4つに分かれる卵巣癌の進行期。詳しく知りたい分類。

女医 診察

院長の石川(産婦人科専門医)です。

がんには早期から進行がんまで、進行期による分類があります。女性のがんである卵巣癌にも進行期があり、大きく分けてI、II、III、IV期の4つに分類されます。

がん細胞の病理学的な分類や、卵巣のどこの細胞由来のがんなのかよっても分類する方法があります。

今回は、卵巣癌の進行期について詳しく解説していきましょう。

この記事の執筆者

石川 聡司
(新さっぽろウィメンズ ヘルス&ビューティークリニック 院長)

北海道大学医学部卒業後、北海道大学病院、帯広厚生病院など地域の中核病院に勤務。品川美容外科にて美容外科医として3年間の研鑽を積み、2021年に婦人科・美容外科を併設した当院を開業。

婦人科全般の診療のほか、美容医療では美肌治療、美容整形をはじめ脱毛・アートメイクなど幅広く対応する。

医師略歴・プロフィール
運営者情報
お問い合わせ

目次

卵巣癌にはさまざまな進行期が存在する

卵巣がんの進行期の分類は、手術進行期分類といい、ステージによってどのような手術を行うか、化学療法を前後でどのように行うかなど、治療方針が少し変わります。また、2014年に新しく採用された分類は、卵巣癌と卵管癌、腹膜癌を別とせず、まとめた手術進行期分類になりました1)

卵巣がん、卵管がんは骨盤の深いところにあるため、症状も出にくく、手術後でないと正確ながんの広がりを評価できないことが多いです。病期は、手術後に決まります。そのため、病期分類は、手術進行期分類と呼ばれています。

手術進行期分類は、I期からⅣ期の4つに分類されています。

卵巣癌・卵管癌・腹膜癌手術進行期分類(日産婦2014、FIGO2014)より

卵巣に限局するⅠ期 

卵巣癌 イラスト

卵巣あるいは卵管内に限局している。

IA期:がんが片側の卵巣や卵管に限局しており、表面の被膜への浸潤がない。腹水や洗浄液の細胞診でもがん細胞が認められない。

IB期:腫瘍が両側の卵巣や卵管に限局し、被膜表面への浸潤がない。腹水や洗浄液の細胞診でもがん細胞が認められない。

IC期:がんが片側または両側卵巣か卵管に限局しているが、以下のいずれかがある。

 IC1期:手術で被膜が破れてしまった。

 IC2期:自然に被膜が破綻したもしくは被膜表面に浸潤している。

 IC3期:腹水または腹腔洗浄細胞診にがん細胞がある。

骨盤内に進展、あるいは原発性腹膜癌のⅡ期

II期:がんが片側または両側卵巣や卵管にあり、さらに骨盤内への進展がある、もしくは原発性腹膜癌である。

IIA期:進展がある、子宮に転移、卵管、卵巣に及ぶ。

IIB期:他の骨盤部腹腔内臓器に進展しているもの。

骨盤外の腹膜播種、後腹膜リンパ節転移を認めるⅢ期

III期:がんが片側または両側卵巣あるいは卵管にあるか、原発性腹膜癌で、骨盤外に腹膜播種あるいはリンパ節転移があるもの。

IIIA1期:後腹膜リンパ節転移だけ認めるもの。

 IIIA1(i)期:転移巣が最大径10mm以下。

  IIIA1(ii)期:転移巣最大径10mmをこえる。

IIIA2期:骨盤外に組織検査の顕微鏡でみつかる播種がある。

IIIB期:最大径2cm以下の腹腔内播種がある。

IIIC期:最大径2cmを超える腹腔内播種を認める。

遠隔転移を認めるⅣ期

IV期:遠隔転移がある

IVA期:胸水にがん細胞がある。

IVB期:肺や脳など、腹腔外の臓器に転移している。

その他の分類方法

医師 説明

手術進行期分類とは別に、がん病変の広がりを解剖学的に分類するTNM分類というものもあるため、ご紹介します。

T:Tumor. 原発のがんの進展度を示す。

N: LymphNodes. 所属リンパ節の状態を示す。

M: Metastasis. 遠隔転移の有無を示す。

TNMそれぞれの評価によってがんの広がりを表現し、分類していきます。

T分類:がんの進展

TX: がんの評価ができない。

T0 :がんがない。

T1 :卵巣あるいは卵管内に限局している。

T2 :がんが片側または両側の卵巣あるいは卵管にあって、骨盤内に進展している、または原発性腹膜癌。

T3 :がんが片側または両側の卵巣あるいは卵管にあり、あるいは原発性腹膜癌で、骨盤外への腹膜に播種しているもの。

  

