片頭痛がある患者さんは低用量ピルを服用しても良いのか?産婦人科専門医が解説します。

片頭痛 女性

頭痛に悩んでいる女性は多いのではないでしょうか。低用量ピルを服用している年齢の女性では、片頭痛患者さんが多いという特徴があります。

片頭痛のある患者さんの多くは、低用量ピルの服用が可能ですが、なかには低用量ピルの服用ができない場合もあります。今回の記事では、片頭痛について、および、低用量ピルを服用中の方への注意点などについて解説します。

この記事の執筆者

石川 聡司 日本産科婦人科学会認定 産婦人科専門医
(新さっぽろウィメンズ ヘルス&ビューティークリニック 院長)

北海道大学医学部卒業後、北海道大学病院、帯広厚生病院など地域の中核病院に勤務。2021年に婦人科・美容外科を併設した当院を開業。

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目次

片頭痛とは

片頭痛とは、主にこめかみから側頭部にかけてズキンずきんと脈打つように生じる頭痛です。

多くの場合は、月2回程度の頻度ですが、その回数は年齢や環境によって変化します。また、頭痛が現れてから短時間で痛みのピークに達し、頭痛が収まるまで12−24時間程度続くことが特徴的です。

頭痛は片側でも両側でもどちらも起こります。日常生活や仕事へ支障をきたすほどの激しい痛みであることが多いです。

また、光や音、匂いに敏感になったり、吐き気や嘔吐を伴ったりすることがあります1)

片頭痛の前兆

水面 チカチカ

片頭痛の患者さんの約30%は、片頭痛の発作が起こる前に前兆を感じるといわれています。

片頭痛に特徴的な前兆には、閃輝暗点といって、視野にギザギザした光がちらつく視覚的な異常があります。

実際には、前兆は患者さんそれぞれものがあり、例えば、視界が狭くなるといった視覚的な前兆や、首のあたりがゾワゾワする、感覚が鈍くなるといった感覚的な前兆もあります。5分から1時間程度で前兆が消えた後に頭痛が生じます。

約70%の患者さんにはこのような前兆はありませんので、頭痛の症状や時間経過などから片頭痛は診断されます1)

片頭痛が起こる理由や発作のタイミング

片頭痛の起こるきっかけは必ずしもはっきりしていません。

きっかけとしては、疲労、睡眠不足、眠りすぎ、強いストレスからの解放などが挙げられます。

また、ホルモンバランスの変動によっても片頭痛は起こるため、月経周期(特に生理前や生理中)がきっかけになる方も少なくありません。特に、月経周期に関連した片頭痛のことを月経時片頭痛といいます。

片頭痛は、頭蓋内血管が広がることによって痛みが悪化し、狭まると痛みが和らぐと考えられています。そのため、入浴やマッサージ、アルコールは片頭痛を悪化させ、安静や冷却、適度な緊張を保つことで痛みは和らぐといわれています1)

ホルモンバランスと片頭痛の関係

ストレス 女性

日本人の片頭痛有病率は6%ですが2) 、片頭痛の有病率は11歳以下の小児では男女差はありません。初潮を迎える12歳以降は女児での有病率が高くなることが知られており、成人では男女比が1:4と女性に多いことが知られています3) 。特に、20代から40代の女性に多いといわれます2)

前述したように、片頭痛の起こる原因として、睡眠の問題や、ストレス、ホルモンバランスの変動などさまざまなものがあげられます。その中でも、成人女性片頭痛患者の約半数は、片頭痛発作と月経との関連を自覚しているといわれています4) 。ここでは、月経に伴う片頭痛について深掘りして説明していきます。

成人女性の片頭痛は、生理開始2日前から生理3日目までと、排卵日周辺に発作がおこることが多いといわれています4) 。これは、エストロゲンの血中濃度が急激に低下する時期と合致しているため、女性ホルモンの血中濃度の変化がきっかけとなって片頭痛が起こると考えられています5)

他にも、エストロゲンの三叉神経核への直接作用や血管拡張作用、プロスタグランジン放出、マグネシウム欠乏、セロトニンの代謝異常、血小板機能異常などが月経時片頭痛の病態に重要な役割を演じている可能性があります6)

月経に関連して起こる片頭痛の多くは、前兆のない片頭痛であり、他の時期に起こる発作に比べて持続時間が長く、24時間以内の再燃率が高く7) 、急性期治療薬や予防薬の効果が少ないことも特徴です。

頭痛患者がOC (経口避妊薬、低用量ピル) を服用するときに注意しておきたいこと

ピル カレンダー

OC(経口避妊薬、低用量ピル)は種類によりますが、21~24日間服用して3~7日間休薬、または、プラセボを内服するか、連続投与するパターンで服用します。

OCの重篤な副作用としては静脈血栓塞栓症(10万人あたり2-6人)が挙げられていますが、服用開始直後から見られる副作用の一つとして頭痛(3.4~15.7%)が挙げられます8)

頭痛は、休薬期間に起こりやすくなるといわれています。これは、外因性エストロゲン中断による頭痛と考えられ、OC服用により、もともとの頭痛が悪化する場合や新規の頭痛が発症することもあります。

OC服用に伴う頭痛に対しては、使用周期が進むと消失することが多いため、3周期ほど様子を見てもあまり変化がないようであれば、OC製剤の種類を変えて副作用の軽減を図ることも可能です。

また、OC休薬期間中に定期的に出現する強い頭痛の場合は、一般的な鎮痛薬である非ステロイド性抗炎症薬(NSAID s)が有効であるため、試してみてもよいでしょう。

ただし、NSAIDsが長期間にわたって効かない場合には、片頭痛である可能性が高い、ともいわれていますので、一度医師へ相談することをお勧めします9)

