院長の石川(産婦人科専門医)です。
生理前や生理がおこっている時期に、ニキビや肌荒れがおこり、お肌の状態が悪くなることは、経験があるのではないでしょうか。実はこれ、ホルモンバランスという女性ならではの問題なんです。避けられないこととはいえ、大きな悩みの一つになりますよね。
思春期の時にできたニキビが治って一段落したかな?と思いきや、大人ニキビに悩まされる可能性があるのです。顔だけではなく、背中や胸元、頭皮にまでニキビができてしまうこともあって、本当に悩ましい問題ですよね。
ニキビは皮膚科で治療するイメージですが、女性の大人ニキビは婦人科でも治療可能です。低用量ピルが大人ニキビの治療に効くのです。
もちろん、ニキビや肌荒れが軽度であれば、セルフスキンケアなどで改善する可能性があります。ただ、自力でもなかなか良くならない場合には、短期間でも治療薬を使うことが、おすすめの選択肢の一つとなります。
今回は、婦人科で行っている、低用量ピルによるニキビや肌荒れの治療について説明していきます。
この記事の執筆者
石川 聡司 日本産科婦人科学会認定 産婦人科専門医
(新さっぽろウィメンズ ヘルス&ビューティークリニック 院長)
北海道大学医学部卒業後、北海道大学病院、帯広厚生病院など地域の中核病院に勤務。2021年に婦人科・美容外科を併設した当院を開業。
- 資格:日本産科婦人科学会認定 産婦人科専門医
- 所属:日本美容外科学会JSAS、日本女性医学学会、日本産婦人科学会、日本周産期新生児学会
ピルによるニキビ治療の有効性
ニキビは、毛穴に起こる慢性の炎症性疾患です。
ニキビができる主な原因は、以下の3つです。
- 皮脂(皮膚のあぶら)の産生が盛んであること
- 毛穴の出口が詰まってしまうこと
- ニキビの原因となるアクネ菌が繁殖すること
このうち、皮脂が多く分泌される原因には、男性ホルモンの影響があるといわれています。
10代から見られる思春期ニキビと、成人以降に見られる大人ニキビ(吹き出物)がありますが、両者は別物であると考えて治療することになります。
思春期ニキビは、皮脂の分泌が増えて、脂性肌になっていることが主な原因です。思春期になると、成長ホルモンや男性ホルモンの分泌量が増加し、そのため皮脂の分泌が増えるのです。
おでこや鼻などを中心にできやすいことが特徴です。20代前後には、ホルモンバランスが安定してくるため、多くの場合、思春期ニキビは治ります。
大人ニキビは、食習慣や喫煙などの生活習慣も原因の一つになりますが、ホルモンバランスの乱れとして、特に、排卵後に起こるプロゲスチン(黄体ホルモン)の急激な増加による影響が大きい、といわれています。
あごや口周りなど顔の下の部分、フェイスラインにできやすいことが特徴です。また、思春期ニキビと違って、いったん治ったとしても再発してしまうことがあり、肌トラブルの一因となります。
女性ホルモンには、エストロゲンとプロゲスチンの2種類があります。これらのホルモンバランスの変動が、生理周期とともに繰り返されるため、ニキビや肌荒れが起きやすくなります。
エストロゲン(卵胞ホルモン)は、生理後から排卵までの間(卵胞期)に分泌量が増加して、肌質を保つ効果があります。皮脂腺の分泌抑制やコラーゲンの合成促進作用があるからです1) 。このため、排卵日あたりの時期は、お肌の調子は良くなる傾向にあります。
一方で、プロゲスチン(黄体ホルモン)は、排卵後に急激に分泌量が増加し、皮脂の産生を盛んにする効果があります。皮脂腺に作用して皮脂の分泌を促す作用があるからです1) 。このため、排卵から生理までの間(黄体期)にはニキビや肌荒れが起こりやすくなります。
ニキビの発症には、アンドロゲンという男性ホルモンが関与しています2) 。低用量ピルにはエストロゲンとプロゲスチンの両方が配合されていますが、プロゲスチンの種類によっては、アンドロゲン活性が高くなってしまうものがあります。
アメリカの「ニキビ治療に関するガイドライン」では、低用量ピルの使用が推奨されています(推奨度Aという高い評価)2) 。
一方で、日本皮膚科学会が主導で策定している、「尋常性痤瘡(ニキビ)治療ガイドライン2017」では、推奨度C、という低い評価になっています3) 。ただし、解説欄を詳しく読んでいきますと、海外における多数の知見から、低用量ピルはニキビに有効であると認められています。国内での使用経験が十分ではないことから、国内で未承認の治療にとどまっているのが現状といえそうです。
日本産婦人科学会が主導で策定している、「低用量経口避妊薬、低容量エストロゲン・プロゲスチン配合薬ガイドライン2020年度版」では、低用量ピルによるニキビ治療への有効性は推奨度B、と記載されています4) 。これは、前回の2015年度版では推奨度Cとなっていましたので、推奨度が引き上げられました5) 。
一つの疾患の治療について、複数のガイドラインから意見があるというのは、医学の世界ではよくあることです。患者さんの病状などを踏まえて、総合的な判断で治療方針を決めていくことになります。
日本国内では現時点で、低用量ピルはニキビ治療の第一選択薬であるとは言いきれない、と思います。海外での高いエビデンスが認められていることや、国内のガイドラインの評価を踏まえると、ニキビ治療の選択肢の一つとして検討しても良いといえるでしょう。
治療効果はいつからでる?
