薬だけで痩せる?「マンジャロ」や「ゼップバウンド」に含まれる「GIP」の謎に迫る

「マンジャロ(Mounjaro)」と「ゼップバウンド(Zepbound)」は、いずれもアメリカのイーライリリー社が開発した、週1回注射するタイプの新しい薬剤です。
「マンジャロ」は2型糖尿病治療薬として、「ゼップバウンド」は肥満治療薬としてそれぞれ承認を受けています。

従来の薬剤が GLP-1受容体作動薬 単独であったのに対し、両薬剤は GLP-1(グルカゴン様ペプチド-1) に加えて GIP(グルコース依存性インスリン分泌促進ポリペプチド) にも作用する 「デュアルアゴニスト製剤」 である点が最大の特徴です。

“GLP-1単独”から“GLP-1+GIP”の時代へ――。
進化した薬剤として注目される「マンジャロ」と「ゼップバウンド」。
今回は、そのカギを握る「痩せる成分・GIP」の謎に迫ります。

この記事の執筆者

石川 聡司
(新さっぽろウィメンズ ヘルス&ビューティークリニック 院長)

北海道大学医学部卒業後、北海道大学病院、帯広厚生病院など地域の中核病院に勤務。品川美容外科にて美容外科医として3年間の研鑽を積み、2021年に婦人科・美容外科を併設した当院を開業。

婦人科全般の診療のほか、美容医療では美肌治療、美容整形をはじめ脱毛・アートメイクなど幅広く対応する。

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目次

「マンジャロ」「ゼップバウンド」とは?

両薬剤ともアメリカのイーライリリー社が開発した、いわゆる「週1回注射するタイプの抗肥満薬」です。

  • マンジャロ(Mounjaro):主に2型糖尿病の治療薬として承認
  • ゼップバウンド(Zepbound):肥満治療薬として承認
患者さん

先生、最近よく耳にする“マンジャロ”とか“ゼップバウンド”って何なんですか?

Dr.石川

どちらもアメリカのイーライリリー社が開発した薬で、週1回だけ注射するタイプの新しい治療薬なんですよ。

患者さん

えっ、毎日じゃなくていいんですか?それは楽ですね!

Dr.石川

そうなんです。『マンジャロ』は主に2型糖尿病の治療薬として承認されていて、血糖をコントロールしやすくする効果があります。一方、『ゼップバウンド』は肥満治療薬として承認されていて、体重を減らす効果が期待できるんです。

患者さん

名前は違うけど、兄弟みたいなお薬なんですね。

Dr.石川

その通りです。どちらも同じ仕組みを使った薬で、“GLP-1”というホルモンに加えて“GIP”というホルモンにも作用する“デュアルアゴニスト製剤”と呼ばれています。

患者さん

へぇ、従来の薬とはちょっと違うんですね。

Dr.石川

はい。これまでの薬は“GLP-1単独”でしたが、この2つの薬は“GLP-1+GIP”の二刀流で効果を発揮する、というのが大きな特徴なんです。

「GIP」とは何か?

GIPは 「Glucose-dependent Insulinotropic Polypeptide(グルコース依存性インスリン分泌促進ポリペプチド)」 の略です。

  • 消化管ホルモン(インクレチン)の一種
  • 食事(特に炭水化物や脂肪)を摂ると小腸上部から分泌される
  • 膵臓のβ細胞に働いてインスリン分泌を促す

これまでの糖尿病薬・肥満薬はGLP-1(もう一つのインクレチン)だけに着目していましたが、マンジャロ・ゼップバウンドは 「GLP-1受容体作動薬+GIP受容体作動薬」 の2重作用が特徴です。

患者さん

先生、“GIP”ってよく出てきますけど、なんですか?

Dr.石川

GIPはね、“グルコース依存性インスリン分泌促進ポリペプチド”という長い名前のホルモンの略なんです。わかりやすく言うと、食事をすると腸から出るホルモンのひとつなんですよ。

患者さん

腸から出るんですか?

