肝斑(かんぱん)は30代から50代の女性に多いシミの1種として知られています。
皮膚科でシミや美白の悩みを相談される女性には肝斑の方がしばしばいます。シミは種類によって適切な治療法が異なり、治療の期間や費用にも同じではありません。
この記事では肝斑の概要について説明した上で、肝斑の治療法や必要な期間、一般的な費用についてご紹介します。
保険適用ができるのかについても説明しますので、肝斑治療の際には参考にしてください。
一般的にシミとは皮膚の色素の局所的な増量であると定義されます。シミには肝斑、老人性色素班、脂漏性角化症、後天性真皮メラノサイトーシス(ADM)、そばかす(雀卵斑)、炎症性色素沈着(PIH)が含まれますが、狭義には老人性色素班のことを指してシミと表現している場合もあります。
この記事の執筆者
石川 聡司
(新さっぽろウィメンズ ヘルス&ビューティークリニック 院長)
北海道大学医学部卒業後、北海道大学病院、帯広厚生病院など地域の中核病院に勤務。品川美容外科にて美容外科医として3年間の研鑽を積み、2021年に婦人科・美容外科を併設した当院を開業。
婦人科全般の診療のほか、美容医療では美肌治療、美容整形をはじめ脱毛・アートメイクなど幅広く対応する。
肝斑とは?代表的な症状
肝斑はどのような特徴があるシミなのでしょうか。
肝斑は慢性的な紫外線の影響や女性ホルモンのバランスが崩れることでできやすいことが知られています。また、皮膚の過剰刺激(こすりすぎ)による角層バリアの破壊によるともいわれています。
更年期の症状としても肝斑ができることがありますが、妊娠やピルの内服がきっかけとなることもあります。
肝斑の代表的な症状を紹介しますので、そのシミが肝斑なのかどうかを判断できるようになりましょう。
両頬に左右対称にできる
肝斑は両方の頬骨の辺りを中心に左右対称にできるのが典型的です。片方の頬にだけ肝斑ができることは少ないので、種類が異なるシミの可能性があります。
肝斑は女性ホルモンの影響を受けてできる内因性のシミです。そのため、左右それぞれに同じような見た目のシミができます。
発症部位としては両頬のことが多いですが、口元や額も頻度が高い部位で、症状がひどい場合には顔全体のくすみや目の周りの大きなシミとして認識できる場合もあります。
薄茶色で境界線がはっきりとしない
肝斑は頬骨や口元などを中心にして広がるようなシミになります。老人性色素班やそばかすと違ってシミと通常の肌との間に明確な境界線がないのが特徴です。
シミの色も薄いのが普通で薄茶色から淡褐色になります。ずっと放置していても濃い茶色や黒色になることはあまりありません。
ただ、シミができた初期に比べるとだんだんと色が濃くなって目立つようになります。また、経過とともにシミの範囲は広がっていくのが一般的です。
かゆみや炎症は伴わない
シミの種類によってはかゆみや痛みがあったり、炎症を起こして腫れたりする場合もあります。
しかし、肝斑はメラニン色素の沈着によってできるシミなので、かゆみや炎症を伴うことはありません。
自覚症状がないことから色が薄いうちは肝斑に気付かないこともあります。しかし、放置してしまうとシミが広くなってしまい、治療の負担も大きくなるので普段から気にかけて早めの対策が大切です。
生理や更年期の悩みが併発しやすい
肝斑は女性ホルモンのバランスが乱れていることや、日光(紫外線)、摩擦等による過剰刺激が原因でできるシミです。内因性でストレスや生活習慣の乱れによる影響も受けやすいのが特徴です。
ホルモンバランスの乱れは女性にとって大きな悩みになりがちです。生理周期が乱れたり、不正出血が起きたり、生理痛が酷かったりする症状がある人もいるでしょう。
更年期に入ってホットフラッシュや頭痛、肩こりや骨の悩みなどに苦しむ人もいます。肝斑はこのような生理や更年期に伴う諸症状と併発しやすいのが特徴です。
個人差はありますが、他の症状も出ている場合には肝斑を疑った方が良いでしょう。
肝斑の治療法
皮膚科・美容皮膚科のクリニックでは肝斑の診察と治療を行っています。ここでは代表的な肝斑の治療法についてご説明します。
レーザートーニング
肝斑に対するレーザー治療としてはレーザートーニングが行われます。
レーザートーニングはNd:YAGレーザーの1064nmの波長を利用して、低出力・複数回数の照射パスを中空照射する方法です。
穏やかな加熱でメラニン色素を非侵襲的に除去し、炎症による増悪や色素沈着を抑えながら症状を改善していくことが出来るとされています。
強いレーザーを照射することは炎症後色素沈着が発生し、肝斑がより悪化することから禁忌とされています。
