院長の石川(産婦人科専門医)です。
2021年7月に、その時点で得られた情報をもとに新型コロナワクチンに関する記事を作成しました。それ以降も、新型コロナウイルス感染症の国内感染者数は増加し、コロナワクチンを打ちたいと考えている方にとっては、1日でも早く打ちたい、と願っている状況ではないかと思います。
妊娠中や妊活中、ピル服用中の方々の間にも、徐々にワクチンは問題なさそうということが、広まってきているように思います。
しかし、

「ピルを飲んでいるのですが、ワクチンは大丈夫でしょうか?」
「生理中で出血がひどいのですが、大丈夫でしょうか」

「妊娠中ですが、大丈夫でしょうか?」
などのような問い合わせはあります。
変異株が次々に報告され、ワクチン製剤に関するポジティブなニュースも、ネガティブなニュースもあることから、いざ自分が新型コロナワクチンを打つこととなると、躊躇してしまうのも無理はないと思います。
2021年8月14日に、産婦人科の3学会より「妊産婦のみなさまへ―新型コロナウイルス(メッセンジャーRNA)ワクチンについて(第 2 報)―1) 」が発表されました。今回は、アップデートされた内容を含めて、新型コロナワクチンについて産婦人科の患者さんに向けて解説したいと思います。
この記事の執筆者

石川 聡司 日本産科婦人科学会認定 産婦人科専門医
(新さっぽろウィメンズ ヘルス&ビューティークリニック 院長)
北海道大学医学部卒業後、北海道大学病院、帯広厚生病院など地域の中核病院に勤務。2021年に婦人科・美容外科を併設した当院を開業。
- 資格:日本産科婦人科学会認定 産婦人科専門医
- 所属:日本美容外科学会JSAS、日本女性医学学会、日本産婦人科学会、日本周産期新生児学会
新型コロナワクチンの有効性
現在、新型コロナワクチン は、ファイザー/ビオンテック社、そしてモデルナ社が開発したmRNA(メッセンジャーRNA)ワクチンと、アストラゼネカ社が開発したウイルスベクターワクチンの3つが、国内で承認されています2, 3, 4) 。
- ファイザー/ビオンテック社:mRNAワクチン
- モデルナ社:mRNAワクチン
- アストラゼネカ社:ウイルスベクターワクチン
mRNAワクチンには、新型コロナウイルスを構成するタンパク質の設計図となるmRNAが盛り込まれており、これを接種することでmRNAがマクロファージに取り込まれると、細胞内のリボソームによってmRNAの情報が読み込まれ、細胞内でスパイクタンパク質が作られます。
マクロファージの表面にスパイクタンパク質が現れると、これに対する抗体が作られ、細胞性免疫応答が誘導されて、新型コロナウイルスに対する免疫を獲得することができると考えられています2, 3, 4) 。

mRNAワクチンは、あまり聞いたことのない種類のワクチンかもしれませんが、数十年前から研究がされており、長期的な副反応はないといわれています。
また、遺伝情報を体内に接種することによって、人間の遺伝子情報に変化が起こることはありません。mRNAは接種後数日以内に分解され、作られるスパイクタンパク質も接種後2週間でなくなるといわれています5) 。
また、ワクチン接種は、接種を受けた人だけではなく、その地域の未接種の人に対する感染防止策として有効であることが知られています。
ワクチン接種率が20%上がるごとに、ワクチンを受けていない集団の新型コロナ感染症の検査陽性率が、約2倍減少したという報告があります。また、排出するウイルスの量が少ない、排出する期間が短い、症状のある期間が短い、感染しているけれど症状がない人の割合が高い、という特徴もあったと報告されています6) 。
つまり、ワクチン接種率が高まると、地域全体の感染防止に役立つということが言われているのです。
妊産婦に対する新型コロナワクチンの効果と安全性

2021年8月14日に、日本産婦人科学会、日本産婦人科医会、日本産婦人科感染症学会の3学会から、連名で妊産婦に対する声明が発表されました1) 。
要点は以下の通りです。
- 多くの妊婦さんの新型コロナウイルス感染が確認されている
- アメリカ疾病対策センター(CDC)は、妊婦さんへのワクチンを強く推奨している
- 日本でも妊婦さん全体にワクチンを推奨する
- 妊婦さんの主な感染経路は、夫やパートナーからである
- 妊婦さんの夫やパートナーにもワクチンを推奨する
- 妊娠後期に新型コロナウイルスに感染すると重症化しやすい
以前は、妊娠を計画中の場合、可能ならば妊娠前にワクチンを摂取し、妊娠初期の場合は妊娠12週まではワクチン接種を避けることが推奨されていました。
しかし、今回の発表から、すべての時期の妊婦さんへワクチン接種が推奨されることになりました。
新型コロナワクチンが妊娠、胎児、母乳、生殖器に悪影響を及ぼすという報告はありません。
新型コロナウイルスに感染した妊婦から胎児へ感染することはまれであると考えられています。
妊娠初期または、中期に新型コロナウイルスに感染した場合に、ウイルスが原因で胎児に先天異常が引き起こされる可能性は低いといわれています。