Dr.石川

そうなんです。特に炭水化物や脂肪を食べると、小腸の上の方から分泌されます。そして、膵臓に働きかけてインスリンの分泌を助ける役割を持っています。

患者さん

なるほど、血糖値を下げるのを手伝ってくれるホルモンなんですね。

Dr.石川

その通りです。実は“インクレチン”と呼ばれるホルモンの仲間で、もうひとつ有名なのが“GLP-1”です。これまでの糖尿病や肥満の薬は、このGLP-1だけをターゲットにしていました。

患者さん

じゃあ、新しい薬は何が違うんですか?

Dr.石川

『マンジャロ』や『ゼップバウンド』は、GLP-1に加えてGIPにも働きかける“ダブル作用”の薬なんです。つまり、GLP-1単独からGLP-1+GIPの時代へと進化したんですね。

患者さん

へぇ!二刀流みたいで効きそうですね!

Dr.石川

まさにそうなんです。だから注目されているんですよ。

なぜ「GIP」に注目が集まるのか?

かつてGIPは「肥満を助長するホルモンでは?」とも考えられていました。実際、脂肪組織へのエネルギー貯蔵を促す作用があり、肥満患者ではGIPへの反応が鈍くなっていることも知られています。

ところが最近の研究で、GIP受容体を刺激することがGLP-1との併用で逆に減量効果を高めることが分かってきました。これは大きなパラダイムシフトです。

患者さん

先生、GIPって新しい薬で注目されてるみたいですけど、前はあまり良いイメージがなかったんですか?

Dr.石川

そうなんです。実は昔は“GIPは太るホルモンじゃないか”って考えられていたんです。

患者さん

えっ、太らせるホルモンだったんですか?

Dr.石川

はい。GIPには脂肪にエネルギーをため込む作用があるんですね。しかも肥満の人はGIPへの反応が鈍い、つまり効きにくくなっていることも知られていました。

患者さん

じゃあ、どうして今は痩せる薬に使えるんですか?

Dr.石川

そこが面白いところです。最近の研究で、GIPをGLP-1と一緒に刺激すると逆に体重が減りやすくなることがわかってきたんですよ。

患者さん

へぇ!逆転の発想ですね。

Dr.石川

そうなんです。今まで“肥満を助長するかも”と思われていたホルモンが、“実は痩せるのを助ける”という結果が出てきたんです。これは医療の常識を変えるような発見で、“パラダイムシフト”と呼ばれています。

患者さん

なるほど、だからGIPが注目されてるんですね!

GLP-1単独との違い

GLP-1作動薬(例:オゼンピック、ウゴービなど)は、

  • 食欲を抑える
  • 胃の排出を遅らせ満腹感を持続させる
  • インスリン分泌を促す

という作用がありますが、単独では減量効果に限界がありました。

マンジャロ・ゼップバウンドの「GIP+GLP-1」の組み合わせは、

  • 食欲抑制がさらに強まる
  • 脂肪代謝が改善される
  • 血糖コントロールも向上する

などの相乗効果が報告されています。

患者さん

先生、前から“GLP-1の注射”ってありましたよね?マンジャロとかゼップバウンドは、それと何が違うんですか?

Dr.石川

いい質問ですね。従来のGLP-1作動薬、たとえば“オゼンピック”や“ウゴービ”は、主にこんな働きをしていました。

⭐︎食欲を抑える
⭐︎胃の動きをゆっくりにして満腹感を長く保つ
⭐︎インスリンの分泌を助ける

ただし、それだけでは体重の減り方に限界があったんです。

患者さん

ふむふむ。じゃあ新しい薬はどうなんですか?

Dr.石川

マンジャロやゼップバウンドは、GLP-1に加えて“GIP”にも作用するんです。その結果、
食欲を抑える力がさらに強まる
脂肪の燃焼や代謝が改善される
血糖コントロールもより良くなる
という効果が期待できます。

患者さん

なるほど!GLP-1だけよりも“プラスアルファ”の効果があるんですね。

Dr.石川

そうなんです。“GLP-1単独”から“GLP-1+GIP”の時代に進化したことで、減量効果がさらに高まったんですよ。

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GIPの「謎」と今後の課題

  • 二面性:同じGIPでも、過剰分泌では肥満促進、薬剤で受容体を適切に刺激すると減量効果、という“逆説”がある
  • 作用部位の違い:脳への作用(食欲抑制)か、脂肪細胞への作用(代謝促進)か、どちらが主かまだ議論中
  • 長期安全性:インスリン分泌促進作用があるため、低血糖や膵β細胞への影響など長期的リスクを慎重に評価する必要がある
患者さん

