葉酸は身体の細胞を作ったり造血作用をつかさどっていたりと、身体にとって欠かせない栄養素です。※1
食事やサプリメントで積極的に摂取しているという方も多いかと思いますが、そこで気になるのが「葉酸のとりすぎによる副作用」です。
「葉酸の過剰摂取によって自閉症のリスクが高まる」という話を聞くと、赤ちゃんを望まれている方は特に心配ですよね。
本記事では、葉酸のとりすぎによる副作用とリスクの有無、症状について解説しています。
- 葉酸の過剰摂取による副作用や症状
- 妊娠中の葉酸の過剰摂取と自閉症リスクの関係
- どれくらいの量が“とりすぎ”になるのかの基準
この記事の執筆者
石川 聡司 日本産科婦人科学会認定 産婦人科専門医
(新さっぽろウィメンズ ヘルス&ビューティークリニック 院長)
北海道大学医学部卒業後、北海道大学病院、帯広厚生病院など地域の中核病院に勤務。2021年に婦人科・美容外科を併設した当院を開業。
- 資格:日本産科婦人科学会認定 産婦人科専門医
- 所属:日本美容外科学会JSAS、日本女性医学学会、日本産婦人科学会、日本周産期新生児学会
葉酸のとりすぎによる副作用症状やリスクとは
葉酸の副作用について解説する前に
「葉酸の過剰摂取やとりすぎ」のお話を進めていく上で必ず知っておきたい知識として「食事性葉酸」と「狭義の葉酸」の違いについてがあります。
葉酸には食物から摂取できる「食事性葉酸」とサプリメントや葉酸強化食品から摂取できる「狭義の葉酸」の2種類が存在します。
食事性葉酸 | 食事から摂取できる葉酸 |
狭義の葉酸 | サプリメントや葉酸強化食品から摂取できる葉酸 |
このうち、野菜などに豊富に含まれる「食事性葉酸」は調理段階や身体の中で葉酸の働きが失われやすい性質を持ちます。
そのため、葉酸を豊富に含む食品を大量に食べたとしても過剰摂取になるとは考えにくく、実際に食事性葉酸の過剰摂取による健康被害も報告されていません。※2
対して、葉酸サプリや強化食品に含まれている「狭義の葉酸」は、人の手によって作られた葉酸です。
環境の変化などで葉酸成分が失われにくいため、食事性葉酸に比べると身体の中でダイレクトに働くことができる半面、過剰摂取による副作用のリスクの恐れがあります。
本記事でお話する葉酸の過剰摂取やとりすぎによるトラブルは、狭義の葉酸(葉酸サプリ)を摂取した場合に限定したお話となります。
葉酸のとりすぎによる副作用症状やリスクについては次のようなものがあります。具体的な原因とともに解説します。
神経症状の出現や悪化は葉酸の過剰摂取が主な原因
葉酸の過剰摂取が直接的な原因となって起こる副作用としては、神経症状が挙げられます。
神経は身体の細部にまで張り巡らされているため、症状も多岐に渡ったものとなります。
神経症状の例※9
- 痛み
- 筋肉のこわばりや痙攣
- 皮膚のしびれや痛みなどの感覚変化
- めまい
- 感覚系統の変化
- 意識障害・睡眠障害など
ただし、これらの症状は狭義の葉酸(人工的な葉酸)を1日あたり5㎎以上摂取した場合に起こる可能性が高くなるとされています。
適切な摂取目安量を守れば、基本的にこのような副作用が起こる心配はありません。※2
貧血、めまい、動機、息切れはビタミンB12の欠乏の可能性
葉酸とビタミンB12はその働きがよく似ていることから、葉酸の過剰摂取が原因でビタミンB12欠乏症を見落としてしまうケースが報告されています。
ビタミンB12欠乏症の主な症状は貧血ですが、貧血による派生症状として、めまい・動機・疲労感・脾臓や肝臓の腫れが現れることもあります。※2 ※10
葉酸の過剰摂取が直接的な原因の副作用ではないものの、副次的な副作用やリスクの可能性となるため、普段から貧血気味の方が葉酸サプリを摂取する際にはご注意ください。
吐き気や嘔吐などは肝臓のアレルギーの可能性
食べ物や薬に対して肝臓がアレルギー反応を起こし、吐き気やかゆみなどの症状が出現することがあります。これを薬害性肝機能障害と呼びます。※3
“薬害性”という名前がついているものの、薬だけでなく、食物やサプリメントなど、あらゆる食品で起こる可能性があり、葉酸も例外ではありません。
薬害性肝機能障害の主な症状
- 吐き気
- 嘔吐
- 発熱
- かゆみ など
薬害性肝機能障害は誰にでも起こる可能性があるものですので、上記のような症状が見られる場合はただちに葉酸の摂取を中止し、必要に応じて医師に相談しましょう。
下痢や便秘はサプリメントの成分による可能性
葉酸サプリの摂取が原因で下痢や便秘になったという声がありますが、葉酸成分によって下痢や便秘になるわけではなく、サプリメントに含まれる乳糖やマグネシウムが影響している可能性が考えられます。※4
葉酸そのものではなくサプリメントがお腹に合っていないと考えられるため、葉酸サプリを摂取して下痢や便秘になる場合は、乳糖やマグネシウムを配合していないサプリメントに切り替えてみましょう。
葉酸のとりすぎは胎児にもリスクがある?
