卵巣癌ってどんな癌?意外と知らない卵巣癌の検査と早期発見のヒント

女性 お腹

院長の石川(産婦人科専門医)です。

「卵巣癌」と聞くと、どのようなイメージを抱くでしょうか?

卵巣癌は、女性特有の癌の1つです。

「乳癌」などは芸能人が発症して報道されることも多いですし、子宮の癌、特に「子宮頸癌」はがん検診の項目にも入っており、今年の4月からワクチンの定期接種が再開されたことでも有名です。

それらのがんと比べて、卵巣癌はやや聞きなれない存在かと思いますが、気が付かないうちに進行している可能性のある注意が必要な癌の1つです。

今回は、この卵巣癌について分かりやすく解説していきます。

この記事の執筆者

石川 聡司
(新さっぽろウィメンズ ヘルス&ビューティークリニック 院長)

北海道大学医学部卒業後、北海道大学病院、帯広厚生病院など地域の中核病院に勤務。品川美容外科にて美容外科医として3年間の研鑽を積み、2021年に婦人科・美容外科を併設した当院を開業。

婦人科全般の診療のほか、美容医療では美肌治療、美容整形をはじめ脱毛・アートメイクなど幅広く対応する。

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卵巣癌は、検査するのが難しいという特徴があります

卵巣癌を他の癌と比較した大きな特徴は

  • 症状が出にくい
  • 診断が難しい

の2つがあげられます。

卵巣は、子宮の両側に1個ずつ、合計2個ある臓器で、骨盤の中の奥深くに存在する臓器です。そのため、多くの場合には癌が発生して卵巣が腫れてきても症状がまったくありません1)

また、がんの診断は一般的に、癌の組織の一部を採取してきて顕微鏡で見るための標本を作製し、それを観察する「病理診断」が必須です。

この組織を一部採取してくることを「生検(せいけん)」と言いますが、卵巣は骨盤の奥深くにあるため、この生検を行うことができず、治療前に診断を確定させることができません。

これらについて、この後の記事で詳しく解説していきます。

沈黙の癌と言われる卵巣癌

女性 沈黙

冒頭でも述べたように、卵巣癌は初期では症状がほとんどなく、症状を自覚する頃にはかなり進行していることが多い癌の1つです。それが「沈黙の癌」ともいわれる所以です。

このため、癌が発生して卵巣が腫れてきても、最初のうちは症状が全くないことがほとんどです1)

しかし、癌が大きくなり、進行するにつれ卵巣そのものが非常に大きくなってお腹を圧迫したり、癌の組織が卵巣から腹腔内(お腹の中)に散らばって炎症を起こし、「腹水(ふくすい)」という水がお腹の中に大量に溜まってきたりします。

このお腹の中に癌の組織が散らばることを種が蒔かれるのにたとえて、「腹膜播種(ふくまくはしゅ)」と言います。

この段階になってようやく、腹痛・お腹が出てきた、といった症状が出ることが多いのです。しかし、人によっては「少し太ったかな?」「最近ズボンが履けなくなってきたかな?」という具合に、病気の症状として感じにくいこともあります。

卵巣癌は、症状が出にくく、多くの方が卵巣癌と判明した頃にはかなり進行してしまっていることが多く、注意が必要な癌です。実際、進行してしまっている患者さん(Ⅲ期およびⅣ期)の割合は63%にのぼると言われています2)

一方で、初期の癌が卵巣にとどまっている段階でも検診などで偶然発見されたり、捻転(ねんてん=卵巣が捻じれてもどらなくなること)や破裂が生じて強い腹痛が生じた場合に病院を受診して判明したりすることもあります。

発症頻度が高くないと言われる卵巣癌、しかし年々患者数は増えている

子宮解剖図

毎年新たに癌に罹患する患者さんの割合では、卵巣がんは3.1%でがんの種類の中では比較的まれな部類のがんです4)

ただし、統計をみると、卵巣がんは1年あたりの罹患数(新たに診断される人数)は約13,000人(2018年)で、女性特有のがんの中では乳がん(約94,000人)、子宮体がん(約17,000人)に次いで多い数となっています3)

1年あたりの卵巣がんによって亡くなる方の数は約4,900人(2020年)であり、これは女性特有のがんの中では乳がん(約14,500人)に次いで2番目に多い数となっています3)

卵巣がんの罹患率が最も高い年齢は、50-60代の閉経後の女性であり、次が70-80代の女性となっています(2018年)3) 。しかし、数は少ないものの10-30代でも罹患することがあります3)