先生、GIPって痩せる薬に応用できるのは面白いですけど、なんだか不思議なホルモンですね。

Dr.石川

そうなんです。実はGIPには“二面性”があるんですよ。同じGIPでも、体の中で過剰に出ると脂肪をためやすくして“太りやすいホルモン”になる。でも薬で受容体をうまく刺激すると逆に“痩せやすい効果”が出るんです。

患者さん

えっ!同じホルモンなのに、太らせたり痩せさせたり、逆のことをするんですか?

Dr.石川

はい。それがまさに“GIPの謎”なんです。しかも、どう効いているのかについても、まだ議論が続いています。

患者さん

どこに効いているか、ということですか?

Dr.石川

その通り。脳に作用して食欲を抑えるのが主なのか、それとも脂肪細胞に作用して代謝を改善するのが主なのか、まだはっきりとは分かっていないんです。

患者さん

じゃあ、まだ研究の途中なんですね。

Dr.石川

そうです。そしてもうひとつ大事なのが安全性です。GIPはインスリンの分泌を助けるホルモンなので、長く使ったときに低血糖のリスク膵臓の細胞への影響が出ないか、慎重に調べる必要があります。

患者さん

なるほど、効果はすごそうだけど、まだ安心とは言い切れないんですね。

Dr.石川

ええ。だからこそ、今後の臨床試験や長期データの積み重ねが大切なんです。

まとめ

「マンジャロ」と「ゼップバウンド」は、いずれもアメリカのイーライリリー社が開発した、週に一度の注射で済む新しいタイプの治療薬です。従来の糖尿病薬や肥満治療薬とは異なり、単に血糖を下げるだけでなく、体重を減らすことにも着目した画期的な薬として注目されています。具体的には、「マンジャロ」は主に2型糖尿病の治療薬として承認されており、血糖コントロールを改善する目的で使用されます。一方で「ゼップバウンド」は肥満治療薬として承認され、肥満症患者の体重減少を支援する目的で使われます。両薬剤は単なる血糖降下作用にとどまらず、GLP-1受容体作動薬に加えてGIP受容体作動薬としても働く「デュアルアゴニスト製剤」である点が最大の特徴です。この点が、従来のGLP-1単独薬との大きな違いであり、医療現場でも注目されています。

GLP-1とは、グルカゴン様ペプチド-1のことで、食後に腸から分泌されるインクレチンというホルモンの一種です。GLP-1作動薬は食欲を抑え、胃の排出を遅らせることで満腹感を持続させる働きがあり、さらに膵臓のβ細胞を刺激してインスリン分泌を助けることが知られています。しかし、GLP-1単独では減量効果に限界があり、思うように体重が減らないこともありました。そこで注目されるのが、もうひとつのインクレチンであるGIP、すなわちグルコース依存性インスリン分泌促進ポリペプチドです。GIPは炭水化物や脂肪を摂取すると小腸上部から分泌され、膵臓のβ細胞に働きかけてインスリン分泌を促す役割を持っています。従来はこのGIPに対して「肥満を助長するホルモンではないか」との見方もあり、脂肪組織にエネルギーをため込む作用があることや、肥満患者では反応が鈍くなることも知られていました。

ところが最近の研究では、GIP受容体をGLP-1と併用して刺激することで、逆に減量効果を高めることが分かってきました。これは従来の常識を覆す発見であり、医療の世界では大きなパラダイムシフトと呼ばれています。同じGIPでも、体内で過剰に分泌される場合は脂肪を蓄えやすくする働きがあり、太りやすいホルモンと考えられていましたが、薬として適切に作用させると痩せる効果が得られるという逆説的な現象が存在するのです。この二面性こそが、GIPの「謎」といえます。さらに、GIPの効果がどの部位に強く現れるのかもまだ議論の途上です。脳に作用して食欲を抑えるのか、脂肪組織に作用して代謝を改善するのか、あるいは両方の作用が複合的に働くのか、はっきりしたことはわかっていません。この不確実性があるため、医療従事者は慎重に投与計画を立てる必要があります。

