この記事の執筆者
石川 聡司
(新さっぽろウィメンズ ヘルス&ビューティークリニック 院長)
北海道大学医学部卒業後、北海道大学病院、帯広厚生病院など地域の中核病院に勤務。品川美容外科にて美容外科医として3年間の研鑽を積み、2021年に婦人科・美容外科を併設した当院を開業。
婦人科全般の診療のほか、美容医療では美肌治療、美容整形をはじめ脱毛・アートメイクなど幅広く対応する。
避妊インプラントとは
避妊インプラントとは、プロゲスチンを含ませた長さ4cm程度の棒状の柔らかいプラスチックです。
プロゲスチンは黄体から分泌されるホルモンです。
避妊インプラントは皮下インプラントとも呼ばれ、二の腕の皮下に埋め込むことで約3年間、99%の高い避妊効果を発揮します。
月経困難症の改善にも役立つ避妊インプラントは、挿入している間に約50μg/日の割合で主成分であるプロゲスチンが放出されます。
そのため、体内のホルモンバランスが変化し、避妊が可能になる、という仕組みです。
注意点として、肥満症の方(BMI25以上)は、避妊効果持続期間が短くなる可能性があります。
ネクスプラノン(NEXPLANON)はFDA承認
FDA認証とは、アメリカ食品医薬品局(Food and Drug Administration)から、食品や医薬品、化粧品、医療機器などの製品の販売や流通を許可されることを指しています。
避妊インプラントには複数種の製品がありますが、ネクスプラノンは1本のみの挿入で、効果は約3年間持続します。
ネクスプラノンは、2024年12月現在、100ケ国以上で使用されている避妊インプラントです。
ネクスプラノン 3つの仕組み
排卵を抑制することで、精子が体内に進入した場合も卵子と融合できなくします。そのため受精卵が作られず、避妊効果が得られます。
子宮頸部の粘液が増します。それにより、精子の進入を防ぐ効果が期待できます。
子宮内膜は受精卵を着床させる場所です。精子が子宮頸部を突破し、卵子と融合して受精卵になったとしても、子宮内膜が薄くなっているため、受精卵の着床成功率が低下します。
インプラントを取り出すことで・・
妊娠を希望する際にはインプラントを取り出すことによって体内のホルモンバランスが挿入前の状態に戻りますので、ほとんどの方が1ヶ月以内に妊娠可能となります。
また、インプラントの挿入によって不妊になる可能性はありません。
ミレーナとネクスプラノンの違い
ミレーナ(IUS:子宮内避妊システム)は、子宮内に装着して避妊効果を得る避妊具で、一般的に「避妊リング」とも呼ばれます。ミレーナとネクスプラノンの違いを以下にまとめました。
ミレーナ | ネクスプラノン | |
---|---|---|
挿入場所 | 子宮内 | 二の腕(上腕三頭筋上)の皮下 |
形状 | T字型 | 棒状 |
大きさ | 3cm程度 | 4cm程度 |
含有ホルモン | レボノルゲストレル | エトノゲストレル |
効果持続期間 | 最長5年 | 最長3年 |
効果 | 避妊・過多月経・月経困難症 | 避妊・過多月経・月経痛の緩和 |
保険適用の有無 | 過多月経・月経困難症では保険適用 | なし |
ネクスプラノンは保険適用されませんので、自費診療になります。効果持続はミレーナの方が5年と長く、挿入方法が大きく異なるという違いがあります。
ネクスプラノンのメリットとデメリット
メリット
99%の避妊効果が3年間継続します。挿入は30分もかからず完了するため、身体的負担が少ないメリットもあります。定期的なメンテナンスが必要がないため、クリニックに通う必要がありません。
エストロゲンと呼ばれる女性ホルモンが含まれておらず、プロゲスチンのみ含有されていますので、血栓症のリスクが少ないというメリットがあります。エストロゲンが原因で低用量ピルを服用できなかった喫煙者や肥満症の方でも使用が可能です。
つらい月経痛の緩和や、過多月経の改善効果も期待できます。ただし、挿入から約3カ月間は、体内のホルモンバランスの変化によって不正出血などの副作用が起こりやすいので、挿入を希望される方は注意してください。
挿入後に妊娠したいと思った場合は、すぐに抜去可能です。インプラントを取り出せばほとんどの方が1カ月以内に元のホルモンバランス状態に戻り、妊娠が可能になります。インプラント挿入による不妊症のリスクはありません。
デメリット
避妊インプラントを挿入すると、不正出血や頭痛、乳房の張り、気分の変動(感情的になる、涙もろくなる、気分が落ち込む)などの副作用が発生する場合があります。ただ、これらの副作用は一時的で、数カ月すれば身体がホルモンバランスの変化に慣れてくるため、次第に治まります。
インプラント挿入時は、挿入箇所周辺に内出血が発生するリスクがあります。傷跡は針穴程度のため、すぐに目立たなくなりますが、抜去時は数ミリ程度切開を行い、インプラントを取り出します。
また、抜去後に1日間の包帯による圧迫が必要になります。その後は数日間、傷を保護するテープを貼る必要があります。
なお、抜去時に新しいインプラントの挿入も可能です。
性感染症予防の効果はありませんので、性感染症に罹るリスクがある行為を行う際は、コンドームなどの避妊具を使用する必要があります。
月経困難症の改善を目的としていても保険適用外となり、全額自己負担となります。
インプラントの主成分であるプロゲスチンの影響によるものですが、体重増加の副作用は皮下インプラントに限らず、その他のホルモン療法でも一部の方に起こります。体重増加の副作用が現れた方は平均で約1.3kg以下であると報告されています。
肌荒れやニキビが悪化するなどの副作用が現れることがあります。これは分泌されるホルモンが原因で、皮脂が皮膚に溜まり、ニキビを引き起こすアクネ菌の繁殖を促すためです。
ネクスプラノン挿入の流れ
挿入は局所麻酔で行われます。挿入部分(二の腕)を消毒して局所麻酔を行います。
挿入は専用の器具で行われます。挿入は10分程度で完了します。局所麻酔が効いているため痛みを感じることはありません。挿入直後は二の腕の内側に注射針の跡が小さく残りますが、時間が経つにつれて徐々に目立たなくなります。また、数時間後や翌日に挿入部周辺に内出血が発生する場合がありますが、こちらも徐々に軽減します。
注意点
インプラント挿入部位は、レーザー治療などの美容施術や、血圧測定、予防接種注射が行えません。これはインプラント破損の原因となるためです。また、挿入部に強い衝撃を受けた場合、インプラントの破損リスクが高まるため、スポーツや運動の際に注意する必要があります。
ネクスプラノン抜去の流れ
抜去は局所麻酔にて行われます。
二の腕の皮膚を数ミリ切開し、インプラントを抜去します。
継続して皮下インプラントの使用を希望する場合は、切開部もしくは、新しい場所からインプラントを挿入します。
抜去のみを行う場合には止血処置後に1日間包帯を巻きます。その後数日間、保護テープでケアを行います。
まとめ
避妊インプラントの利用者数が多いイギリスなどでは、挿入した女性の約20%に、経血量の減少や月経の停止が確認されました。また、出産4週間後以上であれば、避妊インプラントの使用が可能という特徴もあります。
月経初日~5日までのインプラントの挿入であれば、直後から妊娠を防げます。月経期間以外に挿入した場合、約7日間はコンドームなどの他の方法で避妊を行う必要があります。