最近はピコレーザーというピコ秒単位という従来よりさらにレーザー出力時間を短くした製品も使用されており、これまでより肌への侵襲を少なくしつつ出力自体を上げられる機器も使われるようになっています。
ピコレーザートーニングなどの名前で行われていますが、従来のレーザートーニングより効果が高い傾向があります。
施術の主な副作用・リスク:色素脱失や増強、肝斑の悪化、熱アレルギーによる湿疹・毛包炎、青色変化などが報告されています。
光治療(IPL)
光による肝斑治療ではIPL(Intense Pulsed Light)治療がよく用いられています。
可視光や近赤外線を照射することにより、メラニン色素の分解をしつつ、肌の新陳代謝を促進するのが特徴です。
メラニン色素は角質に沈着していることが多いため、肌のターンオーバーを進めて色素の排出を促し、シミを少しずつ薄くしていく方法です。
ただしIPL治療は肝斑を悪化させる可能性もあるため、注意が必要です。
レーザーや光による治療はダウンタイムが短く、治療期間も短めなのが魅力です。1回あたりの費用が高めなので費用対効果を考えて選ぶ必要があります。
レーザー・光線治療による副作用・リスク:熱傷、ジェルなどによる接触皮膚炎、蕁麻疹様反応など
照射後の副作用・リスク:色素沈着、色素脱失、肥厚性瘢痕(ケロイド)
導入・ピーリング
皮膚科では導入やピーリングによる肝斑の治療も行っています。
導入はイオン導入としてよく知られている方法で、微弱な電流を使用してイオン性の成分を肌に効率よく浸透させるのが特徴です。
肝斑ではメラニン色素の産生抑制の作用があるトラネキサム酸や、メラニン色素の産生抑制や脱色に関連するビタミンCがよく用いられています。
ピーリングは酸性の薬剤を皮膚に塗って刺激することにより、皮膚の表面にある角質層を剥がす治療法です。
肝斑の原因であるメラニン色素は表皮基底層にあるため、直接改善するわけではないですが、肌のターンオーバーを促進するため、肝斑を改善する可能性があります。
施術の主な副作用・リスク:赤み、かゆみ、腫れ、ひりつき、発疹などの肌の炎症
飲み薬でも治療できる?
肝斑の治療には飲み薬も使えたら良いと思う方もいるでしょう。皮膚科で施術を受けなくとも、薬を飲んでいるだけで肝斑が消えるなら気軽で好ましいと考えるのももっともなことです。
実際に肝斑の治療に対するトラネキサム酸(トランサミン)の内服は、レーザーなどほかの治療と比べ第一選択と言ってよく、肝斑と診断された場合には積極的に内服治療を考えた方が良いでしょう。
トラネキサム酸以外のの治療薬としては、ビタミンC(シナール)やビタミンE(ユベラ)が使われることも多いです。
皮膚科・美容皮膚科で処方される薬以外にも薬局で購入できる薬として、第一三共から発売されている、トランシーノⅡという薬が販売されています。
ただし、トランシーノシリーズにはトラネキサム酸が入っていない製品もありますので、注意が必要です。肝斑の治療に使用する場合にはトラネキサム酸の配合されている製品を購入してください。
飲み薬による治療は即効性のあるものではなく、最初の数か月は効果を感じなかったり、治療に長い期間がかかるのが一般的です。
肝斑の治療にかかる期間
肝斑では一般的にどのくらいの期間の治療になるのでしょうか。ここでは治療法ごとに目安期間をご説明します。
肝斑の大きさや色の濃さなどの症状によって必要な期間にも違いがありますが、治療法による違いがよくわかるでしょう。
レーザートーニングでの治療期間
レーザーによる治療では1回の照射で肝斑の治療が終わるわけではありません。
数回に分けて照射を繰り返すため、照射の回数と間隔によって必要期間が決まります。
一般的なレーザートーニングの照射方法として最初の6回は1週間ごと、次の6回は2週間ごと、その後は1ケ月に一度といった照射間隔で行われています。
光(IPL)での治療期間
1回の照射で肝斑の治療が終わるわけではありません。数回に分けて照射を繰り返すため、照射の回数と間隔によって必要期間が決まります。
例えば、月に1回の通院で4回の光照射をします。必要な治療期間を考える上での目安として知っておくと良いでしょう。
導入・ピーリングでの治療期間
イオン導入やピーリングでも、繰り返し治療を受けることでだんだんと肝斑を薄くしていきます。
治療は2週間~3週間の頻度で10回程度が一般的です。クリニックに通院する頻度が高いので、頻繁に通えない人は治療期間が長くなる傾向があります。
飲み薬での治療期間
早い場合には1ヶ月~2ヶ月くらいでシミが薄くなってきたのに気付きます。しかし、個人差が大きいため、数ヶ月経過しても肝斑が薄くなってこないこともあります。
ゆっくりと症状が緩和されていくのが飲み薬による治療の特徴です。どこまで肝斑を薄くしたら満足できるかによっても治療期間が変わるので注意しましょう。