新型コロナワクチンの副反応に関しては、妊婦さんに特別のものはありませんが、発熱した場合には、早めに解熱剤を服用するのが良いでしょう。(アセトアミノフェンにアレルギーがない限り)アセトアミノフェンが推奨されます。
また、副反応の有無にかかわらず、妊娠の異常(流産、早産、その他)の頻度は、ワクチンを接種しなかった妊婦と同じであると報告されています。
妊娠中、授乳中の方もワクチンを接種することができます。日本で承認されているワクチンが妊娠、胎児、母乳、生殖器に悪影響を及ぼすという報告はありません。
- 妊婦さんが感染した場合胎児に先天異常が引き起こされる可能性は低い
- 特別な副反応はない
- 解熱剤はアセトアミノフェンを推奨
- ワクチン接種をしても妊娠の異常頻度は上がらない
妊娠後期に新型コロナウイルスに感染すると、早産率が高まり、患者本人も一部は重症化することが報告されています7) 。
妊娠中の時期を問わず、新型コロナワクチンの接種をおすすめします。夫またはパートナーの方も是非接種してください7) 。
新型コロナワクチンの変異株に対する効果は?

様々な研究結果から、変異株にも一定の効果があるといわれている。
変異株という言葉を毎日のように聞くようになりました。実は、ウイルスが変異すること自体はおかしなことではありません。ウイルスは一定の頻度でその遺伝情報に変異を起こすものだからです。
現在、話題になっている変異株とは、新型コロナウイルスがヒトの細胞へ侵入するために必要な、スパイクタンパク質の一部が変化したものです。この変異によって、ウイルスの病原性が変わり、ワクチンの有効性に変化が出るのではないか、と心配されています。
これまで、アルファ株やベータ株、ガンマ株、デルタ株といったさまざまな変異株の出現が報告されてきました。それぞれ、ワクチンの有効性は実験室レベルで実証されており、実際にワクチン接種した人の感染や発症、入院を予防する効果が高いことが示されています8) 。
これは、ファイザー/ビオンテック社や武田/モデルナ社のmRNAワクチンだけではなく、アストラゼネ社のウイルスベクターワクチンでも同様です。
さまざまな研究結果から、変異株の多い地域における新型コロナワクチンの有効性は示されており、変異株にも一定の効果があると言われているようです8, 9) 。
ピル服用中のかたが新型コロナワクチンを接種する場合は?

血栓症とは、血管の内で血が固まってしまい、血が流れにくくなる病態で、心筋梗塞や脳梗塞、肺塞栓症という命に関わる病気が挙げられます。
低用量ピル内服中も、血栓症のリスクは内服していない人より高くなります。しかし、妊娠中や出産後の発症頻度に比べると、それほど高くないとも言われています。
妊娠中や出産後の女性にワクチン接種が推奨されているのですから、新型コロナワクチンを接種するにあたって、低用量ピルの服用を中止する必要はないと思われます。
OC・LEPガイドライン2020年度版でも、新型コロナのワクチン接種のために、低用量ピル内服を中止することは推奨していません。
ピル服用中に新型コロナにかかってしまった場合は?

