低用量ピルを飲み忘れてしまった場合は、どう対応すればいいのでしょうか。また、飲み忘れてしまった影響も気になりますよね。
決められた通りに飲むという服薬習慣がまだついていない、ついつい忘れてしまった、体調が思わしくなかった、など飲み忘れるにはいろいろな理由があると思います。可能ならば避けたい飲み忘れですが、決して珍しいことではありません。
気づいた段階で落ち着いて対応しましょう。
この記事の執筆者
石川 聡司 日本産科婦人科学会認定 産婦人科専門医
(新さっぽろウィメンズ ヘルス&ビューティークリニック 院長)
北海道大学医学部卒業後、北海道大学病院、帯広厚生病院など地域の中核病院に勤務。2021年に婦人科・美容外科を併設した当院を開業。
- 資格:日本産科婦人科学会認定 産婦人科専門医
- 所属:日本美容外科学会JSAS、日本女性医学学会、日本産婦人科学会、日本周産期新生児学会
ピルを飲み忘れたときの対処法
低用量ピルのほとんどは、飲み忘れ防止のために、錠剤がシート状に封入されており、順番通りに服薬していくと服薬周期の何日目かというのが見た目で分かるように作られています。
基本は、1日1錠決まった時刻に服用することことになります1) 。予定よりも12時間以上こえて遅くならないように気をつけてください。
もし飲み忘れた場合は、いつ飲み忘れたのか、何日間飲み忘れたのか、ということがポイントです。低用量ピルを服用再開するだけで良い場合もありますし、タイミングによっては緊急避妊法も考慮しなければいけなくなります。
いくつかのパターンを説明していきます。
生理開始日(第1週目)にピルを飲み忘れた場合 1, 2, 3)
低用量ピルの服用は生理開始日(1日目)に開始するのが望ましいのですが、5日目以内に開始すれば、すぐに避妊効果が現れるといわれています。
そのため、生理開始5日目以内の時点で、飲み忘れに気がついた場合には、気づいたタイミングで、シート1錠目から飲み始めれば良いことになります。
ただし、しっかりとした避妊効果を期待するためには服用を継続することが重要です。排卵が起こる可能性もあることから、服用再開後7日間は他の避妊法を併用することによって、妊娠確率を下げることが望ましいです。
第1週目に3日間(3錠)以上の飲み忘れがあって、他の避妊法(コンドームの使用など)を用いない性交渉を行った場合には、妊娠確率を下げるために緊急避妊薬(アフターピル)の使用を検討する必要があります 。
第2〜3週目でピルを飲み忘れた場合 1, 2, 3)
- ①1日(1錠)分の服用を忘れた(直前の実薬服用から24-48時間未満経過した)場合
-
気づいた時点で飲み忘れた1錠を服用してください。いつも服用する時間に近い場合は2錠をまとめて服用してください。残りの錠数は予定通りに服用してください。
緊急避妊薬(アフターピル)は通常必要ありません。しかし、シートの最初もしくは最後の錠剤を飲み忘れた場合には、排卵日の前後の可能性が高くなるので、アフターピルの使用を検討してもよいです。
- ②2日(2錠)分以上の服用を忘れた(直前の実薬服用から48時間以上経過した)場合
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気づいた時点で2錠まとめて服用してください。その後は、いつも通りの時間に服用するようにしてください。
この場合は、妊娠の可能性が高くなるので、7日間(7錠)以上連続して服用するまで他の避妊法(コンドームの使用など)を併用するか、性交渉を避けてください。
なお、妊娠確率を下げるために下記のように対応すると良いでしょう。
第2週目に飲み忘れた場合、直前7日間に連続して正しく服用していたのであればアフターピルの使用は必要ありません。
第3週目に飲み忘れた場合、休薬期間を設けずに現在のシートの実薬を服用したら、すぐ次のシートの服用を開始してください。
偽薬を飲み忘れた場合
