑え、症状を緩和させます。
なお、前兆のある片頭痛の患者さんに低用量ピルを投与することは禁忌とされています。前兆がない場合には、慎重投与となっています。低用量ピル服薬中の患者さんの片頭痛発作の治療では、発作のリスクや低用量ピルのメリットなどを勘案し、治療を決めるのが望ましいとされています3)。
生理前の頭痛には解説した通り、原因がいくつかあります。原因によって治療法が異なるため、症状が強い場合には病院で相談するのが望ましいでしょう。
月経困難症とは?
月経困難症とは、生理時あるいは直前に始まる強い腹部痛や腰痛、それに伴う腹部膨満感、吐き気、頭痛、疲労、脱力などの症状が特徴的です11) 。
月経困難症は、子宮などに何かしらの原因があり起こる器質性月経困難症と、それ以外の機能性月経困難症に大きく分けられます。
器質性月経困難症の原因としては、子宮内膜症、子宮筋腫、子宮腺筋症などがあります。これらの疾患は生理痛に強く関係しており、また治療せずにおくと、貧血や将来的な不妊症にもつながるため診断・治療が重要です。
最近では、10-20歳代の若い世代にも子宮内膜症は増えており、中学〜高校生などの若い女の子も産婦人科で治療をした方が良い場合もあります。
機能性月経困難症は、思春期の子供に多いとされていますが、生理の初日〜2日目の出血が多い時に、痛みが強いと言われています。
月経困難症の割合は34-94%と高く、学童期の場合、学校の欠席は7.7-57.8%、欠席しなくても集中力低下や学業への影響、スポーツなどへの影響などが強いことが報告されています。しかし、月経痛に関して43%が我慢、35%が薬で我慢、2%が寝込む、という報告があり、あまり積極的に病院での治療が行われていないという現状があるようです11) 。
このように、月経困難症も非常にありふれた病気ですが、毎月のことで、痛み止めなどの自己流で治療してしまうこともあるかもしれません。日常生活に支障をきたしている場合には、ぜひ一度婦人科で相談していただければと思います。
妊娠(つわり症状)での頭痛とは
妊娠中の頭痛としては、時期により考える病気が異なるため、分類して解説していきましょう。
妊娠初期では、片頭痛、緊張性頭痛が起こりやすいとされています。急激なホルモンバランス(主に黄体ホルモンの上昇)の変化により起こるとされており、発作が起こってしまうようです。もともと片頭痛もちで治療中などの場合には、妊娠中は使えなくなる薬剤もあるため、治療をする上で産婦人科で相談が必要となります。
妊娠初期を過ぎ、エストロゲンの分泌が高い状態となった時期では、片頭痛発作は起こりにくいとされており、頭痛の症状は改善することが多いといわれています。
緊張性頭痛の場合には、疲れや眼精疲労などによって痛みがでることがあります。緊張性頭痛の場合にも、妊娠前から症状がある方が多いのですが、妊娠中は67%が変わらないというデータもあり、緊張性頭痛は妊娠により改善することは少ないようです12) 。こちらも痛み止めの種類によって妊娠中は使用できないものもありますので、治療に関しては婦人科でご相談するのが良いでしょう。
つわりの症状として頭痛が起こる場合があります。主に、吐き気などにより十分な栄養摂取ができず、低血糖になると頭痛を起こすことがあります。この場合には、重いつわり(妊娠悪阻)で点滴治療などが必要になる可能性があります10) 。
低血糖だからといって糖分のみを取ってしまうと、糖分の代謝で必要な補酵素である成分も枯渇しているため、重篤な状態(乳酸アシドーシス、ウェルニッケ脳症)に陥る場合があります。妊娠中は、定期的な妊婦検診や体重管理などで、経過をみるのが良いでしょう。
