子宮筋腫が実はがんだったと言われたら?子宮肉腫の特徴や治療法について解説!

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院長の石川(産婦人科専門医)です。

子宮に筋腫があると言われたことはありませんか?

また、「経過観察で良いですよ」と言われていたのに、別の病院で、「悪性かもしれないので、もう少し検査しましょう」と言われた、なんてことはありませんか?

そもそも、筋腫なんて名前からして難しそうな病気なのに、「経過観察で良い」と言われたり、はたまた「癌かもしれない」なんて言われたりすると、不安でたまらないですよね。

子宮にできる病気は、子宮筋腫、子宮体癌、子宮肉腫など、細かく種類が分かれており、良性のものから悪性のものまであります。一番多いのは子宮筋腫で、30代では3割もの女性が筋腫を持っていると言われています。

しかし、まれに筋腫だと思っていた病変が、悪性の子宮肉腫かもしれないと指摘されることがあります。

今回は、「子宮肉腫」について、他の筋腫や癌との違いも含めてなるべくわかりやすく解説していきます。

この記事の執筆者

石川 聡司
(新さっぽろウィメンズ ヘルス&ビューティークリニック 院長)

北海道大学医学部卒業後、北海道大学病院、帯広厚生病院など地域の中核病院に勤務。品川美容外科にて美容外科医として3年間の研鑽を積み、2021年に婦人科・美容外科を併設した当院を開業。

婦人科全般の診療のほか、美容医療では美肌治療、美容整形をはじめ脱毛・アートメイクなど幅広く対応する。

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目次

子宮肉腫とは?

女性 診察

さて、「子宮肉腫」とは一体何なのでしょうか。

まず、子宮に限らず、肉腫(サルコーマ / sarcoma)という言葉について説明していきましょう。

肉腫とは、骨や軟部組織(脂肪、筋肉、神経など)といった結合組織にできる悪性腫瘍の総称です。上皮(表面にある細胞)に由来する悪性腫瘍の癌とは、発生する元となる組織の観点で、異なります。

患者さん

「なんか訳わからないけど肉腫と癌は何がどう違うの?」

となりますよね。

まず漢字で表記する癌というのは、上皮(皮膚や胃腸の粘膜、気道や膀胱といった各種臓器の表面の細胞など)の組織から突然変異のような悪性細胞が発生し、それらが増殖して身体を蝕んでいく病気(悪性腫瘍といいます)のことです。

例えば、胃癌や大腸癌、皮膚癌などですね。

次に、今回ご説明する肉腫は、脂肪、筋肉、神経といった軟部組織や骨の組織から悪性細胞が現れて増殖し、体を蝕んでいく悪性腫瘍を指します。悪性腫瘍には、癌や肉腫以外に、白血病や悪性リンパ腫といった血液のがんもあります。

本当にざっくりと分けるならば以下の表のようになります。

悪性腫瘍の種類発生部位
上皮の悪性腫瘍
肉腫骨や軟部組織(脂肪、筋肉、神経など)の悪性腫瘍
白血病血液の悪性腫瘍
悪性リンパ腫リンパの悪性腫瘍

上記をすべてひっくるめて、「がん」とひらがなで表記することが一般的です。

子宮内膜の上皮成分から発生する悪性腫瘍で、子宮頸部にできるものが子宮頸癌(一般に子宮頸がんと表記することもあります)、子宮体部にできるものが子宮体癌と考えていただければわかりやすいかと思います。

これらに対して、子宮平滑筋や脂肪などから発生する悪性腫瘍を子宮肉腫と総称します。顕微鏡(病理検査)で見たときの構成組織によって、子宮癌肉腫、子宮平滑筋肉腫、子宮内膜間質肉腫など、さまざまに細かい呼び名がありますが、今回はざっくりと子宮肉腫全体についてまとめていきたいと思います。

子宮肉腫は、子宮筋層または子宮内膜の結合組織から発生し、子宮体のがんの10%未満を占めます 1, 2)

そのうち構成する組織によって、

  • 上皮性・間葉性混合腫瘍(癌肉腫 carcinosarcomaや腺肉腫 adenosarcoma)
  • 間葉性腫瘍(平滑筋肉腫 leiomyosarcoma、子宮内膜間質肉腫 endometrial stromal sarcomaなど)

に大別されます。これ以上は細かくなるので割愛しますが、発症年齢のピークは、平滑筋肉腫と子宮内膜間質肉腫が50歳前後、癌肉腫は60歳以降です 3, 4, 5)

