葉酸と妊娠は密接な関係を持つことから、「葉酸を摂ると妊娠しやすくなる」と耳にした経験のある方は多いのではないでしょうか。
本記事では、葉酸を摂ると妊娠しやすくなるのは事実なのか解説するほか、妊活中の葉酸摂取の効果についてまとめています。
これから妊活に取り組まれる方、現在妊活中の方はぜひ参考にしてくださいね。
この記事の執筆者
石川 聡司 日本産科婦人科学会認定 産婦人科専門医
(新さっぽろウィメンズ ヘルス&ビューティークリニック 院長)
北海道大学医学部卒業後、北海道大学病院、帯広厚生病院など地域の中核病院に勤務。2021年に婦人科・美容外科を併設した当院を開業。
- 資格:日本産科婦人科学会認定 産婦人科専門医
- 所属:日本美容外科学会JSAS、日本女性医学学会、日本産婦人科学会、日本周産期新生児学会
\ 産婦人科専門医が辛口比較 /
「葉酸摂取で妊娠しやすくなる」にエビデンスはなし
結論から申し上げますと、葉酸の摂取が妊娠のしやすさに影響する事実は、今のところ確認されていません。
葉酸摂取と妊娠率上昇についての調査や研究はこれまで数多く取り上げられてはいますが、未だ両者の関係は明確に確立されてはいないのが現状です。
葉酸はわたしたちの健康を支える大切な栄養素であり、適切な葉酸の摂取は妊娠を準備するための身体作りに良い影響を与えてくれるのは確かでしょう。
その一方で、直接的に葉酸が妊娠を手助けするというエビデンスは存在しません。
ただし妊活中の葉酸摂取は大切
妊娠のしやすさと葉酸に直接的な関係はないものの、妊活中には積極的に葉酸を摂取するべきだと言われています。※1 ※2
これは妊娠のしやすさとは関係なく、妊活中の葉酸摂取は赤ちゃんがお腹の中で健やかに成長するための大きな助けとなります。※3
生まれてくる赤ちゃんのために、妊活中は積極的な葉酸摂取を心がけましょう。
葉酸が必要な時期・摂取量を詳しく見る
葉酸を摂ると妊娠しやすいと言われる理由は?
葉酸を摂取すると妊娠しやすいと言われるようになった理由としては、次のようなものが考えられます。
妊娠前から葉酸の摂取が勧められているから
積極的な葉酸摂取は、妊娠してからではなく、妊娠前(正確には妊娠1ヶ月以上前)からが理想だとされています。※2
“妊娠前から”の摂取が推奨されている本来の理由は、胎児の神経管閉鎖障害発症リスクが低減することが期待出来るため。
ところが、この部分が一人歩きしてしまい「妊娠前から葉酸を摂取すれば妊娠しやすくなる」と勘違いが起こっていると考えられます。
葉酸には月経時の不快感改善やホルモンを整える効果があるから
葉酸は細胞やDNAをつくることが主な働きとされていますが、他にも様々な役割を持っています。
葉酸のはたらき※3
- 造血作用
- ホルモンバランスを整える
- 月経の不快症状の緩和
- 代謝を助ける
- 神経の修復
- 抗酸化作用 など
妊娠のしにくさには様々な要因が考えられますが、ホルモンバランスの乱れや月経不順が何らかの理由で妊娠の妨げとなっている可能性はゼロではありません。
葉酸の摂取により、ホルモンバランスの乱れや月経時の不調が快方に向かい、結果として妊娠の妨げとなる一要因が取り除かれるという考え方もできます。
広い視点で考えると、葉酸の働きが妊娠しやすい身体の一助になるとの判断もできそうです。これが少し極端な表現となって「葉酸は妊娠しやすくする」と言われるようになったのだと考えられます。
「妊活」葉酸サプリと謳う商品が販売されているから
妊娠前からの葉酸摂取が勧められているため、各メーカーからは様々な葉酸商品が販売されています。
中には「妊活専用の葉酸サプリ」「妊活中葉酸サプリ」など「妊活」と名前につく商品もあり、これを見て「葉酸を飲めば妊娠しやすくなる」と勘違いしてしまわれる方も一定数いらっしゃるようです。
しかし、妊活専用の葉酸サプリといっても、葉酸サプリ自体が妊娠に直接作用するものではありません。
