低用量ピルは原則、毎日服用し続ける薬ですが、服用を止める休薬期間もあります。
初めて低用量ピルを服用する方はもちろん、服用中の方も「休薬する期間はなぜ必要なの?」や「避妊効果は本当に続いているの?」など、疑問に感じたことがあるのではないでしょうか。
薬の種類によって、休薬期間がある場合もない場合もどちらもありますので、混乱してしまうのも無理はないかもしれません。
この記事では、低用量ピルの休薬期間にスポットを当てて、休薬期間の際に疑問に感じることやその対処法などについて説明していきたいと思います。
この記事の執筆者
石川 聡司 日本産科婦人科学会認定 産婦人科専門医
(新さっぽろウィメンズ ヘルス&ビューティークリニック 院長)
北海道大学医学部卒業後、北海道大学病院、帯広厚生病院など地域の中核病院に勤務。2021年に婦人科・美容外科を併設した当院を開業。
- 資格:日本産科婦人科学会認定 産婦人科専門医
- 所属:日本美容外科学会JSAS、日本女性医学学会、日本産婦人科学会、日本周産期新生児学会
ピルの休薬期間とは
低用量ピルは毎日服用して28日間を1周期としますが、文字通り薬の服用を止める休薬期間があります。
低用量ピルには21錠タイプと28錠タイプがありますので、21錠タイプであれば、最初の21日間は1日1錠(計21錠)の薬を服用して、残りの7日間は休薬期間として、薬を飲まないまま過ごします。
28錠タイプは毎日1日1錠服用し続けるので、一見すると休薬期間がないように思われますが、最後の7日間は偽薬(プラセボ薬)です。つまり、28日間のうち、最初の21日間(21錠)が有効成分のある薬(実薬)であって、最後の7日間は服用していても実質的に薬を飲んでいないのと同じような状態なのです。
プラセボ薬は、飲み忘れ防止や低用量ピル服用の習慣作りのために用意されているものです。うっかり飲み忘れても支障のない錠剤です。
- 21錠タイプ:21錠全てが実薬、7日の休薬期間。
- 28錠タイプ:実薬が21錠、偽薬が7錠。休薬期間なし。
ところで、なぜ休薬期間が必要なのでしょうか。いくつか理由があります。
・妊娠しているかどうかを確認する
休薬期間には生理(消退出血)が起こります。個人差はありますが、休薬期間の開始から2日前後で出血が起こります。
低用量ピルの休薬によってホルモンが補われないため、子宮内膜の厚みを増す作用が止まり剥がれ落ちるために出血します(消退出血)。この出血があれば妊娠していないことを確かめられます。
・卵巣の機能を保つ
低用量ピルは、「卵胞が育たないように」「排卵しないように」と卵巣へ働きかける作用があるため、服用中は卵巣の働きが止まった状態です。低用量ピルの服用期間中は、卵胞は育たず排卵もされませんが、休薬することで卵巣の活動を定期的に再開させて正常な機能を保つ必要があります。
なお、低用量ピルの服用によって将来の妊娠の可能性には影響を及ぼさないことが知られています。
妊娠の希望のために低用量ピルの服用を中止した人たちのうち妊娠が成立した割合は、低用量ピルを服用していない女性と変わらないといわれています。また、低用量ピルの使用期間と妊娠率とは関連がないということもいわれています1) 。
休薬期間中に妊娠する可能性
休薬期間は、薬を休むということで、妊娠するのではないか、と不安になる方も少なくないと思います。
低用量ピルは実薬21日間、休薬(偽薬=プラセボ薬)7日間、という28日間周期で服用する薬です。
この21日間の実薬を飲み忘れていなければ、休薬期間に妊娠する可能性は低く、99.7%の避妊効果があるといえます。
休薬期間に消退出血があれば、妊娠していないことも確認できます。
ただし、超低用量ピルを服用している場合に、消退出血の量が減少していき出血が無くなるかたも少数(1%未満)ながらいらっしゃいます。この場合は服用を継続しながら、妊娠検査を行うことが望まれます1) 。
妊娠検査薬を使用するか、クリニックを受診しましょう。
休薬期間中に妊娠する可能性が出てくるのは、以下のような場合です。
- 低用量ピルを飲み忘れた日がある
- 低用量ピル服用後2時間以内に嘔吐または下痢があった
低用量ピルを飲み忘れた日がある場合には、妊娠する可能性は否定できないので注意が必要です。
- ①1日(1錠)分の服用を忘れた(直前の実薬服用から24-48時間未満経過した)場合2)
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気づいた時点で飲み忘れた1錠を服用してください。いつも服用する時間に近い場合は2錠をまとめて服用してください。残りの錠数は予定通りに服用してください。
