院長の石川(産婦人科専門医)です。
毎月の生理期間中に痛みが強く、鎮痛剤が欠かせないという方は多いと思います。生理痛の原因は何か、ご存じでしょうか?
市販の痛み止めで我慢している方も、他の治療薬に変更することにより、劇的に症状が改善する可能性があります。
今回は生理痛(月経困難症)の原因と治療方法について解説します。
この記事の執筆者
石川 聡司
(新さっぽろウィメンズ ヘルス&ビューティークリニック 院長)
北海道大学医学部卒業後、北海道大学病院、帯広厚生病院など地域の中核病院に勤務。品川美容外科にて美容外科医として3年間の研鑽を積み、2021年に婦人科・美容外科を併設した当院を開業。
婦人科全般の診療のほか、美容医療では美肌治療、美容整形をはじめ脱毛・アートメイクなど幅広く対応する。
生理痛の原因、月経困難症とは?
月経困難症とは、生理に不随しておこる病的症状で、日常生活に支障をきたし治療の対象となるものをいいます1) 。
月経開始とともに症状が出現し、月経終了とともに消失します。
症状としては、以下のようなものがあります。
- 下腹部痛
- 腰痛
- 腹部膨満感
- 悪心・吐き気
- 頭痛
月経困難症の原因には、機能性(原発性)と器質性(続発性)の2種類があります。
機能性月経困難症
骨盤内に原因となる病気はありませんが、月経困難症となるものです。
10歳代後半から20歳代に多いです。
排卵がある生理にともなっておこり、排卵がない生理のときには、通常起こりません。生理の第1ー2日目に症状が強いです。
「病気がないのにどうして生理痛がひどいの?」
と疑問に思う方もいらっしゃるかもしれません。機能性月経困難症を起こす原因としては、以下のようなものが考えられています。
- プロスタグランジンが多い
- 子宮の出口がせまい
- ストレス
プロスタグランジンとは?
機能性月経困難症の原因として、「プロスタグランジン」が考えられています。プロスタグランジンは、炎症症状のときにサイトカインとともに放出される因子で、痛みを誘発する物質です。
生理のときに子宮内膜から産生されるプロスタグランジンが多いと、子宮の筋肉が過度に収縮し、血管が細くなり、虚血を引き起こすことによって痛みがでてくると推測されています。
血管を収縮させる作用は、腰痛や冷えにも関連し、さらに胃腸の働きにも影響を与えるため、吐き気や下痢の原因にもなります。
子宮の出口がせまい
子宮の出口である子宮頸管が狭いことが、生理痛の原因の1つになります。
出口が狭いために、生理の経血がスムーズに外に流れにくくなり、痛みを引き起こします。
妊娠・分娩を経験し、子宮頸管が広がると症状が改善されたり消失したりすることが多いです。
ストレス
精神的・肉体的ストレスは、女性ホルモンのバランスを崩し、自律神経の乱れを引き起こします。
血行が悪くなり、プロスタグランジンの影響をより受けやすくなります。
治療方法
機能性月経困難症は、プロスタグランジンの関与が大きいため、プロスタグランジン合成阻害薬である非ステロイド抗炎症薬(NSAIDs、鎮痛薬)が有効です2) 。
低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬(低用量ピル)も有効であり3) 、保険適用されています。
具体的にはヤーズ®配合錠、ヤーズフレックス®配合錠、ルナベル®配合錠 LD、ルナベル®配合錠 ULD、ジェミーナ®配合錠などがあります。
飲み方としては、休薬期間をおき消退出血を起こさせる周期投与より、長期間連続投与のほうが疼痛日数を減らせるという報告があります4) 。
レボノルゲストレル放出子宮内システム(IUS、ミレーナ®)も、 2014 年 11 月に保険適用となりました。
ほかに、漢方薬を使う場合もあります。芍薬甘草湯、当帰芍薬散、加味逍遥散、桂枝茯苓丸、桃核承気湯、当帰建中湯などが使用されます5) 。
漢方薬治療に即効性はありませんが、 4-12週間の投与で症状の改善を期待できます。芍薬甘草湯は、月経痛が激しい場合に頓服でも使用することができます。
また、子宮発育不全に伴う月経痛と考えられる場合には、月経困難症に保険適用があるブスコパン®も用いることができます。
器質性月経困難症
もう一つの生理痛の原因として、器質性月経困難症があります。
子宮や卵巣などに隠れている病気が原因となって起こる月経困難症です。
- 子宮内膜症
- 子宮筋腫
- 子宮腺筋症
などの原因疾患があり、30歳以降に多いです。
排卵がない生理でも起こることがあります。生理の4-5日前から生理後まで続く持続性の鈍痛のことが多くみられます。
器質性月経困難症の場合は、はっきりとした原因疾患があるということですから、対症療法を行いつつ、原因疾患の治療を行うことになります。
子宮内膜症
子宮内膜症とは、子宮内膜またはそれに似た組織が、何らかの原因で本来あるべき子宮の内側以外の場所で発生し発育する病気のことです6) 。
簡単に言うと、子宮の内側の細胞が、本来あるべきではない別の場所で増えてしまう病気です。
20-30歳代の女性で発症することが多く、そのピークは30-34歳にあるといわれています。
もともとは子宮内膜の細胞であるため、女性ホルモンの影響で月経周期に合わせて増殖し、月経時には剥がれて出血します。
この月経時の血液が、排出されずに貯まってしまったり、周囲の組織と癒着をおこして、さまざまな痛みを引き起こします。また、不妊症の原因にもなります。
生理のある女性なら誰でもなる可能性があり、閉経まで進行し続ける可能性があるため、適切な治療法を選んでうまく付き合うことが必要です。
子宮内膜症ができやすい場所として、以下のような場所があります6) 。
- 卵巣・卵管
- ダグラス窩(子宮と直腸の間のくぼみ)
- 仙骨子宮靭帯(子宮を後ろから支える靭帯)
- 膀胱子宮窩(子宮と膀胱の間のくぼみ)
