「GLP1ダイエット」とは、糖尿病治療薬として使用される注射や飲み薬の成分「GLP1受容体作動薬」を用いたダイエット法です。GLP1受容体作動薬は、脳内の食欲中枢を抑制することで、食欲を抑え、食べ過ぎを防ぎます。
さらに、GLP1受容体作動薬には、脂肪燃焼を促進する効果もあり、体脂肪率や内臓脂肪を減らすこともできます。
また、食後の血糖値上昇を抑制するため、ダイエットによる血糖値の乱高下も防ぎます。このような効果により、短期間で効果的に体重を減らすことができます。
注射や飲み薬を選択する際には、自身のライフスタイルに合った方法を選びましょう。
ただし、注射や飲み薬による副作用もありますので、医師と十分な相談をすることが重要です。
つらい食欲制限や運動なしでストレスフリーなダイエットができると、注目を集めています。
今回は、GLP-1ダイエットの効果的な注射と飲み薬の使い方などについてまとめました。
この記事の執筆者
石川 聡司
(新さっぽろウィメンズ ヘルス&ビューティークリニック 院長)
北海道大学医学部卒業後、北海道大学病院、帯広厚生病院など地域の中核病院に勤務。品川美容外科にて美容外科医として3年間の研鑽を積み、2021年に婦人科・美容外科を併設した当院を開業。
婦人科全般の診療のほか、美容医療では美肌治療、美容整形をはじめ脱毛・アートメイクなど幅広く対応する。
GLP-1ダイエット注射(飲み薬)の効果
「GLP-1ダイエット」は、GLP-1受容体作動薬を投与して体重減少を促すダイエット治療です。
主に以下のような効果が期待できます。
- 血糖値を下げる
- 食欲を抑制する・基礎代謝を高める
GLP-1は、もともと人間の体内に存在する消化管ホルモンです。小腸下部から大腸で分泌されるホルモンです。インスリンの分泌を促進させ、血糖値を下げる作用があります。
また、脳の視床下部にある満腹中枢を刺激して、食欲を抑える効果もあります。
しかし、GLP-1の量には個人差があり、遺伝や食生活の乱れ・運動不足などが原因でうまく分泌されなくなる場合もあります。
分泌量が少ない人は、「食欲を抑えられない」「間食が多くなる」傾向があり、太りやすいと言われています。
そこで、GLP-1ダイエット注射によって体内のGLP-1を補うことで、食事量のコントロールが可能です。
満腹中枢が刺激されて空腹感が緩和するとともに、胃の中に食べ物が残っている時間が長くなり「お腹いっぱい」と感じやすくなるため、食べ過ぎを防ぎます。
また、褐色脂肪細胞の熱産生が高まることによる基礎代謝の上昇と、白色脂肪細胞の脂肪分解を促進することで、痩せやすい体へと導く効果もあります。
GLP-1ダイエット注射のメリット
無理な食事制限や運動をせずにダイエット効果が期待できるため、継続しやすい点が大きなメリット。
ストレスや身体への負担が大きければ、モチベーションの維持が難しくなり、ダイエットが失敗してしまうリスクが高まります。
反動で食べ過ぎてしまい、もとより太ってしまうケースもあるでしょう。
GLP-1ダイエット注射は、自然に食欲を抑えてシェイプアップを図るため、「無理な食事制限は避けたい」「辛い運動をしたくない」という方に向いています。
効果実感までの期間・回数
基本的に1日1回、少量ずつ投与を行います。
ただし、効果を実感してからも継続することが重要です。体重の変化に満足してすぐに投与をやめると、食欲が元に戻りリバウンドしてしまうおそれがあります。
最低でも3ヶ月は続けて習慣化させるのが望ましいです。
ダイエット注射の値段
1回の投与量は人によって異なるため、1本で何日使用できるかは一概には言えません。
たとえば、ビクトーザ(1本18mg)の場合、投与量が1日0.6mgなら25-30日分、1日1.2mgなら15日分、1日1.8mgでは10日分となります。
1ヶ月にかかる値段は、投与量に応じて2万円〜12万円と、大きな差が出る点を理解しておきましょう。
定額コースを実施するなど、クリニックによって料金体系は違うため、詳しくは公式サイトやカウンセリングで確認してください。
個人輸入などで販売しているものは、粗悪品や偽物の可能性もありリスクが高いため、注意しましょう。
ダイエット注射は保険適用になる?