卵巣がんの罹患数は、1975年では約2,000人程だったのに対し3) 、2014年では約10,000人を超えており5) 、その後も年々増加傾向にあります。

多彩な卵巣癌の検査

卵巣は骨盤の奥にあり、表面から確認することが難しい臓器であるため、がんの確定にもさまざまな検査が行われます。代表的なものを、順に説明していきます。

触診、内診

内診台

卵巣癌を含む卵巣腫瘍が疑われる場合、まずは内診や腹部の触診により診察を行います。内診とは、膣から指を入れて触診を行うことです。

これにより、腫れている卵巣の大きさ、癌が疑わしい場合は子宮や卵巣の周りへの広がり具合をある程度推測することができます。

超音波検査

超音波検査とは、超音波を発する機械を体に当てて、臓器に当たって跳ね返ってくる超音波をひろって臓器の形を描出する検査です。

痛みや体への負担なく、その場で体の中の状態を見ることができますが、精度や見える範囲はCT検査やMRI検査に劣ります。

卵巣癌を含む卵巣腫瘍の診察では、お腹から機械を当てる経腹超音波検査、または膣に機械を挿入して行う経膣超音波検査を用います。

CT検査

CT 検査

CT検査は、体の断層写真(輪切りの写真)を撮影する方法の1つで、卵巣にできた腫瘍が卵巣癌と考えられる場合にMRI検査に追加して行われる検査です。

主に、癌の腹膜播種や遠隔転移(リンパや血液の流れに乗って癌の細胞や組織が遠くの臓器に広がること)の有無や程度が分かります。

癌の進行期を決定するのに行われる検査です。

CT検査の機械はトンネルのような形をしています。その中のベッドに横になってもらい、放射線を当てることで断層写真を撮影します。

卵巣腫瘍そのものの性質を見極めるにはMRIに比べて精度が劣りますが、MRIよりも広範囲を撮影できるのが特徴です。

MRI検査

MRI検査は、子宮や卵巣の病気を調べるときに非常によく使われる、断層写真を撮影する方法です。

前述したように、卵巣癌では「生検」を行うことができません。

代わりに、MRI検査によって卵巣腫瘍が良性なのか悪性(=癌)なのかを推定します。MRI検査では卵巣腫瘍の性質が非常によく分かります。治療方針を決定するのに最も重要な検査です。なお、CT検査は放射線を用いて撮影するのに対し、MRIは体の周りに強力な磁場を発生させて撮影します。

したがって、金属類が熱を持ったり、MRIの機器に吸い寄せられたりして非常に危険なため、MRIを撮影するときは金属類を体から全て外す必要があります。

また、金属類が体に埋め込まれている方はMRIを撮影することができません。体に医療機器を埋め込む手術を受けた方は、あらかじめ撮影ができるか確認をする必要があります。

CT検査のようにトンネルの中のベッドに横になってもらい検査を行いますが、CT検査と異なり検査時間は一般的に30分前後になることがあり、時間のかかる検査です。

細胞診、組織診検査

顕微鏡 検査

細胞診とは、ブラシなどで病変がある部位をこすってその中に癌の細胞が存在するかを調べる検査です。

子宮がん検診にも用いられており、ブラシで子宮口をこすることで子宮頸癌の細胞がいないかを調べています。子宮がん検診では、この細胞診で異常がある方が、精密検査として組織診を受けることになります。

組織診とは、病変の一部をかたまりとして採取し、染色をして顕微鏡で観察をして癌の組織が含まれていないかを調べる検査です。この採取を行うことを「生検」、顕微鏡で観察し診断をつけることを「病理診断」と言います。

癌の確定診断は、通常この組織診によって行われます。

例えば子宮頸癌であれば、コルポスコピー下生検と言われる精密検査で、胃癌や大腸癌であれば胃カメラや大腸カメラで生検を行い、摘出した組織を病理診断することにより、癌の確定診断が可能です。

しかし、卵巣癌は骨盤の奥深くにできる癌であり、カメラやブラシが届かないため、通常この細胞診や組織診を行うことができません。

卵巣癌の治療として手術で摘出を行う場合、

手術+組織診(=病理診断)

という形で治療と確定診断を同時に行い、MRI検査での良悪性の診断を組織診(=病理診断)で最終確認することが必要となります。

ただし、卵巣癌が進行してお腹に大量に腹水が溜まってしまった方に対して、お腹の表面から針を刺して腹水を抜き、その中に癌細胞がないかを見出す腹水細胞診という検査を行うこともあります。

血液検査

卵巣癌を含む卵巣腫瘍が疑われる場合、血液検査として腫瘍マーカーを測定する検査があります。

一般的にはCEA、CA19-9、CA125という項目を調べます。特にCA125という項目は卵巣癌の勢いを反映することが多く、卵巣癌の治療効果の判定や、再発病変の有無の判定にも利用されます。

ただし、このCA125は卵巣癌以外の良性の卵巣腫瘍や、子宮内膜症などの良性疾患でも上昇することがあり、必ずしも卵巣癌の勢いと比例しないため、数値の解釈については主治医の先生との相談が必要です。

卵巣癌の原因は?