もし、低用量ピル服用中に新型コロナ感染症にかかってしまった場合は、どうしたら良いでしょうか。
OC・LEPガイドライン2020年度版では、新型コロナウイルス感染症を発症した場合、低用量ピルの服用をいったん中止して様子をみることを推奨しています10, 11, 12) 。
- 軽症あるいは無症状である場合
-
OC・LEP(低用量ピル)使用者では、エストロゲン製剤以外の方法についても検討すること。
(低用量ピル以外の避妊方法(=コンドームや子宮内避妊具など)を検討すること)
HRT(ホルモン補充療法)使用者では、エストロゲン製剤を中止するか、または経皮製剤を用いること。 - 軽症でも呼吸症状がある場合、または、重症である場合
-
OC・LEP(低用量ピル)やHRT(ホルモン補充療法)を中止し、低分子ヘパリンを投与する(抗凝固療法を行う)こと。
前述のように、新型コロナウイルス感染症は、全身性の炎症によって凝固能(血液が固まろうとする力)が亢進して、血栓症を生じることが知られています。低用量ピルを含むエストロゲン製剤を服用していると、血栓症の発症リスクがわずかに上昇します10, 11) 。
そのため、新型コロナウイルスの感染によって、この血栓症の発症リスクが上がるかもしれない、と警戒して大事をとって治療しましょう、という趣旨であると考えられます。
実際のところ、低用量ピルを服用することによって、新型コロナウイルス感染症に伴う血栓症発症のリスクをどの程度上昇させるかについては、明らかになってはいません。新型コロナウイルス感染症から回復した際には、再度かかりつけ医と相談の上、低用量ピルを再開することになると思います。
まとめ
新型コロナウイルス感染症は、誰しもかかってしまう可能性のある病気です。若年者の感染も問題になっており、妊婦さんなど若年女性の場合には、夫やパートナーから感染している例が多いと言われています。
新型コロナウイルス感染症に対して、新型コロナワクチンの有効性は認められています。妊活中であっても、妊娠中であっても、授乳中であっても、接種を回避する理由にはなりません。本人も家族・パートナーの方もワクチン接種を行って、一緒に注意する必要があります。
なお、低用量ピルの服用中の方も、新型コロナワクチンを接種することへの、否定的な根拠はありません。
変異株が出現し、簡単には収束が見えない状況ですが、各個人ができる感染対策を行うことで、自分や家族の安全を確保できるように努めていただければと思います。

何か不安に思うことがある場合には、かかりつけ医にご相談ください。
参考文献
- 日本産婦人科学会他. 妊産婦のみなさまへ―新型コロナウイルス(メッセンジャーRNA)ワクチンについて(第 2 報)―. https://www.jsog.or.jp/news/pdf/20210814_COVID19_02.pdf
- 首相官邸. 新型コロナワクチンについて. https://www.kantei.go.jp/jp/headline/kansensho/vaccine.html
- 厚生労働省. 新型コロナワクチンQ&A. 日本で接種が進められている新型コロナワクチンにはどのような効果(発症予防、持続期間)がありますか。 https://www.cov19-vaccine.mhlw.go.jp/qa/0011.html
- 日本薬剤師会. 薬剤師から一般の方々に向けた新型コロナウイルスワクチンに関するFAQ. https://www.nichiyaku.or.jp/assets/uploads/activities/faq0621.pdf
- 厚生労働省. 新型コロナワクチンQ&A. mRNA(メッセンジャーRNA)ワクチンはワクチンとして遺伝情報を人体に投与するということで、将来の身体への異変や将来持つ予定の子どもへの影響を懸念しています。https://www.cov19-vaccine.mhlw.go.jp/qa/0008.html
- O Milman, et al. Community-level evidence for SARS-CoV-2 vaccine protection of unvaccinated individuals. Nat Med 27(8):1367-1369, 2021. doi: 10.1038/s41591-021-01407-5. Epub 2021 Jun 10. https://www.nature.com/articles/s41591-021-01407-5?fbclid=IwAR0UxECsfdwNGmnORrrNQuYk3wRZ1MfXQ7AdAsMgRHYH6tfyytyGTf_2fb0
- 厚生労働省. 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策~妊婦の方々へ~. https://www.mhlw.go.jp/content/11920000/000822215.pdf
- 厚生労働省. 新型コロナワクチンQ&A. https://www.cov19-vaccine.mhlw.go.jp/qa/0012.html
- Pfizer. Pfizer and biontech confirm high efficacy and no serious safety concerns through up to six months following second dose in updated topline analysis of landmark COVID-19 baccine study. https://www.pfizer.com/news/press-release/press-release-detail/pfizer-and-biontech-confirm-high-efficacy-and-no-serious
- Effectiveness of the BNT162b2 Covid-19 Vaccine against the B.1.1.7 and B.1.351 Variants. N Engl J Med 385:187-189, 2021. DOI: 10.1056/NEJMc2104974. https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMc2104974
- OC・LEPガイドライン 2020年度版.
- 日本産婦人科学会他. OC・LEPやHRTなどのエストロゲン製剤使用に関する注意. http://www.jsog.or.jp/modules/committee/index.php?content_id=147