- 肺
- 腸管
治療には、大きく分けて薬物治療と手術があります。年齢や症状の度合い、病変の場所、妊娠の希望などを総合的に判断して、最適な治療法を選択していきます。
- 薬物治療
-
- 低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬(LEP)(低用量ピル)
- 黄体ホルモン剤
- GnRHアゴニスト
- NSAIDs(痛み止め、対症療法)
- 漢方薬(対症療法)
- 手術治療
-
- 保存的手術:病巣除去、癒着剥離術
- 根治手術:単純子宮全摘術、両側付属器切除術
子宮筋腫
子宮筋腫とは、子宮を構成している平滑筋という筋肉組織由来の良性腫瘍です7) 。比較的若い方から閉経後の方まで高頻度に見られる疾患です。特に症状もなく偶然指摘されることも多くあります。
小さなものも含めると、30歳以上の女性の20-30%にみられます。複数個できることが多く、60-70%は多発性です。数や大きさはさまざまです。
子宮筋腫は、女性ホルモンによって大きくなり、閉経すると逆に小さくなります。
できる場所によって、子宮の内側(粘膜下筋腫)、子宮の筋肉の中(筋層内筋腫)、子宮の外側(漿膜下筋腫)に分けられます。
粘膜下筋腫 | 筋層内筋腫 | 漿膜下筋腫 | |
---|---|---|---|
特徴 | 最も症状が重い | 3つの中で最も多く、多発しやすい | 無症状のことが多いが茎捻転を引き起こすと急性腹症となる |
頻度 | 5-10% | 約70% | 10-20% |
約20%の子宮筋腫に子宮内膜症が合併しています。子宮筋腫と子宮腺筋症は高頻度に合併します。
無症状の場合は治療の必要はありません。症状が強い場合は薬物療法や手術療法を検討します。
- 薬物療法
-
- GnRHアゴニスト(偽閉経療法)
- 低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬(LEP)(低用量ピル)
- 鎮痛薬
- 手術療法
-
- 筋腫核出術(筋腫のみを切除する方法)
- 単純子宮全摘術
- 子宮動脈塞栓術(血管をつめる治療)
子宮腺筋症
子宮腺筋症は子宮内膜の組織が筋組織内に浸潤し、増殖する病気です。子宮内膜症と同様に、月経のたびに増殖を繰り返し、子宮筋層が厚くなります。
30-40歳代の経産婦の女性に多くみられます。女性ホルモン依存性であるため、妊娠や閉経後に縮小、改善するという特徴があります。
治療法としては、薬物療法と手術療法があります8) 。
- 薬物療法
-
- 低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬(LEP)(低用量ピル)
- 黄体ホルモン
- GnRHアゴニスト
- ダナゾール
- NSAIDs(痛み止め、対症療法)
- 鉄剤
- 手術療法
-
- 単純子宮全摘術
- 子宮腺筋症切除術
まとめ
生理痛の原因には、機能性月経困難症と器質性月経困難症の2つがあることをご説明しました。
いずれの場合も治療方法が複数あり、特に薬物療法の効果が期待できます。
生理痛は病気ではない、と我慢している方も多いと思いますが、診察の結果、隠れていた病気が見つかることもあります。
また、効果的な治療を行うことができ、日常生活が楽になる場合もあります。つらい場合は、一度お近くの婦人科に相談することをおすすめします。
参考文献
- 産婦人科診療ガイドライン 婦人科外来編2020. 日本産婦人科学会/日本産婦人科医会. http://www.jsog.or.jp/activity/pdf/gl_fujinka_2020.pdf
- Marjoribanks J, et al. Nonsteroidal anti-inflammatory drugs for dysmenorrhoea: Cochrane Database Syst Rev 2015; 7: CD001751 PMID:26224322. doi: 10.1002/14651858.CD001751.pub3.
- Wong CL, et al. Oral contraceptive pill for primary dysmenorrhoea: Cochrane Database Syst Rev 2009; 4: CD002120 PMID: 19821293 . doi: 10.1002/14651858.CD002120.pub3.
- Momoeda M, et al. Efficacy and safety of a flexible extended regimen of ethinylestradiol/drospirenone for the treatment of dysmenorrhea: a multicenter, randomized, open-label, active-controlled study: Int J Womens Heal 2017; 9: 295―305 PMID: 28496369. doi: 10.2147/IJWH.S134576. eCollection 2017.
- 大屋敦子, 他. 月経困難症の漢方療法. 産婦人科治療 98(1): 51―54, 2009
- 子宮内膜症. 公益社団法人 日本産婦人科学会. http://www.jsog.or.jp/modules/diseases/index.php?content_id=9
- 子宮筋腫. 公益社団法人 日本婦人科腫瘍学会. https://jsgo.or.jp/public/kinshu.html
- 子宮腺筋症. 一般社団法人 日本内分泌学会. http://www.j-endo.jp/modules/patient/index.php?content_id=78