緊急避妊薬(アフターピル)は通常必要ありません。しかし、シートの最初もしくは最後の錠剤を飲み忘れた場合には、排卵日の前後の可能性が高くなるので、アフターピルの使用を検討してもよいです。
- ②2日(2錠)分以上の服用を忘れた(直前の実薬服用から48時間以上経過した)場合2)
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気づいた時点で2錠まとめて服用してください。その後は、いつも通りの時間に服用するようにしてください。
この場合は、妊娠の可能性が高くなるので、7日間(7錠)以上連続して服用するまで他の避妊法(コンドームの使用など)を併用するか、性交渉を避けてください。
低用量ピルの飲み忘れについては、以下の記事で詳しく説明しています。
低用量ピル服用後2時間以内に嘔吐または下痢がみられた場合は、ピルが体内に吸収されていないため、できる限り速やかにもう一度服用し、さらに翌日定時に服用してください。
2時間以上経過した後の嘔吐または下痢であれば、体内に吸収されているので、追加の服用は不要です。
休薬期間明けのピルの飲み忘れ
第1週始まり頃の低用量ピルの飲み忘れは、妊娠する可能性があるので注意が必要です。
妊娠するには、卵巣で育った卵胞が排卵され、精子と受精して子宮内膜に着床することが必要です。低用量ピルは、「卵胞が育たないように」「排卵しないように」と卵巣へ働きかける作用があり、避妊につながります。
卵胞に注目すると、自然周期における8日目に卵胞径は10mm程度に達し、その後1日あたり2mmずつ大きくなり、排卵前日(13日目)には20mm程度に達します3) 。
卵胞径が10mmの場合には排卵することはありませんが、14mmでは36%、18mmでは93%が排卵することが知られています1) 。卵胞発育が進行すると、低用量ピルを服用開始しても排卵を抑えることができないのです。
月経開始1日目に低用量ピルの服用を行うのが望ましいのは、卵胞径が大きくなる前から卵巣への作用が効いてくることで避妊効果がすぐに得られる、という理由からです。月経開始から5日目までであれば、卵胞はそれほど大きくなっていないので、排卵している可能性は高くありません1) 。
休薬期間明けの低用量ピルの飲み忘れは卵胞が発育し、妊娠の可能性が出てくるため要注意です。この期間に低用量ピルを飲み忘れた場合、確実に避妊するためには、新しいシートになるまで他の避妊法(コンドームの使用など)を併用する必要があります。
第1週目に3日間(3錠)以上の飲み忘れがあって、他の避妊法(コンドームの使用など)を用いない性交渉を行った場合には、妊娠確率を下げるために緊急避妊薬(アフターピル)の使用を検討する必要があります。
休薬期間を短縮したい場合
避妊目的の低用量ピルの多くは、7日間の休薬期間のある21錠タイプか、休薬期間のない28錠タイプです。
休薬期間があるために、つい飲み忘れてしまう、とか、飲み忘れそうになって焦った、という悩みの声を聞くことがあります。休薬期間が短ければ、あるいは、休薬期間がなければ忘れないのに…、というふうに思うこともあるかもしれませんね。
休薬期間を短縮したいという場合は、以下の3通りが考えられます。
- ①休薬期間を4日間の薬に変更する
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ヤーズ®の場合、24日間の実薬と4日間の偽薬を服用となる
- ②数周期に1回休薬する、というように生理周期を長くして休薬頻度を減らす
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ジェミーナ®の場合、生理周期を最大84日間=3周期分まで伸ばすことが可能
- ③実薬の服用を可能な限り長く続けて、出血が見られたところで休薬する方法にする
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ヤーズフレックス®の場合、最大120日間連続して実薬を服用するか、3日間連続して出血が認められた段階で4日間休薬する
ただし、ヤーズ®やジェミーナ®、ヤーズフレックス®は、月経困難症や子宮内膜症に対して保険診療で処方される薬であるということに注意が必要です。
他の薬で月経困難症や子宮内膜症の治療をされていた方であれば大きな問題はありませんが、自由診療で避妊を目的とした低用量ピルを服用している方の場合には、医師と相談して対応を考えていきましょう。
- 避妊目的の低用量ピル(自由診療)
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シンフェーズ®、アンジュ®、トリキュラー®、ラベルフィーユ®、マーベロン®、ファボワール®
