ピルの副作用で血栓症はおきるの?気をつけることや対策、予防法、などについて詳しく解説します。

呼吸困難 女性

院長の石川(産婦人科専門医)です。

低用量ピルを飲む場合に、最も心配な副作用は血栓症だと思います。副作用として有名でも、実際どのような症状が起こるのか、どの程度危ないのか、どんなふうに気をつけたらいいのか、わからないですよね。

今回は低用量ピルと血栓症に注目し、安心してピルを飲み続けていただけるよう、正しい医療情報をお伝えしたいと思います。

この記事の執筆者

石川 聡司 日本産科婦人科学会認定 産婦人科専門医
(新さっぽろウィメンズ ヘルス&ビューティークリニック 院長)

北海道大学医学部卒業後、北海道大学病院、帯広厚生病院など地域の中核病院に勤務。2021年に婦人科・美容外科を併設した当院を開業。

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そもそも血栓症とは?

血栓症とは、何らかの理由で、血管の中に血の塊(血栓)ができあがってしまい、この血栓によって血液の流れが滞った状態のことです。血管には動脈と静脈の2種類があり、どちらにも血栓ができる可能性があります。

動脈とは、心臓から全身に出ていく血管のことです。動脈は全身に血液を送り込むために、太い血管から徐々に細かく枝分かれて、毛細血管という細い血管になったあと、静脈になって、今度は逆に集合していき心臓に戻っていきます。

動脈には、酸素や栄養を多く含んだ血液が流れており、血流が早いことが特徴です。一方で、静脈には、二酸化炭素や老廃物が多い血液が流れており、血流が遅いことが特徴です1, 2)

①動脈血栓症

脳梗塞 心筋梗塞

動脈血栓症とは、動脈で血栓ができて流れが滞った状態のことです。

動脈は、重要な臓器に酸素や栄養を運ぶ血管なので、血栓で流れが止まってしまうと、臓器に十分な栄養や酸素が流れず、最悪の場合、臓器がダメージをうけます。代表的な病気として、脳梗塞や心筋梗塞が挙げられます。

脳梗塞

脳動脈が血栓によって血液の流れが止まってしまい(虚血)、脳がダメージをうけます。典型的な症状は、手足や顔の麻痺です。力が入らない、腕や足を動かせない、呂律が回らない、顔が左右でゆがんでいるなどの症状が現れます。このような症状が急に起こった場合は、脳梗塞が疑われます。

心筋梗塞

心臓の周りには、冠動脈という酸素や栄養をとどける血管があります。この冠動脈に血栓や動脈硬化で流れがとまっておこるのが、心筋梗塞です。心臓の筋肉(心筋)へ酸素が届くことなく、心筋がダメージを受けて心臓がしっかりと動かなくなります。典型的な症状は、胸の真ん中をグーっと押されるような(象などに押されるような)痛みがおこります。

静脈血栓症

血栓症

静脈血栓症とは、静脈で血栓ができて流れが滞った状態のことです。

静脈は、心臓にもどっていく血管なので、血栓で流れが止まってしまうと、戻るはずの血液が停滞してしまい、むくみ(浮腫)を起こします。代表的な病気として、足がむくんでしまう下肢静脈血栓症が挙げられます。下肢静脈血栓症は、その血栓が何かの拍子で飛んでしまい肺の血管で詰まってしまうと、肺血栓塞栓症(いわゆるエコノミークラス症候群)を起こす可能性があります1, 2)

下肢静脈血栓症(VTE)

下肢静脈血栓症(VTE)とは、静脈で血栓が流れを止めてしまったものをいいます。足はもともと、重力の影響で血液がたまりやすいため、足で発生する頻度が高くなります。足で血栓ができてしまうと、心臓に戻ろうとする血液の流れがとまってしまうため、血液が血栓より手前で停滞し、浮腫を引き起こします。症状は、足のむくみや足の疲れやすさなどが見られます1, 2)

肺血栓塞栓症

肺血栓塞栓症とは、足などの静脈でできた血栓が、その場所から流れて、静脈の血液と一緒に心臓に戻り、肺にいく血管が詰まってしまう病気です。

心臓に戻ってきた血液は、一度肺に流れて肺で酸素をとりこみ、また心臓に戻って全身に運ばれます。

肺の血管で血栓がつまってしまうと、肺に流れる血液が少なくなり酸素を十分にとりこめなくなります。また、心臓から送り出した血液は、肺を通って心臓に戻って全身に流れるので、肺に流れなくなった分だけ、全身に流れる血液も少なくなります。