低用量ピルには28錠タイプと21錠タイプがあります。
28錠タイプでは、最初の21日間は有効成分の含まれている薬(実薬)で、残りの7日間がプラセボ薬(偽薬)です。(ヤーズ®︎配合錠とヤーズフレックス®︎配合錠の場合は、実薬24日間とプラセボ薬4日間の組み合わせです。)
一方で、21錠タイプではすべて実薬であり、プラセボ薬は含まれておらず、22日目から28日目までの7日間は休薬期間に設定されています。
有効成分の含まれていないプラセボ薬を飲み忘れた場合は、大きな問題はありませんので、焦らなくて大丈夫です。
仮に飲み忘れても、飲んだものとしてカウントし、飲み忘れた錠剤は廃棄し、次の日から1日1錠を続けてください。
ピルを飲み忘れた場合の避妊効果 1, 2, 3)
低用量ピルは原則1日1錠決まった時刻に服用する薬です。継続して服用しているのならば、1日、2日飲み忘れただけではすぐに避妊の効果がなくなってしまうというわけではありません。ただし、飲み忘れのタイミングは重要ですので、飲み忘れた時期によって妊娠する確率は少し変わってきます。
飲み忘れるというのはある程度仕方のない面もあるかもしれません。低用量ピルを服用している目的が避妊であるなら、基本的には他の避妊法の併用を日頃から行うことが望まれます。
99.7%という高い避妊率(0.3%の妊娠率)は低用量ピルを正しく服用した場合の数字であって、飲み忘れがあると91%の避妊率(9%の妊娠率)に下がってしまいます。つまり、30倍もの危険率アップです4) 。無防備な状況での性交渉は極力避けるべきでしょう。
休薬期間前や明けの飲み忘れは注意が必要
休薬期間前(第3週終わり頃)や休薬期間明け(第1週始まり頃)の低用量ピルの飲み忘れは、妊娠する可能性があるので注意が必要になります。
妊娠するという現象は、卵巣で育った卵胞が排卵されて、それが精子と受精して子宮内膜に着床することで成立します。低用量ピルの作用の一つに、「卵胞が育たないように」「排卵しないように」と、卵巣へ働きかける効果があり、避妊につながります。
卵胞に注目すると、自然周期における8日目に卵胞径は10mm程度に達し、その後1日あたり2mmずつ大きくなり、排卵前日(13日目)には20mm程度に達します5) 。
しかし、20mm程度まで卵胞が大きくならなくても排卵されることはあります。卵胞径が10mmの場合には排卵することはありませんが、14mmでは36%、18mmでは93%が排卵することが知られています2) 。卵胞発育が進行すると、低用量ピルを服用開始しても排卵を抑えることができないのです。
月経開始1日目に低用量ピルの服用を行うのが望ましいのは、卵胞径が大きくなる前から卵巣への作用が効いてくることで避妊効果がすぐに得られるという理由からです。5日目までであれば同様に卵胞はそれほど大きくなっていないので、排卵している可能性は高くありません2) 。
低用量ピルの服薬を定められた通りに続けている場合、休薬期間中に卵胞が成長し始めて、休薬7日目で10-12mm程度まで成長しています。その翌日から低用量ピルの服用を再開すると、卵胞径が大きくならない状態で薬の効果が得られるということになります。
休薬期間前(第3週終わり頃)や休薬期間明け(第1週始まり頃)に低用量ピルを飲み忘れると、卵胞の成長が進み、卵胞径が大きくなっていくので、排卵される可能性が高まってしまいます。 この期間に低用量ピルを飲み忘れた場合、確実に避妊するためには、新しいシートになるまで他の避妊法(コンドームの使用など)を併用する必要があります。
21錠タイプですと休薬期間7日間が設けられているため、予定表や薬剤シートなどにしっかりと服用予定を入れて確認していく必要があります。
もし、休薬期間が飲み忘れにつながると不安に感じる場合には、28錠タイプを選ぶことも検討したほうが良いでしょう。
ピルの飲み忘れで不正出血があった場合どうする?