また、GIPはインスリン分泌を助けるホルモンであるため、長期使用の安全性についても注意が必要です。低血糖のリスクや膵臓への影響が長期的にどう現れるかはまだ十分に検証されていないため、治療効果と安全性のバランスを見ながら使うことが重要です。それでも、GLP-1単独薬よりも食欲抑制作用が強まり、脂肪代謝が改善され、血糖コントロールも向上するというデータが出ており、減量効果においては従来薬を上回る可能性が示されています。このことから、マンジャロやゼップバウンドは肥満治療薬の新時代を切り開く画期的な薬剤として位置づけられているのです。

総じて、これらの薬は従来のGLP-1単独薬の限界を乗り越え、GIPとの組み合わせによって新しい治療の可能性を提供します。GIPはかつて“肥満ホルモン”と考えられていましたが、GLP-1との組み合わせで逆に体重減少を促すという逆説を秘めており、医学研究における興味深いテーマとなっています。今後は長期使用の安全性の確認や、作用機序のさらなる解明が求められます。臨床現場では、こうした新しい薬剤を用いることで、肥満や糖尿病に悩む患者さんの治療選択肢が広がる可能性があり、患者さん一人ひとりの状態に合わせた適切な治療戦略が求められることになるでしょう。

患者さん

先生、最近“マンジャロ”とか“ゼップバウンド”っていう薬をよく聞きますけど、どんな薬なんですか?

Dr.石川

どちらもアメリカのイーライリリー社が開発した、週に一度の注射で済む新しい薬です。『マンジャロ』は2型糖尿病の治療薬として、『ゼップバウンド』は肥満症の治療薬として承認されています。

患者さん

なるほど、名前は違うけど兄弟みたいな薬ですね。

Dr.石川

その通りです。どちらもGLP-1というホルモンに加えて、GIPという別のホルモンにも作用するデュアルアゴニスト製剤なんですよ。

患者さん

GLP-1は知っています。食欲を抑えて、血糖を下げるホルモンですよね?

Dr.石川

そうです。GLP-1単独でも食欲を抑えたり、胃の排出を遅らせて満腹感を持続させたり、インスリン分泌を助ける効果があります。でも、減量効果には限界があるんです。

患者さん

じゃあ、新しい薬は何が違うんですか?

Dr.石川

それがGIPの働きです。GIPは小腸から分泌されるホルモンで、食事をすると膵臓のβ細胞に働きかけてインスリン分泌を促します。昔は“太るホルモン”と考えられていたのですが、GLP-1と一緒に作用させると逆に減量効果が出ることがわかってきたんです。

患者さん

同じホルモンなのに、太らせたり痩せさせたりするんですか?

Dr.石川

はい、それがまさにGIPの“謎”です。体内で過剰に出ると太りやすくなりますが、薬として受容体を適切に刺激すると痩せやすくなる。さらに、作用が脳に届いて食欲を抑えるのか、脂肪組織に働いて代謝を改善するのか、どちらが主かはまだ研究の途中です。

患者さん

なるほど、面白いホルモンですね。でも長く使っても大丈夫なんでしょうか?

Dr.石川

そこも課題のひとつです。GIPにはインスリンを出す作用があるため、低血糖のリスクや膵臓への影響など、長期使用の安全性はまだ十分に検証されていません。だから医師の管理のもとで使うことが大切です。

患者さん

でも、GLP-1単独より効果は高そうですね。

Dr.石川

そうです。GLP-1だけでは減りにくかった体重も、GIPとの併用で食欲抑制が強まり、脂肪代謝も改善され、血糖コントロールも向上します。つまり、肥満治療薬の新しい時代を切り開いた薬といえるんです。

患者さん

なるほど、名前の違いはあっても、仕組みは同じで、二重作用でより効果が出るんですね。

Dr.石川

その通りです。今後も長期的な研究が進めば、さらに安全で効果的な使い方が明らかになるでしょう。だからこそ、こうした新しい薬は、患者さんの状態に合わせて慎重に使うことが重要なんですよ。

今日はここまでにします!
最後までお読みくださり、ありがとうございました!

参考文献

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