治療にかかる期間のまとめ
肝斑の治療にかかる期間をまとめると以下のようになります。
治療法 | 期間 |
レーザー・光 | 3~6ヶ月 |
導入・ピーリング | 6~12ヶ月 |
飲み薬 | 1年以上 |
少なくとも3ヶ月程度は肝斑が消えるまでに時間がかかり、治療法によって差があることもわかります。どのくらいの期間で治療を終えたいかを考えて治療法を選ぶようにしましょう。
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肝斑治療の費用・相場
肝斑治療にかかる費用はどの程度なのでしょうか。肝斑の治療は自由診療なので同じ治療法でクリニックごとに費用が違います。
ここでは治療法ごとに一般的な相場をまとめたので、肝斑治療を受ける際の参考にしてください。
レーザー・光の治療費用
2万円未満で治療を受けられるクリニックや、3回分程度をまとめて一括契約をすると費用を抑えられるクリニックもあります。4回の施術が必要だったとすると8万円~12万円がかかります。
IPL美肌治療の場合にはレーザーよりもやや費用相場が低めで、1万5000円~2万5000円程度です。
4~5回の施術をしたとすると6万円~12万5千円くらいの費用負担になります。
導入・ピーリングの治療費用
ピーリングも使用する薬剤によって費用が異なり、1万円~1万5000円が相場です。
導入・ピーリングのセットで実施しているクリニックも多く、費用相場は1万5000円~2万5000円くらいになっています。
肝斑治療では導入・ピーリングを両方行うのが主流です。10回の治療を受けたとすると15万円~25万円くらいの費用がかかります。
飲み薬の治療費用
飲み薬では何種類組み合わせて飲むかによって費用が異なります。
以下の成分を含む薬を使用するのが一般的で、全部を組み合わせると1ヶ月あたり5000円程度かかります。
- トラネキサム酸
- ビタミンC
- ハイチオール
- ビタミンE
トラネキサム酸とビタミンCのような、2種類の組み合わせで治療をする場合には月2000円程度。1年以上は継続して治療することが多い点を考慮すると、2万4000円~6万円以上の費用がかかります。
費用相場のまとめ
肝斑の治療法ごとの費用相場をまとめると以下のようになります。
1回の費用 | 合計費用(参考) | |
---|---|---|
レーザー・光 | 1.5~3万円 | 6~12.5万円 |
導入・ピーリング | 1.5~2.5万円 | 15~25万円 |
飲み薬 | 0.2~0.5万円/月 | 2.4~6万円以上 |
1回の治療費用はレーザー・光が最も高く、導入・ピーリングはやや安くなっています。
飲み薬は毎月の費用が安いので始めやすいですが、長期的な服用が必要になる可能性があるので注意が必要です。
どの治療法を選んだ場合にも肝斑をどのくらいしっかりと治療したいかによって合計費用が変わります。
症状の状況によってどの治療法の効果が上がりやすいかも違うため、ここで紹介した合計費用はは参考値としてお考えください。
肝斑治療に保険は使える?
肝斑は保険診療の適用外になっています。
肝斑は炎症などを引き起こさないシミなので、健康を直接的に害することがないと考えられています。美白を目指したい方のための治療として行われるため、肝斑治療には保険を利用できません。
皮膚科のクリニックには保険適用の肝斑治療をしているところもありますが、肝斑には保険診療がないため、他の病気の治療を目的として薬を処方する対応を取っていると考えられます。
男性の肝斑は治療法が異なる?
肝斑は女性ホルモンのバランスが乱れているのが原因でできるシミだと考えると、男性にはできないものだと考えるかもしれません。
しかし、実際には男性にも女性ホルモンを持っていて、女性とはバランスが異なるだけです。そのため、男性の場合にも肝斑に悩まされていることがしばしばあります。
性ホルモンのバランスが女性と異なる男性の肝斑には同じ治療法が適用できないのではないかという疑問はよくあります。
しかし、ここで紹介した治療法は全て男性の肝斑に適用することが可能です。どの治療法も女性ホルモンのバランスを整える方法ではなく、男女に共通する部分に働きかけているからです。
レーザー・光や導入・ピーリングによる治療はメラニン色素の分解や排出を促したり、肌のターンオーバーを促進したりする方法です。
導入や飲み薬による治療で使用されているトラネキサム酸も女性ホルモンに働きかける作用があるわけではなく、メラノサイト活性化因子のプラスミンを抑制することでメラニン色素の産生を抑制しています。
そのため、男性でも同じ治療法によって肝斑の改善を目指すことが可能です。