妊娠中期から後期にかけての頭痛の原因として考えられるものとして、貧血があげられます。妊娠中は、お腹の赤ちゃんへの栄養補給(胎盤)への血流を増やすため、相対的に血液が薄まった状態(血液希釈、妊娠水血症)になっています。
この状態自体は正常ですが、貧血に伴って頭痛やふらつき、低血圧などの症状が出ている場合には治療が必要です。貧血による頭痛の場合には、貧血を治療することで症状が改善します。
その他、妊娠中期以降の頭痛として妊娠高血圧症候群などがあげられます。妊娠高血圧症候群は妊婦さんの20人に1人の割合で起こる比較的頻度の高い病気です。早発型と呼ばれる妊娠34週未満で発症した場合には重症化しやすく、重篤な合併症や胎児の発育不全、常位胎盤早期剥離といって、正常の時期以外に胎盤が剥がれて胎児に酸素が届かなくなるなどの状態を起こすリスク因子となります。
名前の通り高血圧となるので、まずは定期的な妊婦検診で血圧などを測定することで発見すること、診断された際には安静、入院の上、薬剤治療を行い血圧をコントロールすることが大切です10) 。
頭痛への対処法とは
頭痛の治療に関しては、原因によって異なりますので、まずは頭痛の原因を知ることが大切です。
ここでは、片頭痛の治療について説明します。主に、発作時の強い痛みに行う急性期治療と予防療法があります3) 。
急性期の治療は薬剤治療が中心です。痛み止めでできるだけ早く痛みをとることが大切です。
まずは、アセトアミノフェン、非ステロイド性非炎症薬(NSAIDs)、吐き気止めを使います。アセトアミノフェン、NSAIDsは市販薬としてもさまざまな製品が薬局で手に入ります。これらの薬剤の効果がない場合や強い症状の場合には、トリプタンという薬剤が推奨されています。
トリプタンには飲み薬、点鼻薬、皮下注射薬などさまざまな製剤があり、それらを選択することができます。自分の生活スタイルにあった製剤を主治医と相談して選ぶことが大切です。
また、トリプタンの投与のタイミングは、頭痛が軽いか起こってからすぐ(発症から1時間くらいまで)が効果的とされています。あまりに飲むのが早すぎるなど、時期を逃すと効果がない可能性があります。
月経関連片頭痛の場合には、トリプタンの治療効果が高いといわれています。予防的にトリプタンや痛み止めを飲む方法、ホルモン療法など効果があるものも報告があります3) 。
その他、エルゴタミンというカフェイン配合薬も選択肢の一つです。トリプタンでうまく治療できない場合などには有効性があるとされています。
これらの薬剤は、アセトアミノフェン以外は妊娠時期により控えた方が良い場合や、リスクを考えても使用した方が良い場合など、患者さんの状態によっても治療方針は変わります。妊娠の可能性がある時期から妊娠中にかけては、主治医と相談の上で薬剤の使用や変更を考えていきましょう。
予防療法については、片頭痛の発作が何度もある(月2、3回以上ある)場合には、投薬治療を考慮しましょう。薬剤としては、抗てんかん薬(バルプロ酸ナトリウム)、β遮断薬(主に高血圧、心筋梗塞などに使用される薬剤;プロプラノロール塩酸塩)、抗うつ薬(アミトリプチン塩酸塩)、抗カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)抗体製剤などが挙げられます。
薬以外の治療法としては、片頭痛の原因となるものを避けるのが望ましいでしょう。ストレスや精神的緊張、疲れ、寝過ぎも睡眠不足も誘因になるので、避けましょう。
生理や天候の変化、温度差、気圧も誘因になります。気圧病の症状として片頭痛がでるため、気圧と関連付けて頭痛が起こりやすい日をお知らせするなどのサイトもあります。これらの天気や気象の変化は避けられないものですので、情報を事前にチェックして、不調になりそうな時はゆっくり休める環境づくりが大切です。