妊娠時には積極的な葉酸の摂取が推奨されていますが、妊娠時の葉酸サプリメント摂取により胎児に喘息などのリスクが高くなるという情報もあります。
実際のところはどうなのでしょうか。
日本では、食事性葉酸、葉酸サプリいずれも、適切な量の葉酸摂取であれば胎児の喘息発症に因果関係はないと報告されています。※5
また、中国で行われた研究によれば、妊娠中の1日あたりの葉酸摂取量が36000μg未満で喘息発症リスク低下、72000μg以上でリスク増加が認められたという報告があります。※6
日本では1日あたりの葉酸摂取量(狭義の葉酸が対象)を1㎎(1000μg)としているため、72000μgというと相当な量です。
これほどまで大量に摂取すれば胎児にリスクはあると考えられますが、適量さえ守っていれば葉酸サプリは胎児にとってメリットの大きい栄養素となります。
1日の摂取量を必ず守りながら、妊娠中には食事性葉酸+狭義の葉酸を適切に摂取するようにしましょう。
妊娠中の葉過剰摂取は自閉症リスクが上昇するというのは本当?
妊娠中の葉酸摂取、または過剰摂取すると自閉症リスクが上昇すると耳にすることがあります。
米国では妊娠の葉酸添加政策後に自閉症スペクトラムの発症率が上昇したことから、「葉酸サプリの摂取により自閉症リスクが高まるのではないか?」と疑う声が挙げられたようです。
ところが、近年の研究では葉酸サプリの摂取は、自閉症スペクトラムの予防や防止に有益であるという報告がなされています。※7
また、妊娠中の葉酸摂取は胎児の自閉症スペクトラムだけでなく、先天性異常や奇形のリスクも回避できるとされており、日本をはじめとする世界の諸外国では妊婦を望んでいる女性に葉酸の摂取が推奨されています。※8
葉酸の過剰摂取により自閉症スペクトラムのリスクが高まるという報告自体は挙がっていないものの、既出のとおり、葉酸の過剰摂取には副作用が起こる可能性があります。必ず推奨量を守るようにしましょう。
葉酸はどのくらいの量だと「摂り過ぎ」になるのか
具体的にどれくらいの量の葉酸を摂取すると、「とりすぎ」「過剰摂取」になってしまうのでしょうか。
過剰摂取にならないようにするには、厚生労働省が定めている「1日の推奨量」を目安にする、「耐容上限量」を超えない摂取が大切です。
推奨量や耐用上限量は、年齢や身体の状態に応じて異なります。性別や年齢に応じた葉酸の「1日あたりの目標摂取値」「1日あたりの耐用上限量」は下記のとおりです。
妊娠前、妊娠中、授乳中の女性の場合
葉酸の摂取目安と耐容上限量
1日あたりの目標摂取値 | 1日あたりの耐容上限量 (狭義の葉酸) | |
---|---|---|
妊娠の計画・可能性がある女性 (妊娠1ヵ月以上前から) | 食物から240㎍+サプリメントから400㎍ | 12~29歳/900μg 30~64歳/1000μg |
妊娠初期の妊婦 (妊娠直後から3ヵ月まで) | 食物から240㎍+サプリメントから400㎍ | |
妊娠中期・後期の妊婦 | 食物から480㎍ | |
授乳婦 | 食物から340㎍ |
※食品での葉酸というのは、食事性葉酸のこと
妊娠初期には胎児の発育に葉酸が積極的に使われるため、妊娠前から初期にかけては食事からの葉酸摂取に加え、サプリメントからの葉酸摂取が推奨量されています。
葉酸の耐容上限量は狭義の葉酸に限定しているため、食べ物からの葉酸摂取についてはとりすぎる心配はありません。
つまり、葉酸サプリを900μgないし1000μg以上の摂取がとりすぎ・過剰摂取ラインとなります。
葉酸が付加された強化食品は食事性葉酸ではない点には注意!