GLP-1ダイエット注射は保険適用にはなりません。アメリカでは肥満治療薬として認められていますが、日本では糖尿病の治療に対してのみ保険対象となります。
ダイエット目的(美容目的)の場合は自由診療のため、全額自己負担です。
GLP-1ダイエット注射の種類(商品名)
GLP-1ダイエット注射にはさまざまな種類があり、投与量や回数・効果が異なります。
ここでは、代表的な日本のクリニックでも取り扱いの多い5つの商品をご紹介します。
商品名 | 主成分 | 投与頻度 | 薬剤量(1本) | 1回あたりの投与量 |
ビクトーザ | リラグルチド | 1日1回 | 18mg | 0.3mg〜1.8mg |
サクセンダ | リラグルチド | 1日1回 | 18mg | 0.6mg〜3.0mg |
オゼンピック | セマグルチド | 週1回 | 18mg | 0.25mg〜1.0mg |
トルリシティ | デュラグルチド | 週1回 | 0.75mg | 0.75mg |
リベルサス(経口摂取) | セマグルチド | 1日1回 | 3mg〜14mg | 3mg〜14mg |
ビクトーザ
抗肥満作用を持つ成分「リラグルチド」が含まれた薬剤。
肥満治療としては承認されていないため自由診療となりますが、痛みや副作用が少ない点がメリットで、多くの美容クリニックで取り扱っています。
また目盛りが細かく、より繊細な投与量の調整が可能です。
施術の主な副作用・リスク:治療初期に胃部不快感、胃の膨満感、吐き気、便秘、下痢といった消化器症状が出ることがあります。症状は軽減されていきますが、副作用でお困りの方は医師にご相談ください。自己注射により、稀に内出血などの症状がみられることがあります。
サクセンダ
ビクトーザと同一成分・同一薬効の薬剤です。
ビクトーザと異なる点は1回の最大投与量。3.0mgまで投与が可能なため、より高い食欲抑制効果が期待できます。
オゼンピック
高い食欲抑制効果・体重減少効果が認められている「セマグルチド」を主成分としています。
前述した2つの薬剤と違って、1週間に一度の投与ですむことが大きな特徴です。
飲み忘れの心配も少ないですが、副作用が強く出やすい傾向があります。
トルリシティ
注射針があらかじめ取り付けられた、1回使い切りタイプ。週1回投与で利便性が高く、すぐれた血糖降下作用を持ちます。
しかし他の商品と比べると、体重減少効果はあまり期待できないと言われています。
リベルサス(経口摂取)
リベルサスは注射ではなく、経口摂取タイプです。
オゼンピックと同様の成分が含まれており、高い効果が見込めます。これまで注射に抵抗がありダイエット注射に挑戦できなかった方でも、気軽に利用できる点が大きなメリットです。
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ダイエット注射の使い方・注意点
ダイエット注射の主な使い方や注意点・注入部位・投与量などについて詳しく見ていきましょう。
自宅での自己注射が可能
クリニックで処方してもらった後は、基本的に通院は必要ありません。
以下は、1日1回投与するタイプの基本的な打ち方です。
- 本体のキャップを外し、アルコール綿でゴム栓部分を消毒
- 付属の注射針を取り付ける
- 空打ちをして空気を抜く
- ダイアルを自分が使用する量にセット
- 注入部位をアルコール消毒
- 皮膚をつまんで垂直に刺し、ダイアルが0mgになるまで注入
- 使い終わった注射針を適切に処理して終了
商品によって使い方は異なりますので、カウンセリング時に必ず確認してください。
注入可能な部位
お腹や太もも・二の腕などの皮下に注入します。
毎回同じ部位に注射すると、赤みやしこりが生じるおそれがあるため、前回の部位から2〜3cm位置をずらして注射するのがポイントです。
投与量について
通常は少量からスタートし、1週間単位で徐々に増やしていきます。
投与量はダイエット注射の種類や、本人の身長・体重などによっても異なります。医師の指導のもと、投与量を調整しましょう。
【例: ビクトーザの用量・用法】
- 1日1回0.3mgから投与開始
- 1週間以上の間隔で0.3mgずつ増量
- 0.6mg〜0.9mgを維持量として継続
- 食欲抑制効果が見られない場合はさらに0.3mgずつ増量
- 効果が見られれば、その量を維持量とする(最大1日1.8mgまで)
ダイエット注射が向いていない方
GLP-1ダイエット注射は、食欲や空腹感を抑えて摂取カロリーをコントロールし、体重を減少させる治療です。
そのため、「少食な方」「食事量のコントロールができている方」「間食をほとんどしない方」には、高い効果は期待できません。
もともと痩せ型体質の方も、大きな変化は望めないでしょう。
また以下にあてはまる方は、GLP-1ダイエット注射を受けることができません。
- 20歳未満
- 糖尿病の治療中
- 重度の胃腸障害がある方
- 膵炎の既往歴がある方
- 甲状腺疾患、膵臓疾患の方
- 妊娠中、授乳中
- 低血糖を起こす恐れがある方
ダイエット注射の副作用・危険性
高い体重減少効果が期待できるGLP-1ダイエット注射ですが、以下のような副作用が生じる場合があります。
- 吐き気
- 腹痛
- 食欲不振
- 消化不良
- 便秘
- 下痢
- 倦怠感
- 頭痛
- 低血糖
- 内出血
とくに多く見られるのが、胃もたれや胸やけ・下痢・便秘といった消化器系の副作用です。治療初期や、投与量を増量した際に出やすい傾向があります。
また、自己注射の仕方によっては、内出血が出る場合も。
症状は軽度で数日〜数週間で治まるケースがほとんどですが、深刻化した場合は投与を中止したり、投与量を減らしたりしなければなりません。
異変を感じたら、早めにクリニックを受診してください。
注射と経口薬はどちらを選ぶべき?