症状は、突然に胸が苦しくなったり、呼吸しづらくなったりします。ひどい場合には、低血圧や意識障害など致命的な状態になる場合があります。1, 2)

ピルの副作用としての血栓症

疑問 女性

低用量ピルの副作用の中で、頻度は低いけれども重要なものは、下肢静脈血栓症(VTE)です。

詳しい内容は後述しますが、低用量ピルを服用すると血栓傾向が強くなります。血栓症は、服用後3ヶ月以内に発症する危険性が高い、重篤な副作用の一つといわれています3)

低用量ピルを服用すると、飲んでいない人と比べて、 下肢静脈血栓症(VTE)は3-3.5倍起こりやすくなると報告されています4) 。日本人での年間発生率は、2006年で10万人あたり12人(おおよそ10000人に1人)で、欧米人の4分の1といわれています5)

しかしながら、妊娠なども5-20倍、出産後12週以内は40-65倍、 下肢静脈血栓症(VTE)になりやすいので、低用量ピルの服用がことさら異常にリスクが高いとはいえません5)

低用量ピルの血栓症以外の副作用には、頭痛、嘔気、乳房痛、体重増加、嘔吐などがありますが、これらは、低用量ピルを服用した方と、プラセボ(偽薬)を服用した方で差はないことが報告されており6) 、低用量ピルを飲むことで発生しやすいわけではありません。

低用量ピルの服用で血栓症がおこってしまう理由

低用量ピルを服用すると、その中に含まれる女性ホルモンによって、血を固める成分の凝固因子(フィブリノゲン、プロトロンビンなど)が増える一方で、血を固めるのを抑制する成分の凝固抑制因子(アンチトロンビン、プロテインSなど)が低下します4)

そのため、低用量ピルを服用すると血栓ができやすくなるのです。

血栓症のリスクが高い人

低用量ピルによる血栓症は、下記の表で示すような危険因子があると、リスクが増えてしまいます7)

身近なリスクとして、肥満、年齢、喫煙、血栓症の既往があげられます4)

危険度危険因子
弱い肥満、下肢静脈瘤、喫煙
中程度高齢、長期臥床、心不全、呼吸不全、悪性疾患、重症感染症
強い静脈血栓症の既往、血栓性素因の保有、下肢麻痺、下肢ギプス固定

肥満の 下肢静脈血栓症(VTE)リスク

太る 肥満

肥満は下肢静脈血栓症(VTE)発症リスクと関係しており、BMI(体格指数)が上がるとともにリスクが増えます。

低用量ピルを服用している方では、BMI 20-24.9の方を下肢静脈血栓症(VTE)リスク1.0としたとき、BMI 20未満は差はなく、BMI 25-29.9 は2.4倍、BMI 30以上は 5.5倍 なりやすいと言われています4, 7)

年齢の下肢静脈血栓症(VTE)リスク

年齢も加齢とともに下肢静脈血栓症(VTE)リスクがあがります。

前の見出しで、ピルの服用は約3倍下肢静脈血栓症(VTE)になりやすいといいましたが、年齢別でみると30歳未満の女性は3.1倍であったのに対して、30-40歳は5.0倍(30歳未満と比較して約1.5倍)、40-50歳は5.8倍(約2倍)とリスクは上昇します4, 7)

喫煙の 下肢静脈血栓症(VTE)リスク

喫煙 女性

喫煙も下肢静脈血栓症(VTE)のリスクを上昇させます。

一般的に、喫煙をしたことがない人と比較して、喫煙したことがある人は 1.63倍、現在喫煙中の人は、2.03倍にリスクがあがることがわかっています。

低用量ピルを服用している人でも、喫煙していない人は3.9倍、喫煙経験がある人は4.83倍、現在喫煙中の人は8.79倍と、下肢静脈血栓症(VTE)リスクはあがります。 

そのため、ピルを処方してはいけない項目(禁忌)として、35歳以上で喫煙1日15本以上ある人があげられています3, 8)

血栓症の既往(過去にすでに血栓症になったことがある)

低用量ピルを服用する前に血栓症になったことがある人は、すでに血栓症のリスクが十分高い状態です。低用量ピルの服用は血栓症のリスクを増加させるために、致命的な血栓症が起こる可能性があるため、血栓症の既往のある方の場合は低用量ピルの服用はできません(禁忌)3, 8)

血栓性素因

先天性:アンチトロンビン欠損症、プロテインC欠損症、プロテインC欠損症など
後天性:抗リン脂質抗体症候群など

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血栓症と思われる症状があった場合の対処法

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これまでお話したとおり、血栓症の症状でまず認められるのは、むくみ(浮腫)です。

