新しい世代の低用量ピル『スリンダ錠』と従来経口ピルの違い

ドロスピレノン(黄体ホルモン)を有効成分とするプロゲスチンのみの経口避妊薬『スリンダ錠28』は、避妊目的だけでなく、生理痛やPMSの緩和を目的に処方されることも多く、美容的なメリット(肌荒れ改善・むくみにくさ)でも注目されています。
『スリンダ錠28』の特徴と、従来経口ピル(OC)との違いを詳しく解説していきます。

この記事の執筆者

石川 聡司
(新さっぽろウィメンズ ヘルス&ビューティークリニック 院長)

北海道大学医学部卒業後、北海道大学病院、帯広厚生病院など地域の中核病院に勤務。品川美容外科にて美容外科医として3年間の研鑽を積み、2021年に婦人科・美容外科を併設した当院を開業。

婦人科全般の診療のほか、美容医療では美肌治療、美容整形をはじめ脱毛・アートメイクなど幅広く対応する。

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目次

スリンダ錠とは?

スリンダ錠28は低用量ピル(LEP製剤)に分類されます。
スリンダ錠28は、ドロスピレノン(黄体ホルモン)を有効成分とするプロゲスチンのみの経口避妊薬で、POP(Progestin-Only Pill)とも呼ばれています。

スリンダ錠の分類と特徴

項目内容
分類低用量経口避妊薬(POP)
ホルモン成分ドロスピレノン(黄体ホルモン)
特徴新しい世代の低用量ピルで、『喫煙者』や『40歳以上』の方も服用可能
用法28錠タイプ(スリンダ28)、周期的に服用
Dr.石川

現在の経口避妊薬(OC:ピル)は、低用量のエストロゲン(卵胞ホルモン)プロゲステロン(黄体ホルモン)を配合したものが主です。
エストロゲンには血栓症(静脈血栓塞栓症)のリスクがあったことから、スリンダは血栓症のリスク低減が期待されています。

POP(プロゲスチン単体)とOC(エストロゲンとプロゲスチンの配合剤)の違い

女性ホルモンに関わる主要な4つのホルモン

ホルモン名分泌場所主な働き
エストロゲン(卵胞ホルモン)卵巣(卵胞)・女性らしい身体の形成
・肌や髪の潤いを保つ
・骨の健康維持
プロゲステロン(黄体ホルモン)卵巣(黄体)・子宮内膜を着床に適した状態に整える
・基礎体温を上げる
・妊娠維持
LH(黄体形成ホルモン)脳下垂体前葉・排卵を引き起こす(LHサージ)
・排卵後に黄体を形成してプロゲステロン分泌を促進
FSH(卵胞刺激ホルモン)脳下垂体前葉・卵胞の発育を促進
・エストロゲンの分泌を助ける

ホルモンと月経周期

月経は子宮の内側の膜(子宮内膜)が剥がれ落ちて、それに伴って出血が起こる現象です。
月経は通常1か月の周期で起こり、この周期のことを「月経周期」と呼んでいます。

月経周期は複数のホルモンが複雑に作用することで調節されています。
妊娠が成立するためには、まずは「排卵」が重要で、排卵直前には黄体形成ホルモン(LH)が急上昇する「LHサージ」が起こります。
排卵の少し前から受精に備え、プロゲステロン濃度が徐々に上昇し、子宮内膜が厚くなっていきます。

受精しない場合、エストロゲンとプロゲステロン濃度が急激に下がり、これをきっかけに子宮内膜が剥がれ落ちて月経となります。
もし受精して妊娠が成立した場合、エストロゲンとプロゲステロンの濃度は高値で維持されたままとなります。