食事として、空腹やアルコール、特に赤ワインが誘発・増悪因子として知られています。片頭痛もちの方は、油の多い食べ物やコーヒー・お茶の消費が多いこと、片頭痛の慢性的な痛みと肥満が関係しているという報告などもあり、バランスの良い食事や肥満を防ぐことが大事です。
睡眠や食生活、ストレスマネージメントをすることでライフスタイルを改善させて頭痛の症状を改善させ、適正体重を維持することで片頭痛の慢性化を防ぐことが望ましいです。
緊張性頭痛の場合には急性期の治療としては、NSAIDsなどの痛み止め、予防としては抗うつ薬や運動療法(頸や後頭部の筋肉をリラックスさせる運動)や理学療法、鍼灸治療などを組み合わせて行われることが多いです。
すぐに病院受診が必要な頭痛とは
頭痛の分類の章でもお伝えしましたが、頭痛のうち、何か原因があり、頭痛が起こっている二次性頭痛の場合には、基本的には病院受診が必要です。
一次性頭痛の場合にも、まずは二次性頭痛でないこと確認することが大事です。一次性頭痛の場合にも原因検索や診断した方がよりよい良い治療につながる場合もあります。我慢しすぎず、医師へ相談していただくのが良いでしょう。
ここでは、すぐに病院受診が必要な、特に重要な頭痛について解説しましょう。
二次性頭痛のうち、脳出血(脳内出血、くも膜下出血)、髄膜炎、脳腫瘍(特に脳ヘルニア)などが緊急性の高い頭痛として知られています。
二次性頭痛の特徴として、
- 突然の頭痛
- 今まで経験したことのない頭痛
- いつもと様子の異なる頭痛
- だんだん悪化する頭痛
- 50歳以降に初めて起こった頭痛
- 手足や顔などが動かない、痺れるなどの症状がある頭痛
- がんや免疫不全などの病気がある・治療中に現れる頭痛
- 精神症状(性格変化や精神的にいつもと違う)を伴う頭痛
- 発熱や首が硬い、痛がる症状を伴う頭痛
などが挙げられます3) 。
二次性頭痛の中で、最も見逃せない病気としてはくも膜下出血がありますが、典型的な症状は『②今まで経験したことがない、①突然の激しい頭痛』です。
くも膜下出血は死亡率が25-53%と非常に高い病気で、脳動脈にできたコブ(脳動脈瘤)が破裂することで起こります。バッドで殴られたような強い痛み、雷鳴頭痛などと表現されます。
脳内出血は、脳の血管が破けて出血することで起こる病気です。高血圧症のある方に発症しやすく、痛みだけはなく手足の動きが悪い(麻痺)などの症状を伴うことが特徴です。
髄膜炎は、脳を包む膜と脳の隙間にある脳脊髄液でウイルスや細菌が増えることで起こる病気です。発熱や意識が悪いなどの他の症状を伴う頭痛であることが多く、こちらもすぐに治療が必要です。
脳の病気以外でも、二次性頭痛を発症することがあります。
特に緊急性が高いものとしては、急性緑内障発作という目の病気があります。閉塞隅角緑内障というタイプの緑内障の場合、急激に目の中の圧が上昇することがあります。
目は奥の方で頭の中と繋がっているため、眼圧が上がると頭痛や目の痛みなどを起こします。放置すると視力低下や最悪の場合失明することがあり、こちらも早く病院受診が必要です。
いつもと違う頭痛や、痛み止めを飲んでも改善しない場合、この章にあげたような項目が当てはまるようでしたら、迷わず病院を受診しましょう。
まとめ
日常にありふれた症状である頭痛、特に女性に多い頭痛を中心に説明しました。
頭痛には、緊急度の低いものから高いものまでさまざまあります。すぐに病院受診が必要な頭痛に当てはまらない場合にも、今一度自分の頭痛がどれにあたりそうなのかチェックし、医師へ相談してみてはいかがでしょうか。
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