- 月経困難症や子宮内膜症の疼痛の改善(保険診療)
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ルナベル®、フリウェル®、ジェミーナ®、ヤーズ®、ヤーズフレックス®
飲み忘れを防止するために休薬期間をなくしたいという目的であれば、28錠タイプがおすすめです。28錠タイプは7日間分の偽薬が入っており、休薬期間なしに次のシートがはじまり、休薬することなく毎日1日1錠を服用し続けることができます。
- 28錠タイプの低用量ピルを服用する
休薬期間中の体調がしんどい場合の対処法
低用量ピルを服用し始めてから最初の数ヶ月間は、副作用を経験することがあります。服用して数日間後から、吐き気や悪心、むかつき、むくみ、頭痛、眠い、不正出血、出血が多い、乳房の痛み、気分の落ち込み、などが出現することがあります。
また、生理を早めるために、プラノバール®のような中用量ピルを服用して早めに休薬期間を設定した際には、副作用が強くなることがあるかもしれません。
中用量ピルであるプラノバール®に含まれるエストロゲンの内容量が低用量ピルよりも多いため、このような体調不良が起こりやすいとされています。ただし、多くの場合は一時的であり、服用を継続していくと体が慣れていき、副作用の症状が減っていくことが多いとされています。
あまりにも体調がしんどい、吐き気、頭痛などの症状が続いて、日常生活に支障が出る場合には、医師へ相談してください。
偽薬の中身や飲み忘れ
もともと錠剤は、有効成分だけではなく、医薬品添加剤といわれる物質と混ぜて固められて作られています。
医薬品添加剤というのは、聞きなれないものかもしれませんが、主にでん粉や乳糖など、人体に害をもたらさないものが含まれます。医薬品を服用しやすくする、服用する際に有効成分が放出されて体内に吸収しやすくする、錠剤を作りやすくする、などといった役割があります4) 。
偽薬(プラセボ薬)とは、有効成分の含まれていない薬のことです。つまり、医薬品添加剤のみで作られた錠剤ということになります。
そのため、プラセボ薬を飲み忘れた場合でも、大きな問題はありませんのであせる必要はありません。
28錠タイプでは、最初の21日間は有効成分の含まれている薬(実薬)で、残りの7日間分がプラセボ薬です(ヤーズ®の場合は、実薬24日間分、プラセボ薬4日間分)。
21錠タイプでは、すべて実薬であり、プラセボ薬は含まれておらず、22日目から28日目までの7日間は休薬期間に設定されています。
プラセボ薬を飲む期間(第4週)に飲み忘れた場合は、飲み忘れた分の薬は飲まないで破棄し、飲んだものとしてカウントして、1日1錠を続けてください。
また、第4週に入ってから生理が来ないと妊娠しているのではないか、と不安になることもあるかと思います。
生理が来ない=妊娠、ということでもありません。超低用量ピルの場合は、まれに生理の量が減少して、来なくなることもあります。
妊娠の可能性については、前述したように、プラセボ薬を飲み忘れていても影響はありません。有効成分が入っている薬(実薬)を服用する第1週から第3週の時期での飲み忘れが、妊娠の可能性に影響します。
特に、第3週終わり頃や第1週始まり頃の低用量ピルの飲み忘れは、妊娠する可能性があるので注意が必要です。
以下の記事で詳しく説明していますので、確認してみてください。
まとめ
低用量ピルの休薬期間でのよくある疑問や不安に応えるような内容で解説しました。低用量ピルは用法用量を守れば休薬期間でも高い避妊効果が期待できます。
疑問があれば、いつでも新さっぽろウイメンズヘルス&ビューティークリニックにご相談ください。
参考文献
- OC・LEPガイドライン 2015年度版. 日本産科婦人科学会編. http://www.jsog.or.jp/news/pdf/CQ30-31.pdf
- 低用量経口避妊薬の使用に関するガイドライン(改訂版). 公益財団法人日本産科婦人科学会. 2005年12月発行. http://www.jsognh.jp/common/files/society/guide_line.pdf
- 古井辰郎, 寺澤恵子, 森重健一郎. やさしくわかる 産科婦人科検査マスターブック 第3章 生殖内分泌分野 超音波による卵胞発育、排卵検査. 産科と婦人科 (87):253-256, 2020
- 固形製剤におけるでん粉の役割. 独立行政法人農畜産業振興機構. https://www.alic.go.jp/joho-d/joho08_000019.html