以下の図はホルモン(エストロゲン、プロゲステロン、LH、FSH)の体内濃度の変動を示しています。

OC(エストロゲンとプロゲスチンの配合剤)のリスク

低用量ピル(OC)の主なリスク・副作用

リスク・副作用内容・補足説明
血栓症のリスク最も重篤な副作用。特に35歳以上で喫煙者はリスクが高く、ピルの服用は原則禁忌。足の腫れ・痛み、息苦しさなどが出たらすぐ受診。
吐き気・頭痛・めまい服用初期に現れることがあるが、通常は1〜2ヶ月で慣れる。強く出る場合は種類変更を検討。
乳房の張り・痛みホルモンバランス変化による。エストロゲン量の多いタイプで出やすい。
不正出血特に服用初期や飲み忘れ時に出やすい。一時的なものが多いが、長期続く場合は要相談。
体重増加・むくみホルモンの影響で水分をためこみやすくなることがあるが、顕著な体重増加は稀。
気分の浮き沈み人によっては情緒不安定になることがある。精神疾患の既往がある人は注意が必要。
肝機能への影響まれに肝機能障害を引き起こす可能性あり。服用中は定期的な血液検査が推奨される。
がんリスクの変化子宮体がん・卵巣がんリスクは下がるが、乳がん・子宮頸がんリスクはわずかに上がるとされている。定期検診が重要。

■ 服用できない人(禁忌)

  • 35歳以上で喫煙している人(特に1日15本以上)
  • 血栓症の既往がある人
  • 重度の高血圧、心疾患、脳血管疾患のある人
  • 授乳中(※エストロゲン含有OCはNG)
  • 乳がんの既往がある人
  • 重度の肝障害がある人

POP(プロゲスチン単体)はエストロゲンを含まない

POP製剤であるスリンダ錠28の有効成分は、単剤型人工黄体ホルモン(プロゲスチン)のドロスピレノンです。

黄体ホルモンには排卵抑制作用があり、体内である程度の濃度が維持されていると体が妊娠状態だと錯覚し、LHサージおよび排卵が行われにくくなります。
その他、子宮内膜の菲薄化、子宮頸管粘液の高粘稠による精子の侵入障害などによっても避妊効果を発揮すると考えられています。

Dr.石川

エストロゲンを含まないため、静脈血栓塞栓症などの血栓症のリスク低減が期待されています。

POP製剤であるスリンダ錠28は『喫煙者』や『40歳以上』の方も服用可能

スリンダ錠28が服用可能とされる人

条件説明
40歳以上の女性エストロゲンを含まないため、血栓症リスクが低く高齢女性にも使用可能。
喫煙者(35歳以上含む)低用量ピル(エストロゲン含有)では禁忌だが、ミニピルなら原則服用可。
Dr.石川

スリンダ錠28は、エストロゲンによる副作用リスクを避けたい方や、年齢・喫煙の理由で従来のOCを使用できない方にとって、有効な選択肢です。

スリンダ錠28の服用方法

 1 日 1 錠を毎日一定の時刻に白色錠から開始し、指定され た順番に従い 28 日間連続経口投与します。
以上 28 日間を服用 1 周期とし、29 日目から次の周期の錠 剤を服用します。

スリンダ錠28の作用機序

ドロスピレノンはプロゲステロン作用と抗ミネラルコルチコイド作用、弱い抗アンドロゲン作用を持ち、排卵の抑制、子宮内膜の菲薄化、子宮頸管粘液の高粘稠による精子の侵入障害等により避妊効果を発揮します。

STEP
ゴナドトロピン分泌抑制による排卵の抑制
STEP
子宮内膜の菲薄化
STEP
子宮頸管粘液の高粘稠による精子の侵入障害

他の経口避妊剤から本剤に切り替える場合

スリンダ錠28の服用は、切替え前に服用していた薬剤の1周期分の錠剤のうち、有効成分を含む錠剤を用法に従ってすべて服用した翌日から開始します。
スリンダ錠28の服用開始が遅れた場合、妊娠する可能性がでます。

まとめ

スリンダ錠は、日本で初めて承認された「プロゲスチン単独製剤」であり、従来の低用量ピル(エストロゲン+プロゲスチン配合)とは異なり、エストロゲンを含まないのが特徴です。
そのため、血栓症リスクが低く、35歳以上の喫煙者や40歳以上の女性でも使用できる可能性があります。
さらに、授乳中の女性にも使用が可能で、安全性に優れた選択肢とされています。
一方で、服用時間の厳守や不正出血などの注意点もあるため、医師の指導のもと適切に使用することが重要です。

Dr.石川

スリンダ錠は、従来のピルが使えなかった女性にも新たな避妊の選択肢を提供する注目の製剤です。
最後までお読みくださり、ありがとうございました!

参考文献

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