低用量ピルによるニキビの治療が、効果を発揮するためには、3ヶ月程度の期間を目安と考えてください4, 6) 。
もちろん、病状によっても治療効果は異なります。即効性はありませんが、軽症の場合では1ヶ月程度で効果が現れ、重症の場合では、6ヶ月程度はかかる可能性があります。
いわゆる白ニキビは、皮脂や角質が詰まったニキビの初期段階ですので、このような早期から治療を進めると早く回復することが可能です。
重症の場合は、ピルをやめるとニキビが再発することもありますので、やめるタイミングは担当医と相談していくのが良いでしょう。
ニキビ・肌荒れの治療方法
ニキビや肌荒れに対する治療としては、主に3つの方法が考えられます。
- 食習慣や生活習慣の改善
- セルフスキンケア
- 薬物治療
順に説明していきたいと思います。
- ①食習慣や生活習慣の改善
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栄養バランスの良い食事を心がけましょう。
食事内容が偏っていたり、間食や夜食を食べすぎたりするのは、健康維持にはよくありませんし、もちろん肌にもよくありません。肌の状態に限ったことではありませんが、バランスよく栄養価をとることが望まれます。
なお、尋常性痤瘡治療ガイドライン2017では、ニキビを悪化させる特定の食べ物はない、と記載されています3) 。また、特定の食べ物が良いということも記載されていません3) 。そのため、本記事では推奨する成分や飲食物は記載しません。
食習慣の観点でいえば、生活習慣病の一つである高脂血症になってしまうと、ニキビが改善しなかったり、悪化したりする可能性があるといわれています。そのため、高脂血症を発症しないように気をつけることや、高脂血症を悪化させないことも重要になります。
- ②セルフスキンケア
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洗顔や保湿を心がけましょう。
1日2回の洗顔が推奨されています3) 。1日4回のように洗顔の回数を増やすことは悪くありませんが、洗顔の回数を1日1回に減らした例でニキビが悪化したという報告があることから、1日2回が目安になっています3) 。
また、オイルクレンジングで洗顔することはニキビを改善させた、という報告もあることから、メイク落としにはオイルクレンジングが安全に使用できる、と言われています3) 。洗浄剤の成分に角層を剥がす粒子であるスクラブ入りを使うことについては、有効性が明確ではありません3) 。
ニキビ用の基礎化粧品は、使用しても問題ありません。
「低刺激性」かつ「ノンコメドジェニックテスト済み」のニキビ用基礎化粧品を使用することは、ニキビ治療を行う上で、支障にならないといわれています3) 。「ノンコメドジェニック」とは、コメド(面ぽう=いわゆる白ニキビ)になりにくい成分で作られている、という意味です。また、専門機関でテストを受けたものを(ノンコメドジェニック)テスト済み、といいます。
このような基礎化粧品を用いてニキビ治療薬を併用することで、治療薬による皮膚への刺激を緩和しつつ効果を高めながら、治療を進めていくことができるといわれています。
- ③薬物治療
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低用量ピルは軽症から重症で治りづらいニキビの治療に使われます。
一方で、従来から皮膚科で行われている治療では、各種抗菌薬やステロイド薬をはじめとした炎症を抑える薬の塗布や服用を行うことが多くなります。これらの薬はニキビの病状によって、使い分けられます。
なお、ビタミン薬は、さまざまな臨床試験において、ニキビの改善に有効である根拠が示されていません3) 。そのため、ニキビ対策として、ビタミン薬を服用しても悪くはありませんが、推奨はされていません3) 。
ただ、炎症性皮疹や炎症後の紅斑に対して、ビタミンCの外用薬は考慮しても良いといわれています3) 。
薬物治療を行っていれば良いというものでもなく、生活習慣の改善や、セルフスキンケアを常に行うことで、ニキビや肌荒れの症状の改善が見込めます。
ピルの種類と費用
ニキビや肌荒れに効果があるといわれる低用量ピルを、下記の表にまとめました。
種類 | 低用量ピルとしての主な効用 | 値段 | 薬の解説 |
---|---|---|---|
マーベロン®︎ | 避妊 | 2300ー2700円 | 第三世代低用量ピル。男性ホルモン作用を抑える効果が強いという特徴がある。 |
ファボワール®︎ | 避妊 | 2000ー3980円 | マーベロンのジェネリック医薬品(後発医薬品)。薬理作用はマーベロンに準ずる。 |
ヤーズ®︎ | 月経困難症 | 2000ー3000円 | 第四世代の低用量ピル。アンドロゲン活性を認めない代わりに、抗ミネラルコルチコイド作用を有する、という特徴がある。むくみの改善も期待できる。 |