こういった商品は、妊娠に理想的な身体に近づけるためのサポートになる栄養素に加えて、妊娠前からの摂取が推奨されている葉酸量が配合されているものです。
また、妊活中には目に見えないプレッシャーを感じる方も少なくなく、そういった不安や緊張を和らげるGABAなどの成分を配合している葉酸サプリもあります。
妊娠のしやすさとは直接関係はありませんが、妊活中専用の商品は葉酸はもちろん、鉄分や亜鉛など必要な栄養成分が網羅されていて心強い味方になってくれるものですので、上手に利用されるとよいでしょう。
葉酸は妊娠前~妊娠初期に必要な栄養素
厚生労働省からは妊娠1ヶ月以上前から妊娠3ヶ月以上の方に対して、「1日あたり食事から摂取する葉酸240μg」に加え、「葉酸サプリなど健康食品から400μgの葉酸摂取」が推奨されています。※2
ここでは、なぜお腹の中の赤ちゃんに葉酸が必要とされているのか、なぜ妊娠前から葉酸を摂取しなければならないのかについて解説します。
葉酸は赤ちゃんの先天性異常リスクを減らせる
お腹の中で元気な赤ちゃんが育つためには、たんぱく質・ビタミン・ミネラルをはじめとする様々な栄養素が必要になります。
中でも、赤ちゃんの脳や中枢神経をつくるために必要不可欠なのが葉酸の存在です。
近年の諸外国の研究によって、妊婦さんの身体の中で葉酸が不足してしまうと胎児の脳や脊髄に先天性異常が起こるリスクが高くなることが明らかになりました。
それと同時に、妊婦の葉酸摂取は胎児の先天性リスクを減らせることが分かったのです。※2 ※4
その結果を受け、日本でも2000年に入ってから、妊娠前から妊娠3ヶ月の女性に対して積極的な葉酸摂取が推奨されるようになりました。
妊娠中の葉酸摂取は、脳の発育不足や欠損、脊髄が飛び出すことによる排泄障害といった神経管閉鎖障害(しんけいかんへいさしょうがい)だけでなく、ダウン症の予防にも繋がると言われています。※5
葉酸が“妊活前”から必要な理由
葉酸の積極的な摂取は、妊娠してからではなく“妊娠前”、つまり妊活中から推奨されているのはなぜなのでしょうか。
正確には、積極的な葉酸摂取は妊娠の1ヶ月以上前からが望ましいとされています。
これは、赤ちゃんの脳や脊髄の元となる部分が妊娠6週目までに作られるためです。※2 ※3
多くの方の場合、妊娠に気付かれるのは妊娠6週目を過ぎてからであり、妊娠に気づいてから葉酸を摂取していては本当に葉酸が必要な時期を逃してしまう可能性があります。
先天性異常を予防するためには、妊娠直後から6週目までにしっかりと葉酸を摂取し、必要な栄養素を胎児に渡してあげましょう。
もちろん、葉酸を摂取していなかったからといって必ず先天性異常が現れるわけではありませんし、葉酸をしっかり摂取していても異常が起こる場合もあります。
先天性異常はあらゆる要因が複合的に重なり合って起こるものですが、葉酸の積極的な摂取によりリスクを減らせるのは確かです。
妊娠前からの葉酸摂取を詳しく見る
妊活を始めたら積極的な葉酸摂取を
妊活に入った時点から葉酸の積極的な摂取を心がけたいところですが、どのような形で摂取するのが望ましいのでしょうか。
実は葉酸は身近な食材に多く含まれており、比較的摂取しやすい栄養素だと言われています。
意識的に食事で葉酸を摂取する
葉酸を積極的にとりたい場合には、まずは食事からの葉酸摂取を心がけてください。
葉酸だけでなく、ビタミンやミネラルなどその他の栄養素の摂取もできるため、バランス良くさまざまな食材を摂取するようにしましょう。
葉酸を豊富に含んでいる食材には、次のようなものがあります。
葉酸を多く含む食物※3
- ほうれん草
- アスパラガス
- 納豆
- ソラマメ
- アボカド
- のり
- いちご
- オレンジ など
葉酸は鶏や牛のレバーにも多く含まれているものの、動物性のレバーには妊娠前~妊娠初期に摂取が望ましくないビタミンAが大量に含まれているため、多量の摂取は避けるようにしてください。※6