GLP-1注射薬
メリット
- 吸収が早い:注射により、薬が直接体内に入り、効き目が早く現れます。
- 安定した効果:経口薬に比べて、血中濃度が一定に保たれやすく、持続的な効果が期待できます。
- 週1回の使用が可能:一部の製品では、毎日ではなく週1回の注射で十分な効果が得られるため、管理がしやすいです。
デメリット
- 注射が必要:自分で注射を行うため、針に抵抗がある人には不向きです。
- 局所反応:注射部位に腫れや赤みが出ることがあり、不快に感じることもあります。
- 保管・携帯が不便:注射薬は温度管理が必要な場合があり、携帯や保管が少し面倒です。
GLP-1経口薬
メリット
- 服用が簡単:錠剤やカプセルの形状で、注射が苦手な人でも手軽に使用できます。
- 持ち運びや保管が便利:経口薬は冷蔵保存が不要なものが多く、持ち運びが簡単です。
- 日常生活に取り入れやすい:食事と一緒に服用するだけで済むため、日常的な習慣にしやすいです。
デメリット
- 吸収の安定性が低い:経口薬は、胃腸の状態によって吸収が左右されやすく、効果が一定でないことがあります。
- 毎日服用が必要:効果を持続させるためには、毎日服用する必要がある製品が多いです。
- 効果がやや弱い可能性:注射薬と比べて効果がやや弱いとされている場合があります。
選び方のポイント
- 注射薬は、強い効果を求める場合や、安定した効果を期待したい人に向いています。また、注射に抵抗がなく、週1回の管理で済むことを好む方におすすめです。
- 経口薬は、注射に抵抗がある人や、毎日の薬服用を負担に感じない人に適しています。また、外出や旅行が多い場合にも、持ち運びが便利です。
注射薬の料金目安
- 料金の目安は、¥30,000〜¥50,000/月。
- 強い効果を求めたい方や、安定した効果を期待する方に適しています。
- 注射が苦手でない方、週1回の管理で済ませたい方におすすめ。
経口薬の料金目安
- 料金の目安は、¥20,000〜¥40,000/月。
- 注射が苦手な方や、外出や旅行が多い方に便利。
- 効果が個人の吸収能力に左右されやすく、毎日服用する必要があります。
タイプ | メリット | デメリット | 1ヶ月の料金(目安) |
---|---|---|---|
注射薬 | – 効果が早く安定している – 週1回の使用が可能 | – 注射が必要 – 局所反応がある場合がある – 保管が不便 | ¥30,000〜¥50,000 |
経口薬 | – 服用が簡単 – 保管・持ち運びが便利 | – 効果の安定性が注射薬に比べて低い – 毎日服用が必要 | ¥20,000〜¥40,000 |
選択肢としては、治療の効果を重視するか、日常生活の中での取り入れやすさを優先するかに応じて選ぶのが良いでしょう。
特記事項
GLP-1ダイエット注射で扱うGLP-1受容体作動薬は、2型糖尿病治療薬として開発されたものです。日本では肥満治療としては未承認のため、自由診療となります。
・日本では2010年に2型糖尿病治療薬として厚生労働省より認可されております。
ビクトーザは2014年12月にアメリカで、2015年3月にヨーロッパで肥満治療として承認されています。
まとめ
GLP-1ダイエットの概要
GLP-1ダイエットとは、GLP-1受容体作動薬を使用し、食欲抑制や満腹感を促進することで体重を減少させる治療法です。GLP-1は本来、糖尿病治療薬として使用されているホルモンですが、ダイエットにも効果的であることが確認されています。
注射薬の使い方と特徴
- 使い方: 自己注射による投与。週1回の注射で使用するものが多いです。
- メリット: 効果が早く安定しており、吸収効率が高い。週1回の注射で済むため、管理が容易。
- デメリット: 注射が必要であり、針が苦手な人には不向き。また、保管に注意が必要で、注射部位の反応(赤みや腫れ)が発生することがあります。
経口薬の使い方と特徴
- 使い方: 錠剤やカプセルを毎日服用。
- メリット: 注射が不要で、服用が簡単。冷蔵保存の必要がないため、携帯や保管が便利。
- デメリット: 毎日服用が必要で、胃腸の状態によって吸収が左右されるため、効果が注射より不安定な場合がある。
どちらを選ぶべきか
- 注射薬は、より強い効果や安定した効果を期待する場合に適しています。また、週1回の管理で済むため、注射に抵抗がなければ利便性も高いです。
- 経口薬は、注射が苦手な人や毎日の服用に抵抗がない人に向いており、持ち運びや保管がしやすいため、外出が多い人に便利です。
最後までお読みくださり、ありがとうございました!
参考文献
Miyoshi, Hideaki. 日本臨床医学ジャーナル. 78(7):1139-1145,2020.
GLP-1受容体作動薬 (Ⅲ.糖尿病治療薬に関する最近の話題 3.インクレチン関連薬)
http://hdl.handle.net/2115/78867
NMCD Volume30, Issue4 P616-624, April 12,2020 https://www.nmcd-journal.com/article/S0939-4753(19)30452-1/fulltext