ヤーズフレックス®︎ | 月経困難症 子宮内膜症の疼痛の改善 | 2000ー12000円 | 第四世代の低用量ピル。連続投与(最大120日間)を行って、毎月の消退出血や疼痛などの症状を緩和できる、という特徴がある。 |
ヤスミン | (本邦では未承認) | ー | 第四世代の低用量ピル。ヤーズやヤーズフレックス に比べると、エストロゲン含有量が多い。 |
第三世代低用量ピルであるマーベロン®やファボワール®は、主な効用として避妊を目的に使われます。避妊目的の場合には、自由診療での処方になることが注意点になります。
第四世代低用量ピルのヤーズ®やヤーズフレックス®︎は、主な効用として月経困難症の改善目的に使われます。月経困難症の治療の場合には、保険適用での処方が可能です。ニキビ治療目的では保険適用外ですが、月経困難症の治療と併用する場合には、保険診療で処方が可能となります。
ヤスミンは、第四世代低用量ピルです。ヤスミンのエストロゲン含有量(エチニルエストラジオール30μg)は、ヤーズ®やヤーズフレックス®(どちらもエチニルエストラジオール20μg)に比べて多い、という特徴があります。ただし、海外ではよく使われている薬の一つですが、日本国内では承認されていないという問題点があります。
これら以外の低用量ピルでも、ニキビ治療に使うことができる薬はあります。次項で説明するように、ニキビが悪化するケースもありますので、その場合には医師に相談して変更することも可能です。
ピルを服用してニキビが悪化するケース
ニキビ治療に使うことが可能な低用量ピルですが、一時的に悪化するけれども最終的には改善する、という経過をたどることがありますので、自己判断で中止することはしないようにしてください。一方で、好転反応ではなく、ニキビや肌荒れが悪化したままとなってしまう場合もあるため、効かないなと不安に感じた場合には医師に相談してください。
悪化したままとなってしまう場合の多くは、ニキビ治療を主な治療対象とせずに、避妊や月経困難症の治療目的に処方された低用量ピルに見られます。
ルナベル®︎やフリウェル®︎といった第一世代や、トリキュラー®︎やラベルフィーユ®︎といった第二世代の低用量ピルを内服した患者さんの中には、ときおりニキビが増えたことで悩まれるケースを経験することがあります。
第一世代低用量ピルは、ニキビ治療に使っていた時期もありますし、第二世代低用量ピルは、服用中の不正出血の頻度が少ないことから、月経困難症に対する保険診療に対してよく使われます7) 。一方で、ニキビ治療という観点で考えると、アンドロゲン活性が高めであることから悪化してしまう可能性もあるので、服用開始の際には、医師とよく相談して適切な種類の低用量ピルを選ぶことが大切です。
また、生活習慣病の一つである高脂血症を有する場合には、第二世代低用量ピル(トリキュラー®錠21、トリキュラー®錠28、ラベルフィーユ®21錠、ラベルフィーユ®28錠、アンジュ®21錠、アンジュ®28錠、ジェミーナ®配合錠)を服用するとニキビが改善しない傾向がある、といわれています7) 。
高脂血症の原因の多くは、脂質の多い食事内容や夜食や間食を取りすぎ、お酒の飲みすぎ、不規則な生活リズムなどといった生活習慣が挙げられます。このような生活習慣を改めることも、大人ニキビの予防や改善につながります。
まとめ
低用量ピルによる大人ニキビや肌荒れの治療について説明しました。
皮膚科で使われるいろいろな薬は有効性や安全性が確かめられているため、まずはそちらによる治療を行うことが望ましいでしょう。婦人科でも、低用量ピルを使ってにきびや肌トラブルに対する治療が可能である、ということをお伝えしました。
低用量ピルは、避妊や生理痛の改善効果以外にも、ニキビや肌荒れの改善も含めて多くの副効果のある薬です。他ページでも記載したように、いくつかの注意点や副作用はありますが、ホルモンバランスに悩む女性にとって解決策になると思います。
参考文献
- 病気が見える vol.9 婦人科・乳腺外科 第4版 メディックメディア.
- 樋口毅. 女性のQOL向上のためのホルモン治療 LEPの効果、副効用. 医学と薬学 77(10):1357-1365, 2020
- 尋常性痤瘡治療ガイドライン2017. 日本皮膚科学会. https://www.dermatol.or.jp/uploads/uploads/files/acne_guideline2017.pdf
- OC・LEPガイドライン 2020年度版. 日本産科婦人科学会編.
- OC・LEPガイドライン 2015年度版. 日本産科婦人科学会編. http://www.jsog.or.jp/news/pdf/CQ30-31.pdf
- 松本安代. 低用量ピルによるニキビ治療の効果. 産科と婦人科 75:640-645, 2008
- 髙橋健太郎. 思春期と低用量ピル(OC・LEP) 低用量ピルの種類とそれぞれの特徴. 思春期学 32:361-366, 2014