サプリメント以外の食品にも、狭義の葉酸が使用されているケースがあります。たとえば、葉酸が付加されたシリアルやグミなどの加工食品が主な例です。
葉酸強化食品は食べ物ではありますが、食事性葉酸ではないため、食べすぎは葉酸の過剰摂取につながるおそれがあります。
食品に記載されている葉酸量を確認し、過剰摂取にならないよう気を付けましょう。
妊娠の予定がない女性、男性、子供の場合
葉酸の摂取目安と耐容上限量
1日あたりの目標摂取値 | 1日あたりの耐容上限量 (狭義の葉酸) | |
---|---|---|
1~2歳 | 90㎍ | 200μg |
3~5歳 | 110㎍ | 300μg |
6~7歳 | 140㎍ | 400μg |
8~9歳 | 160㎍ | 500μg |
10~11歳 | 190㎍ | 700μg |
12~29歳 | 240㎍ | 900μg |
30~64歳 | 240㎍ | 1000μg |
65~75歳以上 | 240㎍ | 900μg |
妊娠を計画・予定していない女性、男性や子供に関しても、食事からの葉酸摂取については過剰摂取やとりすぎの心配をする必要がありませんが、狭義の葉酸については耐容上限量が設定されています。
特に1~11歳の子供では、大人の耐容上限量を大きく下回る数値が設定されているため、葉酸サプリ摂取時には特に過剰摂取の注意が必要です。
※子供の場合は、バランスのよい食事での葉酸摂取でも十分に摂取目安量を満たせます。
まとめ
- 食事性葉酸(食品からの摂取)は、とりすぎる心配がない
- 狭義の葉酸(葉酸サプリなど人工的な葉酸)は、1日900μg~1000μg以上摂取するととりすぎになる
- 子供は葉酸の耐容上限量が大人よりも低い
葉酸をサプリメントなど健康食品から摂取するときは、1日の目安を必ず守りましょう。特に葉酸強化食品はとりすぎに繋がる可能性がありますので、含まれる葉酸量を確認しながら取り入れてくださいね。
参考文献
- 「日本人の食事摂取基準(2020年版)」策定検討会報告書 https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/000586553.pdf
- 大井静雄(2008)「赤ちゃんを元気にする栄養の話」 ㈱保健同人社/発行
- 健康食品の手引きp8 https://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/iyaku/syoku-anzen/dl/kenkou_shokuhin00.pdf
- 乳糖不耐症 国際酪農連盟日本国内委員会 https://www.j-milk.jp/jidf/wp-content/uploads/2015/06/j-Lactose-intolerance.pdf
- 葉酸による神経管閉鎖障害の予防:発生率,リスク因子,葉酸サプリメントの摂取,行政への要望 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjspnm/57/1/57_8/_pdf
- Liu Yang et al. 2014. High dose of maternal folic acid supplementation is associated to infant asthma. PMID: 25449200 DOI: 10.1016/j.fct.2014.11.006 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25449200/
- 葉酸による神経管閉鎖障害の予防:発生率,リスク因子,葉酸サプリメントの摂取,行政への要望 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjspnm/57/1/57_8/_pdf
- 神経管閉鎖障害の発症リスク低減のための妊娠可能な年齢の女性等に対する葉酸の摂取に関する情報提供要領 https://www.mhlw.go.jp/www1/houdou/1212/h1228-1_18.html
- 神経症状とは – MSDマニュアル家庭版 https://www.msdmanuals.com/ja-jp/%E3%83%9B%E3%83%BC%E3%83%A0/multimedia/table/%E7%A5%9E%E7%B5%8C%E7%97%87%E7%8A%B6%E3%81%A8%E3%81%AF
- ビタミンB12欠乏症 – 11. 栄養障害 – MSDマニュアル家庭版 https://www.msdmanuals.com/ja-jp/%E3%83%9B%E3%83%BC%E3%83%A0/11-%E6%A0%84%E9%A4%8A%E9%9A%9C%E5%AE%B3/%E3%83%93%E3%82%BF%E3%83%9F%E3%83%B3/%E3%83%93%E3%82%BF%E3%83%9F%E3%83%B3b12%E6%AC%A0%E4%B9%8F%E7%97%87