食物に含まれる葉酸は水や熱に弱い性質を持つため、サラダにして生のまま食べたり、スープに入れて汁ごと飲むと少しでも多く摂取できるようになります。
葉酸が含まれる食べ物を詳しく見る
妊活中、妊娠初期には葉酸サプリも利用しましょう
厚生労働省からは、妊活中と妊娠初期には食事からの葉酸に加え、葉酸サプリなどから1日あたり400μgの葉酸摂取が推奨されています。
葉酸サプリは効率よく豊富な葉酸が摂取できますし、つわりが酷くて食事がとれない時期であっても栄養素を摂取できる助けになります。
デリケートな時期のサプリメント摂取に疑問や抵抗感がある方もいらっしゃるかもしれませんが、葉酸サプリの摂取については、有効性や安全性に配慮された上で国から推奨されているものです。
ただし、自分の身体と相性が良く、信頼できる葉酸サプリを選んで飲むようにしてください。
葉酸サプリの利用に不安を感じる方は、主治医と相談しながらサプリを選定するといいでしょう。
葉酸サプリメント詳しく見る
その他妊活中に心がけたいこと
妊活中には葉酸の摂取だけが重要なわけではなく、あらゆる栄養素がバランス良く必要になりますし、妊婦に不適切なファクターを排除していく必要があります。
妊活中に気を付けたい点を下記にまとめました。
食生活
健やかな赤ちゃんの成長には、妊活中からの適切な食生活管理が大切です。
あらゆる栄養素は多すぎても少なすぎても良くありません。栄養バランスに気を付けた食事を心がけるようにしましょう。
妊娠前からの食事の目安としては、厚生労働省が発行している「妊娠前からはじめる妊産婦のための食生活指針」をぜひ参考にしてみてください。
生活習慣
食生活だけでなく、規則正しい生活習慣も妊活中には大切です。
赤ちゃんにとって煙草やお酒は有害であると医学的に証明されていますので、禁酒や禁煙はできるに越したことはありません。※6
妊娠前からは節度を持った飲酒を心がけ、なるべく早い段階で禁煙しておくようにしましょう。
適度な運動は心身ともに健康に良い効果をもたらしてくれますので、妊活にも良い影響を与えてくれます。運動不足の方は妊娠前から運動する習慣を身につけておきましょう。
また、しっかりと睡眠や休息を確保し、健康的な生活を心がけてくださいね。
妊活時期には妊娠へのプレッシャーから精神的に疲れてしまう方も少なくありません。ストレスも身体に有害に働いてしまい、かえって妊娠を妨げてしまう場合もあります。
妊活中には過度に気を張りすぎず、ゆったりとした気持ちで、ぜひ楽しみながら赤ちゃんを迎え入れる準備をされてください。
参考文献
- ママのための食事BOOK 厚生労働省 平成29年度子ども・子育て支援推進調査研究事業 https://www.jri.co.jp/MediaLibrary/file/column/opinion/pdf/180331_ninsanpu_recipe1.pdf
- 神経管閉鎖障害の発症リスク低減のための妊娠可能な年齢の女性等に対する葉酸の摂取に関する情報提供要領 https://www.mhlw.go.jp/www1/houdou/1212/h1228-1_18.html
- 大井静雄(2008)「赤ちゃんを元気にする栄養の話」㈱保健同人社/発行
- 「日本人の食事摂取基準(2020年版)」策定検討会報告書 https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/000586553.pdf
- 葉酸摂取のすすめIncreased Folate Intake isRecommended https://www.jstage.jst.go.jp/article/jcam/6/2/6_2_53/_pdf/-char/ja
- 妊娠前からはじめる妊産婦のための食生活指針~妊娠前から、健康なからだづくりを~解説要領 厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/content/000776926.pdf