これらの腫瘍は、しばしば活動性が高く、子宮体部の一般的な悪性腫瘍である子宮体癌(類内膜腺癌)よりも予後が不良です。

特に、癌肉腫と平滑筋肉腫は予後が不良で、全生存期間中央値(治療を受けた患者さんの半分が亡くなるまでの期間)は子宮内膜間質肉腫で76ヶ月、癌肉腫で28ヶ月、平滑筋肉腫で36ヶ月となっています 3) 。  

子宮肉腫の原因

では、このような難しい厄介な病気はなぜ起こるのでしょうか。

胃癌や大腸癌などの他の悪性腫瘍と同じように、何らかの遺伝子変異が原因となることはまず間違い無いでしょう。また、骨盤の臓器に対する放射線療法や、乳がんの治療で服用するタモキシフェンというお薬などが、関連するリスクとして疑われています。ただ、非常に稀な病気であることから、正直なところ現時点では原因が明らかになっていない部分が多いです6)

子宮肉腫で現れる症状は筋腫と同じ

入院 女性

一般に子宮肉腫だけに特有の症状というものはなく、子宮筋腫と共通した症状を示すことが多いです。

例えば、月経過多をはじめとした月経異常、不正性器出血などの月経関連の症状がまずあげられます。他には、下腹部の膨満感や痛み、帯下の増加などが生じることもあります。また、膀胱が圧迫されることにより、頻尿や排尿時違和感などが生じる可能性も考えられます。

具体的には下記のような症状がある際には、子宮筋腫・子宮頸癌/体癌・子宮肉腫の可能性があります。

  • 生理の量が非常に多い。
  • 生理が長引く。
  • 生理周期から外れて出血がある。
  • 閉経したはずなのに出血がある。
  • お腹、とくに下腹部が張って辛い。
  • 骨盤部に痛みがある。
  • オリモノが増えた。
  • お手洗いに行く数が増えた。
  • 排尿時に違和感がある。

また、子宮肉腫の中でも、癌肉腫は子宮内宮に向かって出っぱる塊を作ることが多いため、比較的早期から不正性器出血を生じることがあります。

多くの場合、子宮体癌が疑われて精密な検査が進み、平滑筋肉腫や子宮内膜間質肉腫とは異なり、術前に90%以上の症例で悪性であるということまでわかります3)

子宮肉腫に対する検査・診断

内診 イラスト

子宮肉腫を診断するのに有用な検査として、まずはなんと言っても内診があります。

子宮の形や周囲との可動性などを確認しながら、子宮体部に癌の兆候がないかを調べます。子宮筋腫と同様に、通常よりも子宮が大きくてゴツゴツしているなどの初見が考えられます。内診と並行して、超音波検査もよく行います。お腹の上から行う経腹超音波検査と、膣から行う経膣超音波検査があります。

他にもCTやMRIなども補助として利用することができるでしょう。これらの検査を駆使して、子宮にできた塊が筋腫なのか癌なのか肉腫なのかといった点の鑑別を試みます。

特に、時間の経過とともに大きくなっていないか、内部の性状が変わったりしていないかなどをよく見ていきます。ほとんどが良性の子宮筋腫ですが、これらの特徴がある場合、子宮肉腫の可能性が出てくるからです。

また、子宮組織の一部を採取して顕微鏡で細胞を確認する病理検査も検討されます。

ただ、実際のところ、子宮筋腫と子宮肉腫を判別することはかなり難しく、最終的には手術で摘出した標本を顕微鏡で見る病理学的検査が有用です7)

子宮肉腫の治療は3つ

一般的に、がんの治療法は大きく分けて3つです。

  • 手術療法
  • 放射線療法
  • 薬物療法(化学療法ともいう)

一般論として、腫瘍が完全に切除できる場合には手術が有用な治療法であることは間違いありません。

子宮肉腫においてもそれは例外ではなく、手術による摘出が最も効果的な治療法です。ただ、リンパ節転移や遠隔転移、周りへの浸潤などのさまざまな進行度から、手術の負担・安全性と治療効果を天秤にかけた結果、優先度が下がることもあります。

患者さんそれぞれの状態・環境に合わせて必要な治療を一緒に考えていくことになります。

下記にそれぞれの肉腫についての治療をもう少しだけ掘り下げてみました。

オペ室 写真

癌肉腫

癌肉腫の治療は高悪性度の子宮体癌に準じて行われます8) 。 臨床病理学(顕微鏡で見てどんな細胞・組織が構成するか)的な立場からは、共通するリスク因子やリンパ行性転移が多いという知見があり、癌肉腫は肉腫というよりもむしろ癌に近い性格を持っていることが示されているからです。