N分類:所属リンパ節

  NX :所属リンパ節転移の評価ができない。

  N0 :所属リンパ節の転移はない。

  N1:所属リンパ節の転移がある。

   

M分類:遠隔転移の有無

  M0:遠隔転移なし。

  M1 :遠隔転移あり。

   

日産婦2014、FIGO2014分類とTNM分類は対応しており、例えばFIGO分類のIA期はTNM分類ではT1aN0M0などと表現することができます。

手術などで取ってきた組織の病理組織学的ながん細胞の分化度による分類

遺伝子 顕微鏡

  GX :分化度の評価ができない

  G1 :高分化

  G2 :中分化

  G3  :低分化

卵巣のどの細胞由来のがんなのか、病理学的な分類法もあります。組織学的異形度はGradeで示され、予後や治療方針を決めるための情報にもなります。

Grade1(高分化)、Grade2(中分化)、Grade3(低分化)になり、Gradeが進行するにつれ悪性度が高くなる傾向があります。

また、卵巣がんのうち粘液性癌と呼ばれるタイプの癌の場合、がんの発育様式で分類する方法もあります。圧排性と侵入性があり、侵入性は圧排性に比較して予後が不良であるといわれています2)

遺伝子タイプによる分類

一部の卵巣がんでは、遺伝子のタイプによって治療法が変わることがあるため、特定の遺伝子を確認します。卵巣がんと関連する遺伝子は、乳がんの発生にも関与しているBRCA1(breast cancer susceptibility)遺伝子とBRCA2遺伝子に病的な変異があるといわれています3)

卵巣がんの予後予測や治療薬のプラチナ製剤への感受性、リポソーマルドキソルビシンへの感受性、PARR阻害薬への感受性など治療方針を予測するのに役立つとされています。

また、患者さん本人の将来的な乳がん発生リスクの予測、血縁者の卵巣がん、乳がん発症リスクの予測の観点でも意義がある検査と考えられています。

2020年4月から乳がん、卵巣がんの患者さんを対象に、血液を検体としたBRCA遺伝子学的検査も保険収載されました。遺伝子検査、遺伝子カウンセリングは本人のみならず近親者の将来のがん発生率なども予期せずに判明することがあります。事前に主治医を含む医療チームと、患者さん本人・ご家族でよく情報共有をして、十分に検査について理解をしておく必要があります。

卵巣癌の進行期

がんの治療成績を示す指標として、治療後の5年間どれだけ生存率が得られているかがよく用いられます。年齢層や手術の有無などでの分類を一切調節せずにみた卵巣がんの全体の5年生存率は、卵巣がんのI期 88.4%、II期 71.5%、III期 43.4%、IV期 25.5%です3)

まとめ

卵巣がんの進行期と予後について解説しました。

少し専門的な話ですが、進行期の分類法なども研究が進むにつれてガイドラインも新しくなり、治療や手術も進歩しています。さらに、卵巣がんの予後が改善することが期待されますね。

参考文献

  1. 日本婦人科腫瘍学会.卵巣がん・胆管がん・腹膜癌 治療ガイドライン. 2020年.
    https://jsgo.or.jp/guideline/ransou2020.html
  2. 粘液性卵巣がんおよび協会悪性卵巣腫瘍の比較・検討に関する研究.
    https://www.ndmc.ac.jp/wp-content/uploads/2020/11/4130.pdf
  3. 日本遺伝性乳癌卵巣癌総合診療制度機構.遺伝性乳癌卵巣癌(HBOC)診療ガイドライン. 2021年. https://johboc.jp/guidebook_2021/
  4. がん情報サービス.院内がん登録生存率集計結果閲覧システム.
    https://hbcr-survival.ganjoho.jp/graph?year=2013-2014&elapsed=5&type=c25#h-title
目次