リスク ダメ 女性

卵巣癌になりやすいリスク因子としては、

  • 初経が早い
  • 未産婦(出産経験がない)
  • 閉経が遅い
  • 肥満
  • 年齢

などがあげられています6)

なお、低用量ピルの内服は、卵巣癌の割合を低下させると言われています9)

また、卵巣癌の約10%は遺伝的要因によるものと言われています8) 。細胞の癌化を抑制しているBRCA1およびBRCA2という遺伝子に異常がある場合、遺伝性乳癌卵巣癌症候群(HBOC)と呼ばれます6) 。家系内に乳癌や卵巣癌の方が多く、20-40代など若年でこれらの癌を発症することなどが特徴です8)

気になる方は、「がん相談支援センター」に相談し、遺伝学の専門医が所属する医療機関でカウンセリングを受けることをおすすめします8)

さらに、子宮内膜症によるチョコレート嚢胞を手術で摘出した場合、約3.4%に卵巣癌が合併していたとの報告や10) 、子宮内膜症を伴う卵巣癌の32%で子宮内膜症からの移行が考えられたとの報告もあります11)

これらのことから子宮内膜症の癌化の可能性も考えられています10)

特に、40歳以上でチョコレートのう胞の大きさが10㎝以上のものあるいは急激に大きくなったものは、卵巣癌が合併する割合が急増すると言われており12) 、該当する方は癌化の予防のため積極的に手術を考えるのが良いとする報告もあります12)

自分では分かりにくい卵巣癌、早期発見法は体形の変化に気づくこと?

太る 肥満

卵巣癌は上記で述べてきたように自覚症状が現れにくいがんです。では、どのようにして予防や早期発見に努めればよいでしょうか?

卵巣癌は今のところ一定した予防法・検診法がまだ定まっていません。

「気になる症状があれば、早めに婦人科を含めた医療機関を受診する」

これが現時点での最大の早期発見への近道であると思います。

  • 太った、お腹が出てきた
  • 履けていたズボンが入らなくなってきた
  • 下腹部が痛む

などの症状がある場合は、早めに産婦人科を含めた医療機関を受診しても良いかもしれません。

また、家系内に乳癌、卵巣癌はもちろんのこと、大腸癌、膵癌、前立腺癌の方がいる場合、自身の卵巣癌リスクが高まります8) 。このような方は、特に注意して症状があれば早期に医療機関を受診しましょう。

さらに、子宮内膜症がある方は、その治療を早期に行うことで卵巣癌のリスクを下げることができる可能性があります。

月経痛がひどい方、特に

  • 痛みで寝込んでしまう
  • 薬を飲んでも効きにくい
  • 痛みが以前に比べて徐々に増してきている

といった症状のある女性は、子宮内膜症が隠れている可能性があります。

また、子宮内膜症も卵巣癌のリスクになります。

がんだけでなく、子宮内膜症は

  • 日常生活に支障をきたす。
  • 仕事でパフォーマンスを発揮できない。
  • 不妊症の原因にもなる。

など、多くの悪影響をもたらす可能性があります。月経痛がひどい方は早めに産婦人科に相談しましょう。

他にも、有効性はまだはっきりと示されていませんが、子宮がん検診など、産婦人科受診の際に腟からの超音波検査を積極的に受けることも早期発見の選択肢になります。

まとめ

卵巣癌は早期発見が難しい癌の1つです。しかし、正しい知識を身に着けることにより、早期発見につながる可能性もあります。

今回最も伝えたい卵巣癌の早期発見・予防のポイントとしては、

気になる症状がある方、月経痛がひどい方は放置せず、早めに産婦人科を受診する

という点になります。

気になることがあれば何でも相談のできる、かかりつけの産婦人科を作っておくことも重要です。

参考文献

  1. 患者さんとご家族のための子宮頸がん・子宮体がん・卵巣がん治療ガイドライン. 第2版 日本婦人科腫瘍学会著. 2016年.
  2. プリンシプル産科婦人科学 1婦人科編. 第3版. 武谷雄二. 上妻志郎ら. メジカルビュー社. 2014年.
  3. がん情報サービス. がん種別統計情報. 卵巣. https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/cancer/19_ovary.html
  4. 公益社団法人. 日本対がん協会. 正しい知識の普及啓発 . がんの部位別統計. https://www.jcancer.jp/about_cancer_and_knowledge/がんの部位別統計
  5. 卵巣癌・卵管癌・腹膜癌治療ガイドライン. 2020年版. 日本婦人科腫瘍学会編. 2020年.
  6. 一般社団法人. 日本女性心身医学会. 一般のみなさまへ. 女性の病気について. 卵巣癌
  7. がん情報サービス. 病名から探す. 卵巣がん・卵管がん. 卵巣がん・卵管がん. 予防・検診. https://ganjoho.jp/public/cancer/ovary/prevention_screening.html
  8. 遺伝性乳癌卵巣癌診療ガイドライン. 2021年版. 日本遺伝性乳癌卵巣癌総合診療制度機構編. 2021年.
  9. 産婦人科診療ガイドライン 婦人科外来編2020. 日本産科婦人科学会/日本産婦人科医会編集・監修. 2020年.
  10. 公益社団法人. 日本婦人科腫瘍学会. 市民の皆さま. 子宮内膜症(卵巣がんとの関係について). https://jsgo.or.jp/public/naimaku.html
  11. R Sainz de la Cuesta, et al. Histologic transformation of benign endometriosis to early epithelial ovarian cancer. Gynecol Oncol 60(2):238-244, 1996. doi: 10.1006/gyno.1996.0032.
  12. 小畑孝四郎ら. 子宮内膜症の癌化とその治療. 産婦人科治療. 90(6):1023-1027, 2005.
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