更年期におけるホットフラッシュとは?その原因と対処法などについて

ほてり 女性

院長の石川(産婦人科専門医)です。

ホットフラッシュをご存知でしょうか。日本語で「ほてり」、英語で「hot flashes」といいます。ほてり、ホットフラッシュと言えば、更年期障害の代名詞のような症状となっています。

具体的な症状は、突然胸のあたりから頭にかけてカーッと熱くなり、汗をかいたり、動悸がするというものです。汗の程度は汗ばむ程度の軽い方から、滝のように顔から汗が吹き出す方まで、さまざまです。

数分間程度で症状が改善することがほとんどですが、このような症状が突然出先や人前で起こってしまったら、お困りになるでしょう。

またホットフラッシュの原因のほとんどは更年期障害ですが、そうではないこともあります。その場合は、原因に対しての治療が必要になりますし、適切な治療をすれば症状は改善します。

今回はホットフラッシュについてよく知っていただき、対処法や予防法、症状の改善法についてお伝えしたいと思います。

この記事の執筆者

石川 聡司
(新さっぽろウィメンズ ヘルス&ビューティークリニック 院長)

北海道大学医学部卒業後、北海道大学病院、帯広厚生病院など地域の中核病院に勤務。品川美容外科にて美容外科医として3年間の研鑽を積み、2021年に婦人科・美容外科を併設した当院を開業。

婦人科全般の診療のほか、美容医療では美肌治療、美容整形をはじめ脱毛・アートメイクなど幅広く対応する。

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目次

ホットフラッシュとは

ホットフラッシュとは、「ほてり」の意味です。典型的には、急に胸の上あたりから頭・顔にかけてカーッと熱くなり、汗をかいたり急にドキドキしたりすることが起こります。多くの場合、このような症状は数分間で軽快しますが、その後にゾクゾクとした寒気を感じることもあります1)

更年期症状としては、肩こりやだるさに続いて、ホットフラッシュは3番目に多い症状といわれています2) 。更年期の女性では、60-80%と多くの方が症状を経験し悩まれています3)

香辛料やアルコールなどがホットフラッシュの誘引なのではないか、といわれていますが、科学的根拠はなく、はっきりしていません。

夜寝ている時にホットフラッシュが起こると、寝汗になりますが、ひどい場合には睡眠を妨げることになり、不眠症などの原因となってしまうことがあります。

ホットフラッシュの原因

交感神経 副交感神経

ホットフラッシュの起こるメカニズムは全て解明されていませんが、自立神経の異常が原因で起こるという説が有力視されています。

自立神経の働きは自動的に行われるもので、本人の意思とは無関係です。一方で、自分の意思によって体の部分を動かすものは、体性神経といいます。例えば、周りが暑い時に手でパタパタと動かして顔を仰ぐ動きは「体性神経」であり、汗を出して熱を逃がすのは「自立神経」です4)

自立神経には、交換神経と副交感神経という2種類があります。

いろいろな臓器の血液の流れを支配するために、血管を収縮・拡張させる作用は自立神経の働きによるものですが、交感神経が働くと血管が収縮し、副交換神経が働くと血管は拡張します。このバランスでうまく血管の太さを制御して血流をコントロールしています。

先ほどの暑い時の例を考えてみると、暑い時には熱を逃がすために副交感神経がより強く働く(優位になる)ことで、血管を拡張させて熱を逃がします。逆に、寒い時には血管を収縮させ熱が逃げることを防ぎます。経験があると思いますが、寒い時には手先は白く冷たくなっていますよね。

更年期障害などの自立神経の乱れ(失調)の症状がある場合は、この働きがうまくいかないか、脈絡もなく起こります。暑くもないのに、特に顔の皮膚の血管をコントロールしている副交感神経が優位になってしまい、血管が拡張して熱がでてしまうことで急にカーッと熱くなったり赤くなったりします。この副交換神経の働きに女性ホルモン(エストロゲンなど)の減少が関与しており、これがホットフラッシュの起こるメカニズムなのではないかと考えられています5)

ホットフラッシュを含む自立神経失調が起こる原因とは

自律神経失調の症状が起こるには、

  • 更年期障害
  • 早発閉経
  • 自律神経失調症
  • 不規則な生活
  • ストレス、極度の疲労


など、多くの原因が考えられます6)

自律神経は、顔のほてりやホットフラッシュ以外にもさまざまな臓器の血流や働きをコントロールしています。自立神経の働きが乱れることで、だるい、眠れない、疲れやすい、頭痛、腰痛、肩こり、動悸、息切れ、めまい、のぼせ、立ちくらみ、下痢、便秘などのさまざまな全身的な症状を起こします。これらの症状は、更年期障害ではよく見られる症状です。

早発閉経もホットフラッシュを引き起こす原因となります。早発閉経とは、40歳前の女性、つまり妊娠の可能性が十分にある年代で閉経してしまうことです。近年の晩婚化などの影響で、第一子出生時の母の平均年齢は30.7歳6) となっています。そのため、なんとなくホットフラッシュやその他の更年期症状を放置してしまい、早発閉経の発見が遅れてしまうと、卵子凍結などの将来的な妊娠可能性の温存タイミングを逃してしまいかねません。

自立神経失調症の中にも、多くはありませんが、シャイドレガー症候群、パーキンソン病、レビー小体型認知症などの脳神経内科の病気や、うつ病や不安症などの精神疾患などに合併して起こっている症状の可能性があります。

このような更年期障害以外の原因を検索することは、非常に大切なことです。思わぬ原因が見つかることもありますので、更年期障害自体も症状が強い場合には、あまり自己判断で放置せずに、一度婦人科でご相談されると良いでしょう。