片頭痛患者がOC (経口避妊薬、低用量ピル) を服用するときに注意すること

頭痛 女性

頭痛の中でも、片頭痛を有する場合、特に若い女性は注意しておく点があります。

片頭痛を有する女性では、低用量ピル服用者が非服用者に比べて脳卒中リスクが高いことが知られています10, 11)

特に、前兆のある片頭痛の場合は注意が必要で、低用量ピルの服用は禁忌となっています。脳梗塞のリスクが上昇することが知られており、低用量ピルの副作用に頭痛があることから、片頭痛の原因になってしまうためです。

このため、前兆のある片頭痛をお持ちの方は低用量ピルの服用を中止するようにお勧めします。

なお、前兆のある片頭痛は脳梗塞の発症リスクはありますが、片頭痛は古典的な脳梗塞のリスクである高血圧、糖尿病、脂質異常症、心疾患にくらべれば影響の少ない因子であると考えてよいといわれています。

具体的には、45歳未満の前兆のある片頭痛をもつ女性では、経口避妊薬を服用せず、禁煙することで、脳梗塞の発症リスクを低くすることができるといわれています12, 13)

一方で、前兆のない片頭痛であれば、慎重投与となっています。その理由として,経口避妊薬を継続使用しても頭痛が有意に悪化しないことや14) 、片頭痛患者における脳卒中リスクは、前兆のある片頭痛症例で罹患リスクが有意に増加するものの、前兆のない群では有意な増加を示さないと言われていることなどが挙げられます15, 16)

片頭痛患者は低用量ピルを服用するリスクよりも、ベネフィットが明らかに上回る場合には、低用量ピルの副作用に注意をしながら、服用することは考慮しても良いと考えています。

  • 前兆のある片頭痛・・低用量ピルは禁止
  • 前兆のない片頭痛・・低用量ピルは慎重投与

片頭痛の治療

MRI 女性

片頭痛持ちの約6割の人は専門科に受診しないで、市販薬の服用などで対応している場合が多いといわれています17)

片頭痛は頭痛外来や脳神経内科、脳神経外科などが専門の診療科であり、受診して診断・治療を受けることをおすすめします。頭痛の原因として頭蓋内異常がないか、一度は頭部MRI/MRA検査を受けておくことが望ましいです。

専門診療科の診断があることは、婦人科外来での診療にも処方薬の選択など参考になることが多くあるのです。

片頭痛の薬物療法には、発作予感時点での服用、疼痛時点での服用、発作予防のための服用、という3通りがあります。頭痛の頻度や程度などによってそれぞれ処方されます。

薬物療法に加えて非薬物療法も併用することで、さらなる効果を期待することができるので、積極的に受診していただきたいと考えています。

非薬物療法は自宅でもできる内容で、具体的には睡眠の改善やストレスの発散方法の獲得、食習慣の改善です18)

睡眠は,睡眠不足でも睡眠過多でも片頭痛を悪化させる要因となります。睡眠の障害となっている要素がわかっていて、それに対する対処が可能であれば取り掛かりましょう。

ストレスは、片頭痛を悪化させる要因の一つですが、ストレスから解放されたときに症状が出やすいという特徴もあるため、ストレスを避けることよりむしろ、ストレス発散させる方法を工夫することも効果的です。

また、片頭痛の予防として、マグネシウム(青魚や大豆、ほうれん草など)やビタミンB2(牛乳やチーズ、大豆、卵など)などが有効であるとされています17, 19) 。これらの栄養素を主成分とした処方薬はありますが、薬剤として投与することだけではなく、食事から摂取することも心がけると良いでしょう20, 21)

まとめ

今回は、片頭痛と月経、低用量ピルについて説明しました。低用量ピルを服用している患者さんは、処方薬を受ける際に片頭痛の有無について確認されることも多いので、心配になるところだと思います。

片頭痛は、程度の軽いものであれば市販薬で対応できると思いますが、症状が重い場合には生活の質が低下してしまう病気です。月経に伴う片頭痛は、定期的に起こる頭痛ですので、早めに対処することをおすすめします。

さまざまな治療薬があり、根本的な原因を解消して症状を緩和することが期待できます。ぜひお気軽にご相談いただければと思います。

参考文献

  1. 病気がみえる 〈vol.7〉 脳・神経 第2版. メディックメディア.
  2. Sakai F, lgarashi H: Prevalence of migraine in Japan: a nationwide survey. Cephalalgia 17(1) : 15-22 1997. doi: 10.1046/j.1468-2982.1997.1701015.x.
  3. Abu-Arafeh I, Russell G: Prevalence of headache and migraine in schoolchildren. BMJ 309(6957): 765-769, 1994. doi: 10.1136/bmj.309.6957.765.
  4. 五十嵐久佳. 月経に伴う片頭痛.診断と治療. 90(6): 877-882, 2002.
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  7. MacGregor EA, et al.: Characteristics of menstrual vs nonmenstrual migraine: a post hoc, within-woman analysis of the usual-care phase of a nonrandomized menstrual migraine clinical trial. Headache 50:528-538, 2010. doi: 10.1111/j.1526-4610.2010.01625.x.Epub 2010 Mar 2.
  8. OC・LEPガイドライン 2015年度版. 日本産科婦人科学会編. http://www.jsog.or.jp/news/pdf/CQ30-31.pdf
  9. 種部恭子. 適正な避妊を目指して 経口避妊薬の服薬指導. 産科と婦人科 51(11):1375-1381, 2021.
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