低用量ピルの飲み忘れや、決まった時間に服用しなかった場合、不正出血を起こすことがあります。出血はしばらく続く可能性がありますが、まずは低用量ピルの服用を続けて様子を見るようにしましょう。
また、飲み忘れの日数が多いことや、1日1錠ではなくまとめて2錠服用するようなムラのある服用をした場合、服用周期の後半15-21日(3週目)の間に飲み忘れた場合、なども不正出血を起こしやすくなる原因になります。
飲み忘れに関係なく不正出血が起こることもありますが、多くの場合、飲み忘れないで服用を続けていれば一時的に不正出血はあっても、出血量は少なく、その頻度も減っていくことが知られています。
飲み忘れに関係なく不正出血は起こり得る2)
低用量ピルの副作用として不正出血があります。服用開始して数日後から出血することがあり、低用量ピルを服用する方の20%程度にみられるといわれます。
低用量ピルの飲み忘れや決まった時間に服用しないことが原因で出血する場合もありますが、出血量にかかわらず、低用量ピルの服用は継続してください。
前述したように、毎日1錠ずつ正しく服用していても出血することはあります。このような出血に対しては、服用を継続すると、時間経過とともに出血量が徐々に減っていき、約3ヶ月後には治まっていることが多いといわれています。
腹痛を伴っている場合や、飲み忘れていた影響による妊娠の可能性がある場合など、不安な点がある際には、医師へ相談し、検査をしてもらうのが良いでしょう。
ピルを飲み忘れて生理がきたらどうする?
休薬期間からずっと低用量ピルを飲み忘れていて、生理がきてしまった、という場合も考えられます。この場合、生理開始日5日目までなら、新しいシートの1錠目から低用量ピルを開始することができます。
- ①飲み忘れに気が付いたのが生理開始5日目までであった場合
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その日のうちに新しいシートの1錠目から開始してください。また、その新しいシートの期間は、他の避妊方法も併用してください。
- ②飲み忘れに気が付いたのが生理開始6日目以降であった場合
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生理6日目以降の方は、いったん休薬して、他の避妊方法を選択してください。そして、次回の生理が開始した日から新しいシートの1錠目から服用を再開してください。
ピルを飲んでいて生理がこないケースはどうする?
低用量ピルを服用していて生理がこなくなることもあります。この場合は、妊娠を疑って検査を受けることをお勧めします。
低用量ピルを正しく服用すると、高い確率で避妊に成功することができ、その確率は99.7%です。ただ、残りの0.3%は妊娠する可能性があり、絶対妊娠しないとは言い切れないのです。
さらにいえば、この99.7%という高い避妊率(0.3%の失敗率)は低用量ピルを正しく服用した場合の数字であって、飲み忘れがあると91%の避妊成功率(9%の失敗率)に下がってしまいます。つまり、30倍もの危険率アップです4) 。
しかし、だからといって、生理が来ない=妊娠、ということでもありません。超低用量ピルの場合は、まれに生理の量が減少して、こなくなることもあります(1%未満)。
そのため、少なくとも妊娠検査薬を使用して確認するか、クリニックを受診して検査を受けましょう。
その上で、確実に妊娠していないことが判明した場合には、出血が見られなくても問題はないということになります。
まとめ
低用量ピルは高い避妊効果や月経困難症に伴う疼痛の改善効果をもたらす薬です。避妊については、正しく活用すると99.7%の高い避妊率を得ることができます。
飲み忘れというトラブルは、誰しも何らかの事情で起こってしまう可能性がありますが、トラブルは対処法さえ知っていれば良いものです。
飲み忘れたタイミングによって対応が異なること、他の避妊法の併用も行うようにしていただくと避妊効果が高まることを認識しておいてほしいと思います。
参考文献
- 低用量経口避妊薬の使用に関するガイドライン(改訂版). 公益財団法人日本産科婦人科学会. 2005年12月発行. http://www.jsognh.jp/common/files/society/guide_line.pdf
- OC・LEPガイドライン 2015年度版. 日本産科婦人科学会編. http://www.jsog.or.jp/news/pdf/CQ30-31.pdf
- 緊急避妊法の適正使用に関する指針(平成28年度改訂版). 公益財団法人日本産科婦人科学会. 2016年9月発行. http://www.jsog.or.jp/activity/pdf/kinkyuhinin_shishin_H28.pdf
- Hatcher RA et al, Contraceptive Technology: Twentieth Revised Edition. P779-861, New York : Ardent Media, 2011. https://www.aska-pharma.co.jp/iryouiyaku/news/filedownload.php?name=5b24abc385e31d3ac76cd894b1aec24e.pdf
- 古井辰郎, 寺澤恵子, 森重健一郎. やさしくわかる 産科婦人科検査マスターブック 第3章 生殖内分泌分野 超音波による卵胞発育、排卵検査. 産科と婦人科 (87):253-256, 2020