ホットフラッシュが起こったときの対処法

ホルモン補充療法 医薬品

ホットフラッシュが起こった場合、薬やサプリメントの服用だけではなく、セルフケアなどいろいろな対処法があります。

薬物療法

更年期障害によるホットフラッシュの場合、エストロゲン製剤などのホルモン補充療法がとても良く効きます7) 。ホルモン補充のための薬の種類(飲み薬、貼り薬など)や方法(間欠、持続など)もさまざまです。

ホルモン製剤を使えない場合や注意が必要な場合もありますので、婦人科でよくご相談いただく必要があります。

更年期障害でホットフラッシやのぼせがある場合、漢方薬の桂枝茯苓丸が効果あるとされています。漢方薬は薬局などでも手に入りやすく、治療のファーストステップとして選択しやすいかもしれません。漢方薬も医薬品と同じく薬であるため、副作用もありますので、用量や用法を守って試してみるのが良いでしょう。

サプリメント

サプリメントとして、ホットフラッシュを改善する効果が知られているものには、大豆イソフラボン、S-エクオールという大豆イソフラボンの代謝産物があります7) 。ただし、まだ研究段階といえるでしょう。

大豆イソフラボンは、サプリメントで高容量・長期間にわたって用いると、一部の子宮癌のリスクが高くなる危険性がいわれていますが、大豆食品は問題がないとされています8) 。こちらも、かたよった食事はよくありませんが、納豆や豆腐などの大豆食品は積極的に摂取すると効果があるかもしれません。

セルフケア

ダイエット 女性

更年期障害も自律神経の乱れも、ストレスや生活の乱れ(かたよりの多い食事、睡眠不足など)が原因の一つですので、これらを整えることは重要でしょう。特に、ストレスなどに有効なセルフマネジメントについてご紹介します9)

  • ストレッチング(筋肉をゆっくり伸ばし、筋肉の緊張を緩め血行を促進する)
  • 簡単な体操
  • 快適な睡眠
  • 笑いのすすめ
  • こまめに休憩をとる(過度な緊張状態を継続させない)
  • タバコ、お酒に頼らない など

これらの習慣は、更年期障害に合併しやすい高血圧、脂質異常症などの生活習慣病の予防にも効果があるといわれています。

いざ、ホットフラッシュが起こってしまった場合には落ち着いて、呼吸を整えリラックスすることを心がけましょう。早く収めなくては!と焦ってイライラしまうと逆効果です。

自律神経の働きというのはそもそも頭で考えても制御できるものではありません。汗をふくタオルを持ち歩く、体温管理を自分でしやすい格好をするなどの工夫をしつつ、起こってしまったらその都度対処するという考え方が気楽で良いでしょう。

ホットフラッシュと思っていても、こんな症状がある時は要注意!

甲状腺 女性

ホットフラッシュのような急なのぼせや発汗が起こる原因として、甲状腺機能亢進症は鑑別しなくてはいけない疾患の一つです10) 。更年期だからと放置していたら、実は甲状腺の病気で治療が必要だった、ということがあるため注意が必要です。

甲状腺の病気の症状は更年期症状とよく似ています。

ホットフラッシュのように急にのぼせたり、大量の汗が出たり、動悸、血圧の上昇、食べているのに体重が減ったり、精神症状としてはイライラしたり神経質になったり、などが挙げられます。

診断には、血液検査で甲状腺機能検査(ホルモン値)を行います。治療は、薬剤や手術などで甲状腺ホルモンの分泌量を減らすようにコントロールします。甲状腺ホルモン値が安定すれば、急なのぼせなどの症状は治ってしまうことがほとんどです。

まとめ

今回は更年期障害の中でも、特にホットフラッシュについて詳しく解説しました。

ホットフラッシュは更年期症状でも多くの方が経験し、外出先などでも所構わず出るので、お困りの方も多いと思います。

うまくセルフケアで症状を抑えることもできますが、薬などの治療で症状を改善・緩和することができます。また、時には甲状腺などの病気が隠れていることもあります。

ぜひ、自己判断のみではなく、婦人科で一度ご相談いただければと思います。

参考文献

  1. 女性の病気について ほてり. 日本女性心身医学会. https://www.jspog.com/general/details_42.html
  2. 廣井正彦. 更年期障害に関する一般女性へのアンケート調査報告. 日産婦誌. 49(7):433-439, 1997.
  3. Menopausal hot flashes. UpToDate. https://www.uptodate.com/contents/menopausal-hot-flashes
  4. 自律神経失調症 e-ヘルスネット(厚生労働省). https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/heart/yk-082.html
  5. 顔が赤くほてる機序は? 感情,ホルモン,寒暖によるほてりの違い. 日本医事社報社. https://www.jmedj.co.jp/journal/paper/detail.php?id=5181
  6. 令和2年 厚生労働省 人口動態統計月報年計(概数) https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai20/dl/gaikyouR2.pdf
  7. 産婦人科診療ガイドライン-婦人科外来編2020. 日本産婦人科学会. 日本産婦人科医会. http://www.jsog.or.jp/activity/pdf/gl_fujinka_2020.pdf
  8. 大豆 | ハーブ | 医療関係者の方へ. 厚生労働省eJIM. https://www.ejim.ncgg.go.jp/pro/overseas/c04/42.html
  9. こころの健康気づきのヒント集. 厚生労働省 中央労働災害防止協会. https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/anzen/dl/101004-9.pdf
  10. 臨床検査のガイドライン JSLM2015. 一般社団法人 日本臨床検査医学会発行. http://jslm.info/GL2015/GL2015.pdf
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