足のむくみ自体は日常的に起こり得ますが、片方の足だけむくみが強い、起床時でもむくみが改善しない場合は、血栓ができていることが疑われます9)

むくみの症状などが出た場合は、低用量ピルを処方してもらったクリニック・病院に受診し相談することをおすすめします。

それ以外に、急に胸が痛い、呼吸困難が出てきたときは、低用量ピルを服用している状況であれば、肺動脈血栓塞栓症も可能性があります。もちろん、胸の痛みや呼吸困難を起こす病気は他にもいろいろありますが、そういった症状が出た際も低用量ピルを処方してもらったクリニック・病院への受診をおすすめます。

まれに血栓が脳の静脈血管の中でできることがあり(脳静脈洞血栓症)、ひどい頭痛を起こすことがあります。低用量ピルの服用後に、これまでにはない新しい強い頭痛がでてきた時も受診することをおすすめします。

ピルによる血栓症を予防する方法7, 10)

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血栓の発生には、①血流の異常、②血管壁の異常、③血液性状の異常が関係するといわれています(Virchowの三原則)。

①血流の異常については、同じ姿勢などでいると足の血液がうっ滞しやすくなり(ふくらはぎの筋肉を使うことで血液を心臓におくりやすくしている)、血栓が発生しやすくなります。

③血液性状の異常については、水分をあまり摂取せずにいると脱水になり、血液の成分が濃くなり血が固まりやすくなります。そのため、エコノミークラス症候群は、同じ姿勢で寝てしまって水分摂取がすくなくなると起こりやすくなります。

低用量ピル服用時の血栓を予防する方法としては、血流の停滞をふせぐ、じっと同じ姿勢でいない(定期的に動く)ことが大事です。

むくみやすい体質である場合は、むくみ自体が血栓のリスクにもなるので、弾性ストッキングなど、むくみ予防の製品を活用しましょう。

脱水は血栓のリスクになりますので、定期的な水分摂取(1日あたりトータル1500ml程度)も行いましょう。腎臓や心臓に持病がある方はかかりつけ医と相談してください。

ピル服用時に行う検査

低用量ピルの処方を行うにあたり、まずは、問診票などへの記載を含めた問診で、安全に処方できるのかをチェックします。また、血圧測定もあわせて行います。身長、体重も申告していただきます。

慎重投与となる項目に該当する場合は、ご本人とリスクをお話ししながら、低用量ピルを飲むことのメリット・デメリットを考え、同意いただければ処方します。

禁忌項目となる項目に該当する場合は、低用量ピル内服がメリットよりもデメリットが多くなるため、処方することはできません3, 8, 11)

まとめ

今回は、低用量ピルの重要な副作用である血栓症について説明しました。

低用量ピルのマイナス面に関する内容が多いものでしたが、低用量ピルによる治療は、月経困難症や子宮内膜症の緩和など、非常に有益なものです。そのため、安全に治療を行えるよう、処方前に十分な安全評価をして処方することになっております。

ご不安な点があれば、医師へ質問してくださいね。

参考文献

  1. 千葉医師会. 「血栓症」を知ろう. 2016.10.05. https://www.chiba.med.or.jp/general/topics/medical/medical_39.html
  2. 血栓症ガイドブック. 日本血栓止血学会 http://www.jsth.org/wordpress/wp-content/uploads/2015/05/血栓症ガイドブック.pdf
  3. 低用量経口避妊薬、低容量エストロゲン・プロゲスチン配合薬ガイドライン 2015年度版. 日本産科婦人科学会編. http://www.jsog.or.jp/news/pdf/CQ30-31.pdf
  4. 若槻明彦. VTEリスクの説明は? 産科と婦人科 88(6):703-707, 2021
  5. 肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断、治療、予防に関するガイドライン(2017改訂版) 2018年12月更新
  6. 安井敏之, 松浦幸恵, 河北貴子, 吉田 加奈子. OC・LEPの有害事象. 医学と薬学 77(10):1367-1374, 2020.
  7. 福原理恵, 水沼英樹. ピルの副作用と新ガイドライン 血栓症 ピルと血栓症. 臨婦産 60(12):1448-1453, 2006.
  8. 北村邦夫. 低用量経口避妊薬(OC)の使用に関するガイドライン. 産婦人科治療 98:673-678, 2009.
  9. 松尾汎. 深部静脈血栓症・肺塞栓症を見逃さないために 実地医家の役割. Heart View 21(1):16-24, 2017.
  10. 杉浦和子. ピルの種類と血栓症の歴史. 助産雑誌 75(9):700-703, 2021.
  11. 高橋俊文. 処方前の検査は? 産科と婦人科 88(6):667-670, 2021.
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