癌肉腫の診断が確定している場合で、完全摘出が見込まれる場合には、腹式単純子宮全摘術(周囲のさまざまな組織から子宮だけ切り離して取り出す)+両側付属器摘出術(両方の卵巣と卵管を切除する)を基本とします。

さらに、骨盤・傍大動脈リンパ節郭清および大網切除を追加することも考慮します。もし、手術中に子宮の外にも病変があることがわかった場合には、その場でできる最大限で切除(腫瘍減量術)を行います。

1cm以下まで腫瘍を取り除くことができた場合には、1cm以上残った場合に比べて全生存期間が有意に良好であったとの報告もあります9)

平滑筋肉腫

平滑筋肉腫の初回治療は、摘出可能な場合には、腹式単純子宮全摘術+両側付属器摘出術が基本です。それ以上の拡大手術やリンパ節郭清の追加に関しては、明確なエビデンスがありません。

術後治療としての放射線治療や化学療法の有効性も、第III相試験による明確なエビデンスとしては確立されていないのが現状です。

子宮内膜間質肉腫

子宮内膜間質肉腫においても、腹式単純子宮全摘出術と両側付属器摘出術が基本治療です。

高悪性度の子宮内膜間質肉腫では、子宮の外にも病巣が進展していることが多く切除しきれない場合(2cm以上残ってしまった場合)の生存期間中央値は2ヶ月とかなり予後が不良であったのに対し、切除できた場合には生存期間中央値は52ヶ月と有意に延長しており、手術の有用性が伺えます10)

それぞれの腫瘍において、やはり手術が最も重要と考えられます。手術で取り切ることが困難な切除不能進行例や、再発例に対する治療方針は全く確立されていないのが現状です。

今後も新たな薬剤や治療法の開発が期待されています。特に、子宮内膜間質肉腫の一部では遺伝子変異が発見されているものもあり、これらを標的にした分子標的薬などの登場もあり得ると考えられます。

まとめ

今回は子宮肉腫の概要から診断、治療について解説してみました。

非常に珍しい病気であり、データが少なくて確立した情報で整理しきれないのが残念です。不安に思うこともあるでしょうから、気になる症状や検診結果などがある場合には一度婦人科を受診してみてはいかがでしょうか。

月経関連の症状がある方、検診などで子宮に筋腫があると言われた方は定期的に婦人科で検査をしてみることをご提案します。特に超音波検査は体の負担が少なく行うことができるので、非常に良い検査だと思います。

参考文献

  1. Nordal RR, et al. Uterine sarcomas in Norway 1956-1992: incidence, survival and mortality. Eur J Cancer 33(6):907-11, 1997. doi: 10.1016/s0959-8049(97)00040-3.
  2. Tropé CG, et al. Diagnosis and treatment of sarcoma of the uterus. A review. Acta Oncol 51(6):694-705, 2012. doi: 10.3109/0284186X.2012.689111.
  3. 藤田宏行ら. 子宮肉腫の臨床病理学的検討. 産婦の進歩 56(4):463-465, 2004. https://doi.org/10.11437/sanpunosinpo.56.463
  4. Sagae S, et al. Preoperative diagnosis and treatment results in 106 patients with uterine sarcoma in Hokkaido, Japan. Oncology 67 (1):33-39, 2004. doi: 10.1159/000080283.
  5. Akahira J, et al. Prognoses and prognostic factors of carcinosarcoma, endometrial stromal sarcoma and uterine leiomyosarcoma : a comparison with uterine endometrial adenocarcinoma. Oncology 71(5-6):333-340, 2006. doi: 10.1159/000107107.Epub 2007 Aug 9. 
  6. Wada H, et al. Molecular evidence that most but not all carcinosarcomas of the uterus are combination tumors. Cancer Res 57(23):5379-5385, 1997. 
  7. Bell SW, et al. Problematic uterine smooth muscle neoplasms. a clinicopathologic study of 213 cases. Am J Surg Pathol 18(6):535-558, 1994. 
  8. 子宮体がん治療ガイドライン2018年版. 2018年.
  9. Harano K, et al. Optimal cytoreductive surgery in patients with advanced uterine carcinosarcoma : a multi-institutional retrospective study from the Japanese gynecologic oncology group. Gynecol Oncol 141(3):447-453, 2016. doi: 10.1016/j.ygyno.2016.04.004. Epub 2016 Apr 14.
  10. Leath CA 3rd, et al. A multi-institutional review of outcomes of endometrial stromal sarcoma. Gynecol Oncol 105(3):630-634, 2007. doi: 10.1016/j.ygyno.2007.01.031.Epub 2007 Feb 23
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